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UNIXとOS/2後編(月刊ASCII 1991年3月号6) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

UNIXとOS/2後編をスクラップする。素人ユーザには関係の無い話だったが、OS/2の行く末について当時どう予想していたのかを残しておきたい。
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 MS-Windows3.0の急浮上で,その存在意義を問われる「OS/2」.一方,RISCチップの利点を生かしてオフコン市場にまで拡大しようとする「UNIX」.ふたつのOSの争いに,ここ2~3年の業界動向は明暗を分けるように影響を及ぼした。ビジネス市場はUNIXの天下になるのか?それとも棲み分け共存になるのか?今年の両者の展開がすべてを決める。

UNIX編
動向を握るメインフレーマーは?一歩先を進んできたIBM
 非メインフレーマ外資系メーカー,ディーラーやソフト・ベンダーがいっせいにUNIXシフトを進める潮流は,独自システムで強大なシェアを持つメインフレーマでさえ無視できないものになった.
 昨年、動きが目立ったのが日本アイ・ビー・エム,富士通,日立製作所,日本電気のメインフレーマ上位4社(図1)。各社とも独自の世界を守るためにUNIXにさほど力を入れていなかったが,1989年後半から戦略を転換。その後,急速にUNIX製品の強化に向かう.


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 これを象徴するのが,各社で相次ぐUNIX専門部隊の新設と,RISCマシンを巡る提携関係の広がりだ。
 メインフレーマ各社のUNIXシフトを加速した引き金は,米IBMが1990年2月に全世界で発表したUNIX WSの「RS/6000」。独自開発の新型RISCチップを搭載し,先行する米Sunや米HewlettPackard(HP)を性能面で一気に追い越した.これに対抗して富士通はSun,日立はHP,日電は米MipsComputerSystemsと組み,それぞれ高性能RISCチップの開発を進めている.
 「RISCチップを搭載したUNIXマシンの新機種を今年半ばまでには発表したい」とする日立を筆頭に,国産3社は今年後半にはRS/6000の性能(最高40MIPS)を上回るRISCマシンを投入する構えだ。
 その動きを受けるIBMは,RS/6000発表直前の1月にUNIX専門のマーケティング・グループとしてAIXセンターを新設し,体制作りでも余念がない.また,一方ではソフト・ベンダーに働きかけ、RS/6000のパッケージソフトの品ぞろえも急ピッチで進めている。現在計画しているRS/6000用パッケージは560種類で,今年第1四半期までには全種類が出そろう予定.日立との提携もパッケージの拡充を狙ったものであり,第1弾として日立のソフト開発支援ツールSEWBをRS/6000に移植して販売するという.この提携に両社が合意したのも昨年2月のことであった.
 IBMがこれほどUNIXビジネスに力を入れ始めた背景には欧米におけるAS/400の販売不振が大きく影響している.「AS/400はコストパフォーマンスの点で他社のUNIXマシンに対抗できず,売れ行きが落ち込んでいる」と見るIBMウオッチャもいる.オフコン市場が好調な日本だけは例外的にAS/400が売れているものの,いずれ同じような状況が来ることは十分想定できる.実際,日本IBMがRS/6000用とする560種類のパッケージのうち,約4割はオフコン用に相当するビジネス向けソフトが占める。「日本でもビジネス市場にUNIXがものすごい勢いで入っていくことは確実。近い将来AS/400とRS/6000との競合を真剣に考えなければならない(日本IBM)」とも語る.
 IBMがUNIXに目を向けなければならなくなったのは,米国政府調達基準やオープン・システムに強い関心を寄せる先進ユーザーが「UNIXマシンであること」という制約条件を設けたため,という見方もある。
 しかし,単純にRS/6000ビジネスだけを考えても,今年中に目標どおりの5万台を販売できれば,1台平均200万円として1000億円の売り上げになる.日本IBMの売り上げ高は毎年1000億円程度の伸びであり,RS/6000だけでも新規の売り上げ増をカバーできる計算だ。屋台骨のメインフレーム事業が伸び悩む中にあってRS/6000に並々ならぬ力を注ぐのもうなずける。さらに,メインフレームのESシリーズやパソコンのPS/55にもUNIXを本格的に展開するとなれば,パーソナルマシンのOSの流れがUNIXに移行するのかもしれない.
 IBMのUNIX戦略で注目すべき点は,他社のUNIX製品とどう差別化を図っていくかである。現状を見る限りではIBMの差別化のポイントは3つに絞られる.
 第1はRS/6000に搭載している自社開発のRISCチップ.現時点で業界最高速の性能を発揮しており,IBMの半導体技術を駆使すれば今後も優位性を保つことは可能だ。しかもIBMはこのチップを他社に提供しないため,いち早くRS/6000用のパッケージを普及させれば独自の市場を築くことができる.
 第2はAIXによる差別化.IBMは自社で改良を加えたAIXをUNIX標準化推進団体のOSF(オープン・ソフトウェア財団)に提供した.ところが,OSFはその後AIXのカーネル(中核)部分をカーネギ・メロン大学のMachに切り替えているAIXのカーネルがマイクロチャネル(MCA)に合わせて最適化されていたため、他のメーカーがそのままの形で採用することを嫌ったとも言われる.このあたりは弱いのかもしれないのだが…….
 第3のポイントはメインフレームをはじめとするIBMの既存製品との接続性.IBMはSAAとAIXに共通性を持たせる計画を進めており,たとえばアプリケーション間通信プロトコルのLU6.2などを双方に適用する考えだ。すでに数多くのIBM製品を導入しているユーザーにはSAAとの接続性も大きなセールスポイントになる.


RISCチップが流れを変えた。日立/日電/富士通の国産3社
 着々とUNIX戦略を進めるIBMに負けじと,国産3社も体制強化を急いでいる.
 特に活発なのが日立製作所.IBMやHPとの提携に加えてUNIX製品の強化を狙った大々的な組織改革にも着手し,それまで製品系列ごとに分散していた小型メインフレーム,オフコン,そして2050の設計部隊を集結して「オフィスシステム開発センタ」を昨年8月に新設した。
 「性能面でWSとオフコン,さらに小型メインフレームとの境界がなくなりつつある。こうしたミッドレンジ領域の製品系列を再編するのが目的。現在は大型メインフレームやオフコンが好調だが,長い目で見ればコストパフォーマンスの高いミッドレンジ領域のマシンに移っていくだろう(日立)」。同社には2050,2020,B16/32という3つのマシン系統があり,相互に互換性がないという問題があった。加えて小型メインフレーム用UNIXと2050用UNIXの仕様が異なるため,同じUNIXでも簡単に移植ができないという問題もあった。この状況を打開するための手段といえるだろう.
 この計画の中,ミッドレンジの製品系列で中核になると見られるのが,HPとの提携で開発を進めているRISCチップ搭載のUNIXマシン1991年夏をメドに50MIPSクラスのマシンを発表する予定だ.現在の2050の上位に位置する製品であり,文字どおりRS/6000の対抗機になる.
 RISCチップを使ったミッドレンジのUNIXマシンは,日電も開発作業に入った。すでに昨年5月にMips社のRISCチップを搭載したUNIXWSを発表しており,これを皮切りに上位方向に製品ラインを広げていくという。このRISCチップは,最高速60MIPS近い性能を発揮し,現在のRS/6000を上回っている.
 国産3社の中では富士通だけが,ミッドレンジのUNIXマシンに搭載するRISCチップをまだ最終決定していない.しかし,現在OEM販売しているSunのRISCワークステーションとの互換性は維持する考えだ。「SunのRISCに近いアーキテクチャのチップを自社開発することも含めて検討中.いずれにしてもミッドレンジのUNIXマシンをRISCで製品化する(富士通)」
 遅くても来年には,各社のミッドレンジRISC機が出そろい,IBMを含めて激しい販売競争を繰り広げることになるだろう(表1)。ただ富士通と日電は他の2社に比べて,オフコン分野で圧倒的に高いシェアを持っているので,自社のオフコンと競合するミッドレンジ・マシンを積極的に販売できるかが大きな問題として残る。この点ではオフコンのシェアが低い日立が最も有利と言える.


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 ミッドレンジだけでなくメインフレームの領域でもUNIXに対する取り組みは活発になりつつある。この分野で先行しているのは富士通。1990年8月に世界で初めてUNIX System Vリリース4をメインフレームに搭載したUXP/Mを発表,市場開拓にかける意気込みを見せた.「UXP/Mは,当社のメインフレームの主力OSであるMSPに匹敵する機能を付加して大規模システムでも問題なく使えるようにした(富士通)」。
 富士通はUXP/Mを発表する2ヵ月前,社内のUNIX開発部隊を集結して「オープンシステム開発本部」を新設している。総勢500人を擁する同本部は「UXP/Mを皮切りにスーパーコンからパソコンまで全機種のUNIXを統一的に機能強化していく(富士通)」ことが狙いだという.
 半面,富士通はディーラ網の整備で他社よりも出遅れており、現在はメインフレームを主体にほとんどが直販である.
 この点では日電が一番進んでいる.約350社あるオフコンディーラーのうち,大塚商会をはじめ大手を中心に100社がUNIXWSの販売を始めた.日電に比べてディーラー網の弱い日立は系列の販売会社で2050を販売するほか、全国各地にあるシステムエンジニアリング会社にも2050の営業機能を持たせ始めている。富士通もいずれオフコンディーラーを通してUNIXマシンを販売することは間違いなく,オフコンと同様に各社のディーラーが競ってUNIXマシンを販売する日もそう遠くはない.
 しかし,ビジネスUNIXの行方は決して順風満帆ではない。オフィスにまで利用が広がるかどうかは,使い勝手の良いパッケージの品ぞろえに大きく依存している.
 UNIXとRDB(リレーショナルデータベース)を中心としたあるソフトハウスはこの点について「UNIXを知るSEが少ない分だけ,将来はパッケージ化が進むだろう.パソコンの会計ソフトの御三家のうち,1つでもUNIXの上に載れば,一気にオフィスで普及する可能性がある」と見る.
 情報武装に意識的なエンドユーザーは確実に増えており、「ビジネス市場でも,アプリケーションにとってUNIXがベストだと判断したら,ためらわずUNIXを使う(大手企業ユーザー)」が正しいスタンスではないだろうか.


OS/2編
OS/2展開に無視できないMS-Windows3.0の存在
 個人ユーザー向けにOS/2を販売することに関してメーカー各社はどう考えているのだろうか?
 結論から先に言えば「OS/2のユーザーは,少なくとも2~3年はホストコンピュータを前提にした大手企業,それにOS/2マシンをオフコン代わりに使う中小企業に限られる。企業内での個人や 一般ユーザーがOS/2を使うことはまずない」ということになる.
 ただ一般ユーザーでも,大きなメモリ,より優れたGUI,それにマルチタスク機能が必要になる場合がある。各社ともこれに対してはMS-Windowsで逃げる構えを見せる.個人ユーザーを中心とするスタンドアロン利用はWindows,メインフレームと接続したり,定型業務を稼動させる場合はOS/2という区分けである。
 マイクロソフトが1990年5月に販売開始したWindows3.0はこうした区分けをしてもまったく問題ない仕様になっている.たとえば,動作に必要なメインメモリはOS/2の場合8Mbytesは欲しい。しかし,Windows3.0はこれより少ないメモリでも十分に稼動する。ハード価格に大きく影響するメモリの量が少なくてすむわけだ。


ハードの高価格と少ないソフト開発者がOS/2展開のネック
 大手企業中心に急増するOS/2ユーザーと,本腰を入れ始めたベンダー.気になるのは今後どれだけ普及が加速するかだ。これを左右する2つの壁がある。ひとつはOS/2を利用するのに必要な システム価格,もうひとつはOS/2流のプログラム開発ノウハウだ.
 OS/2を主力OSにするハイエンドパーソナルマシンやWSなどの性能/機能はUNIXベースのWSに肩を並べるまで成長してきた.その一例が1989年10月に日電が発表した「PC-H98」.
 32bitNESAバス(New Extended Standard Architechture)を装備したPC-H98は,
(1)80386(約5MIPS)を搭載し,最大27.5Mbytes(標準1.5~5.6Mbytes)のメインメモリを実装できる,
(2)画面解像度はPC-9801シリーズの主力の640×400ドットに加えて1120×760ドットの高解像度表示モードを持つ,
(3)NESAによって内部データ転送速度33Mbytes/秒を実現した,
(4)マルチプロセッサ構成を容易にとれる
――などが特徴だ。OSは「UNIX互換のPC-UXも載るが,メインはMS-DOS,OS/2(日電)」という.
 マイクロチャネル装備のPS/55シリーズを1987年4月から販売中の日本IBMを加え,低価格UNIX WSを迎え打つ32bitパーソナルマシン市場は急速に充実しつつある.しかし問題はその価格にある.日本IBM,富士通,日電のパーソナルマシンの中から32bitCPUを採用し,高解像度表示モードを持ち,かつ40Mbytes以上のハードディスクを内蔵する最も低価格の機種(メインメモリ4Mbytes程度)を選んでも110万前後から130万円台.これがPM付きOS/2を快適に利用できる最低条件のシステム構成である。推奨メモリ容量はメーカーによってまちまちだが,ユーザー企業が実際に実装している容量をまとめると8Mbytesが最低ライン。そうすると1台当たりのハード価格は150万円ほどになってしまう。
 OS/2普及を妨げるもうひとつの,より深刻な問題は,アプリケーション開発である。昨年3月から一般向けにOS/2教育事業をスタートしたCSKは「大型機のテキストベースのユーザーインターフェイスに慣れているSEにとって,PMは抵抗がある.逆にパソコンソフトをやってきた人にはOS/2の大型機的な側面が馴染みにくいようだ」と述べる.
 OS/2のプログラミング作法が分かるまでに3年かかったという富士ソフトウェアも同意見だ。「大型機でCOBOLを使ってきたSEが,OS/2PM流のプログラムを書くのは,ビル主体の大手ゼネコンがお寺を建てるようなもの」と指摘する。イーストは「たとえばMS-DOS用のソフトならプログラマがデータの入出力や画面表示を思いどおりに決められるが,OS/2PMはイベント駆動型.メッセージを持つ形式のプログラムを書かなければならない」と違いを説明する.
 このため,多くのソフト・ベンダーは今後は「教育の一貫としてOS/2プログラミングツールやシステム設計技法を開発しなければならない」と考えている.焦眉の急はOS/2アプリケーションを開発できる人材の育成だ。OS/2の普及が加速するかどうかはOS/2プログラミングノウハウの蓄積にかかっている.


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IBM独自のOS/2からよりオープンなOS/2へ
 UNIXが狙うミドルレンジ領域市場でのOS/2の将来性はどうだろうか?IBMとマイクロソフト両社が1989年11月に発表したOS/2の展開計画を見てみると,この事情が分かりそうだ.
 この発表は1991年以降にRISCチップ,マルチプロセッサ対応のOS/2を製品化するなどUNIXを強く意識したものであった。ビジネス市場に浸透し始めたUNIXの勢いを何とか食い止め、逆にOS /2を実質標準にしたいという意欲が表われている.
 その計画の内容は,
(1)2Mbytesのメモリでも稼動するようにOS/2を小型化する(記事1),
(2)32bit対応やMS-DOSアプリケーションの並行動作機能などを備えたWindowsは開発しない,
(3)OS/2の中核システムとして32bit対応のVer.2.0を1990年度後半をメドに出荷,
(4)Ver.2.0を基本にRISCチップ用OS/2,マルチプロセッサ用OS/2を開発、
1991年以降に出荷。さらにオブジェクト指向のOS/2も開発するなどであった.
 さらに両社は,IBM独自のOS/2拡張機能であるデータベースマネージャ,コミュニケーションマネージャをマイクロソフトを通じて互換機メーカーにOEM供給する,と公表,また,これまで仕様が異なっていたIBMのLANサーバーとマイクロソフトのLANマネージャを同一仕様にするなどの方針変更も発表している.
 これには「OS/2がIBMの独自OSだ」という見方を否定し,UNIX同様のオープンシステムであることを示す狙いがあった.これまでかたくなに守ってきたOS/2の対象CPUを8086系からRISCチップにまで拡大するというアナウンスもUNIXを意識してのこと.
 さらに,OS/2にはUNIXにはない下記の利点がある.
(1)互換性がない複数のバージョンが乱立する可能性がない.
(2)日本市場で重要な,日本語環境が統一されている.
(3)既存のシステムとの整合性が優れている.
 UNIXの場合では,業界がOSF対UI(UNIXインターナショナル)グループに分かれたため,UNIXシステムやGUIに複数の製品ができてしまった.運用時には,ソフト・ベンダーやユーザーは何段階もの選択をしなければならない。これがUNIXの大きな問題となり,基本的に1つしかないOS/2に比べると大きく見劣りする.
 日本市場での普及という観点から重要な日本語処理に関しても,UNIXの場合は各社まちまち。日本語コードはシフトJIS,EUC(拡張UNIXコード)の2通りがあり,かな漢字変換ルーチン(日本語入力フロントプロセッサ)もメーカーごとに違う.
 こうしたことから,ビジネス市場に限ればUNIXよりOS/2,あるいはオフコンを重視するメーカーも多い。メインフレーマはUNIX同様にOS/2にも力を入れている.
 「UNIXは現在のところエンジニアリング専用。オフコンやパソコンの市場にUNIXが入ってくるとは考えにくい(日電)」,「OS/2対UNIXという視点で考えると,現段階ではOS/2のほうが有力.MS-DOSとの互換性や,メインフレームとのネットワーク機能などでOS/2のほうが有利なのが その理由(富士通)」と,メーカーは見る.


結論編 UNIXか?それともOS/2か?
両者の比較だけでは優位性を判断できない
 結局のところ,OS/2とUNIXはどちらが主導権を握るのか?どう棲み分けるのか?これを見るためには,まずUNIX System Vリリース4.0とOS/2Ver.1.1の仕様を比較する必要がある.メモリ管理手法やディスクアクセス方法,GUIなどの部分もかなり異なるが,OS/2がシングルユーザー対象なのに対し,UNIXがマルチユーザー対象なのが大きな違いといえよう。
 個人用のWSとして見た場合にはシングルユーザー,マルチユーザーという違いはあまり問題にならないが,1台のマシン上で複数の業務アプリケーションを走らせるLANのサーバーやオフコン的な使い方をする場合はUNIXのほうが有利になる.この点についてマイクロソフトは「業務ごとにハードを増設すれば問題ない。ハードの価格は急激に下がっているし,このほうがレスポンスが早くなる。今後は1台のマシンで複数の業務を走らせるより,業務ごとにマシンを分けるようになる」と見ている.
 次世代OSにとって重要になるネットワーク機能はUNIXがNFSやRFS(リモートファイルシステム),OS/2はLANマネージャが基本。一言で言えば,いずれもネットワーク上のコンピュータ間でのファイル共有システムであり,新しい分だけLANマネージャのほうが多機能だが,それほど大差はない。
 一方,メモリに関してはOS/2が16Mbytesと少ないのは80286の制約のため.UNIXは使用メモリ容量に制限がないが,80386(486)対応のOS/2 Ver.2.0が登場すれば実メモリ空間が4Gbytes,仮想空間は64Tbytes(テラバイト)と,メインフレームを超える巨大空間を扱えるようになる.したがってこの対決は引き分けとなる.
 ディスク容量については、当初OS/2には前身のMS-DOSと同様にアドレス可能な磁気ディスク容量が1パーティション当たり32Mbytesに制限されていたという欠点があった.WSを多用するユーザーにとって厳しい制限だったが,OS/2 Ver.1.1ではこれが512Mbytesに拡張された.しかし,UNIXは磁気ディスク容量に制限を設けていない.OS/2は広く普及しているMS-DOSアプリケーションも実行できるよう設計された.この戦略がOS/2を非常に不自由なものにしている.
 必要な動作環境はOS/2 Ver.1.3の場合,最低でもメインメモリ2Mbytes,ハードディスク60Mbytesが必要.しかし、多くのユーザーは「ユーザーアプリケーションを載せると6Mbytesでも苦しい」と言い,大半は8~10Mbytesを積んでいる.UNIXはシステム構成,インストレーションによって変わるために一概には言えないが,X Window上でアプリケーションを稼動させると最低でも6Mbytes,通常8Mbytes程度のメインメモリがいる.ハードディスクは通常で150Mbytes程度,すべての機能を入れるには200Mbytesは必要という.OS/2のほうがメインメモリ,磁気ディスクとも少なくてすむことになる.
 稼動可能なプロセッサはこれまでにも触れたようにUNIXは制限がなく,OS/2はインテルの8086系MPUだけを対象にしている.OS/2のRISCバージョンの開発については,インテル/IBM/マイクロソフトの関係から考えて,CPUはインテルのi860になるだろう.ただ,OS/2のCPU制約が不利になるかというと、必ずしもそうではない.すでに述べたようにバイナリ互換(機械語レベルでの互換)という点では逆に有利になる.
 残るオープン性(ユーザー側から見て複数のメーカーがサポートしていること)の面ではIBM/マイクロソフトの共同発表を受けてOS/2にも光が差しUNIXと同レベルになったといえる.IBM独自のOS2拡張機能は今後、他メーカーもマイクロソフトを通じて入手できるのだ。ただしOSのソースコードを改変できるメーカーの場合はUNIXのほうが上位になる.
 OSのインターフェイスはUNIXの場合,世界的な標準化団体であるX/OpenやPOSIXの仕様に準拠しているが,OS/2は独自.しかし,この点でも「OS/2のインターフェイスをPOSIX準拠にする計画がある」とのマイクロソフト・サイドの発言がある
 こう見てくると,IBMとマイクロソフトが積極的に機能拡張を進めている分,OS/2がUNIXに機能的に近づき,両OSはあまり変わらなくなっていることが分かる.
 ベンダー各社はこの点について「OS/2はUNIXの影響をかなり強く受けている.長い目で見ればOS/2とUNIXはアプリケーションも含めてほぼ同じものになるのではないか」と予測する.


パーソナル市場は、OS/2が先鋒を切る
 1990年4月のUIとOSFによるUNIX統合化交渉決裂の発表は,System Vリリース4.0あるいは OSF/1,OPEN LOOKやOSF/Motifがどちらかに一本化される可能性が完全になくなったことを示した。UNIXそのものの勝敗の行方が不明なため,ユーザーもUNIX導入に踏み切りにくいという汚点を残したのだ。
 半面,OS/2は1つの形態しかない.また,UNIXには種々の端末が存在するが,OS/2には1種類の端末しかない.したがって,UNIXよりもOS/2のほうが移植が容易に行なえ,安定した普及を目指せるとの利点がある.
 また,UNIXにさまざまなバリエーションがある問題の延長線上には,日本市場での日本語環境の統一も大きな課題として残っている.
 たとえば,アウトラインフォントが違えば、プリンタのように重要で高価な周辺機器が共有できないことになる.特定のMPUを使用する条件下でのバイナリ互換を実現する規約「ABI(BSC)」にしても現時点では英語版だけで進行している。日本語環境をサポートしたうえで実現できるかどうかはまだ見えない要素が多い。
 その点、こうした問題がないOS/2が,MS-DOSマシンの上位機からハイエンドパーソナルマシン,ビジネスWSの市場へと普及する可能性は高い.OS/2はその前身であるMS-DOSと同様にパーソナルマシンでの処理環境に適合するよう,設計されている.一方のUNIXは,「シェアドロジック」(複数ユーザーによる共有)という,部門コンピュータ処理に理想的な特性を持つ。
 このためか,日電を含めてほぼ全メーカーが将来のハイエンドパーソナルマシンのOSは,UNIXではなくOS/2になると見ている(図2).


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「ほぼ全メーカーが将来のハイエンドパーソナルマシンのOSは,UNIXではなくOS/2になると見ている」全く意外な予想だ。実際はどうだったのだろうか。私は分析装置でしかOS/2を見たことがない。

 しかし,これが長期的に続くかというのは疑問視されている.OS/2そのものの特色を生かせるアプリケーションの種数拡大や,一方でMS-DOSの機能強化(MS-Windows3.0やMS-DOS Ver.5の登場など)をどう見るかという戦略もある。実際には当初の目論見ほどOS/2は普及しないかもしれない。
 加えて多くのメーカーが指摘する難点「RISCチップにも適用できるUNIXに比べ,選択の幅が狭い」という点も解消する必要がある.これらが実現されなければ「32bitのパソコンとWSの分野のOSは、2~3年後にUNIXの比率が25%になると考えている(あるメインフレームの幹部)」という予測が現実になるかもしれない.


オフコン市場に、なんとか入り込むUNIX
 パーソナル分野で優勢だったOS/2も、より広範囲のユーザーが使うミッドレンジ領域では立つ瀬がない。この分野ではUNIX拡大の可能性が強い.
 しかし,ミッドレンジ領域の市場ではUNIXの前にオフコンが立ちふさがっている.前にメインフレーマ4社の戦略で見たように,各社のUNIXマシンの中核機種は今後WSからオフコンにかけてのミッドレンジ領域になる。年間1兆円にもなるオフコン市場に食い込めるかどうかが,UNIX市場拡大の大きな鍵となるであろう.
 現在のオフコン市場は大きく2つの分野に分かれる。ひとつは中小企業のホストコンピュータであり,もうひとつは大企業の部門コンピュータである。このうち各メーカーがUNIXマシンの有望な市場と見なしているのが大企業の部門コンピュータだ(図3)。


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 「部門コンピュータでは,パソコンとのネットワーク機能や,使いやすいリレーショナルデータベースが求められる。この点ではメーカー独自のオフコンよりも,豊富なサードパーティソフトを使えるUNIXマシンのほうが優れている(日本ユニシス)」という意見がある.すでに日本ユニシスや東芝,日本NCRなどはこの分野に向けてUNIXマシンを積極的に販売し、実績も上げてきた.メインフレーマ4社もミッドレンジのUNIXマシンの市場として大企業の部門コンピュータを最大のターゲットにしており,この分野へのUNIXの普及はかなり早そうだ。
 しかし,もうひとつの市場である中小企業のホストに,UNIXマシンを販売することは各メーカーとも消極的である.「オフコンには特定分野向けにカスタマイズされたソフト資産があり,ユーザーの使用ベースもある。これをUNIXに移行してもメリットがない」と,メーカーは見ている.もし,機能面でメーカー独自のオフコンと決定的な差がつけば,中小企業向けにもUNIXマシンを販売するメーカーが増えるのだが……
 また,RISCチップを搭載のUNIXマシンではコストパフォーマンスの点で,従来のオフコンを抜き返すこともあるだろう.「あとはソフト・ベンダーが積極的にアプリケーションを開発すれば,中小企業のマーケットにもUNIXマシンが浸透するかもしれない(日本ユニシス)」との声もある(表2)。


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両者ともに不利なメインフレーム分野
 メインフレームの分野はどうか。この分野でもOS/2の活躍の場はない。また,UNIXをメインフレーム分野に積極的に推し進めるメーカーも富士通だけである。他のメインフレーマは大学や研究所など特定の分野に限定し,小規模なUNIXビジネスを行なっているにすぎない(図4)。

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 しかし,メインフレーマ各社の見方は必ずしもこの分野のUNIXに悲観的ではない。「伝統的なメインフレームの市場に急速にUNIXが入り込むことはない。ただOLTP(オンライントランザクション処理)のような新しいアプリケーションの分野では,コストパフォーマンスの良いUNIXマシンに移っていく可能性が十分ある(日電)」.
 富士通でも,1990年9月に発表したメインフレームで新しいコンセプトを打ち出し,この中でOLTPに関連する通信処理の部分をUNIXベースの専用マシンに分散する計画を表明している。メインフレーム発表の1週間後に出した通信プロセッサのSURE SYSTEM2000がこの計画の第1弾である。現在は独自のOSを搭載しているが,インターフェイス仕様はUNIXに合わせてある。「いずれUNIXを前面に出し,OLTP向けのコンピュータとして発表したい(富士通)」と意気込む。
 メインフレーマ4社を中心にUNIXシフトが進み始めたとはいえ,どのメーカーのUNIX戦略もまだ緒についたばかり.アプリケーションの品ぞろえや販売網で決定的な強みを持っているところは1社もない。これまで劣勢に立たされていたメーカーにもUNIXでは大いに巻き返しのチャンスがあるわけだ。一方のOS/2では,以前からメインフレーマが中心になって普及を促進しており,どんでん返しは起こりそうにもない.
 メーカーの取り組み具合は,即,普及拡大に拍車をかけるものではない。しかし,UNIXとOS/2は,ユーザーパワーで革新が進んできたMS-DOS/MS-Windowsとは異なる道のりを選び,普及に向けて歩んできた.
 コンピュータシステムがネットワーク化に向けて変容する現在,ネットワークに強いことが市場制覇のための課題になるだろう.
 結論を言えば……,
「UNIXマシンは,メインフレームからワークステーションにかけての分野」「OS/2マシンは,ハイエンドパーソナルマシンの市場」と,それぞれに棲み分け,将来に向けて幅広く浸透するための手段を模索しているのである.

 この結論もどうだったか。OS/2については大外れだったとしか記憶していない。
どうしてアスキーの記事はOS/2を推していたのか不思議だ。

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