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フレームメモリ,ターミネータ,(C)と(M)(月刊ASCII 1992年7月号11) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

「今月のキーワード」をスクラップする。
フレームメモリ
 コンピュータグラフィックス(CG)が多彩に使われている「ターミネーター2」などを見て,映画と同じレベルまでいかなくても、普段使っているパーソナルコンピュータでフルカラーのCGを描きたくならないだろうか?パソコンでフルカラーのCG(画像)を扱うとき必要なものに,「フレームメモリ」がある(写真1).

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■カラー表示のしくみ
 まず,色の混合の原理を思い出してほしい.絵の具などの「減色混合(シアン/マゼンタ/イエローで黒になる混色)」とは異なり,ブラウン管のカラー表示などで使われる光の混合「加色混合」の場合は,光の3原色である赤/緑/青(Red/Green/Blue:RGB)を同じ比率で混合すると白色になる.
 画面に絵を描くとき,コンピュータの内部では次のような処理が行なわれている.まず,キーボードやマウスによって入力された信号をCPUが解釈し、CPUは,ユーザーの命令に応じてVRAM制御部に信号を送る.さらに,VRAM制御部は,画面表示用のメモリである「VRAM」に前出のRGBの発色信号を書き込み,ディスプレイ回路がこの信号を読み取って表示を行なうのだ。
 PC-9801シリーズには,文字表示用のVRAMが16Kbytes,グラフィックス表示用のVRAMが標準で256Kbytes搭載されている.PC-9801シリーズには解像度640×400ドットのグラフィック画面が2画面あり,総表示ドット数は,640×400×2=51万2000ドットになる.すなわち,グラフィックス表示の場合は、1ドットを表現するために4bitの情報を使えることになる(256Kbytes÷51万2000ドット=4bit/ドット).
 画面の1ドットに対して4bitなので,RGBそれぞれの色情報のオン/オフで3bit,さらに,その色の濃淡(intensity)1bitの情報が書き込め,21×21×21×21=16色の表示ができることになる(表1)さらに,VRAM容量を増やすと,RGBそれぞれを何段階にも分けることができ,画面1ドットを,RGB各3bit(8階調)で表現すると23×23×23=512色.同8bit(256階調)では,28×28×28=約1670万色もの表示が可能だ。この1670万色の画面は,RGBの各プレーンごとに8bitあるので,24bitカラー画面(8bit×3プレーン=24)またはフルカラー画面と呼ばれている.

■拡張メモリの一種
 そこで,PC-9801シリーズの場合,16色よりも多くの色を表現したい場合には,発色数に応じたVRAMを搭載した拡張メモリを使うことになる.拡張メモリとしてはEMSやプロテクトメモリが有名だが,表示用のメモリは,画面(フレーム)単位で情報を扱うため「フレームメモリ」と呼ばれる.
 フレームメモリと一般的な拡張メモリの違いは,制御方法だけでなく,PC-9801シリーズへの装着方法も異なる.拡張メモリはコンピュータ本体に差し込むだけでメモリ容量を増やすことになるのだが,フレームメモリは、本来のVRAM16色表示を生かしたまま表示用メモリを拡張する.すなわち,16色のディスプレイ信号と,1670万色の信号をミックスして出力するため,コンピュータ本体のディスプレイコネクタから出ている信号を,いったん,フレームメモリに入れ,ミキシングした後にフレームメモリからディスプレイに出力するわけだ。
 一方,IBM社のPC/ATなどでは,VRAMが,テキスト用/グラフィックス用のように分かれてはいないが,画面表示を行なう回路が専用のボードにまとめられている(ビデオアダプタとも呼ばれる).この部分をそっくり交換して,多色表示や高解像度表示を行なうことになる(写真2).


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■身近になったフルカラー

 従来,フレームメモリの価格は高く,気軽に買えるものではなかったが,最近では,PC-9801シリーズ用として手頃な価格のフレームメモリも発売されるようになった(表2).自然画像を高率圧縮するJPEGフォーマットの普及により,フルカラー画像が容易に扱えるようになってもいる.機会があったら,フルカラーグラフィックスの素晴らしさを確かめてほしい.

ASCII1992(07)b22表1-2_W363.jpg
フレームメモリを導入しているところは業務用だったと思う。素人で趣味で導入している人にお目にかかったことはなかった。

TBNをスクラップする。
どうしてターミネータが必要?
Q SCSIのターミネータがよく分かりません。たとえば,SCSIデバイスには,ターミネータが必要だといいますが,コンピュータの内蔵型SCSIハードディスクのSCSIインターフェイスのコネクタには、ターミネータを付けなくていいのでしょうか?また、知人から,「場合によってはターミネータを外したほうがいいこともある」という話を聞いたのですが,これはどういうことでしょうか。
A 最近ではSCSI端子を備えたパーソナルコンピュータは珍しくなくなりました(写真1).ですが,いろいろと分からないことの多いのがSCSIです。よくトラブルの種になっているともいわれています.それでは質問のターミネータがなぜ必要なのか,その理由の説明から始めましょう.
ターミネータは信号の「出口」
 ターミネータの役割を簡単にいうと,ケーブル(SCSIバス)の信号を整えるための部品です。多少電気回路の心得がある方なら、ターミネータとはインピーダンスのマッチングをとるための終端抵抗であるといえば納得していただけるでしょう(写真2,3).
 もう少し分かりやすく説明すると,パーソナルコンピュータが送り出した信号は,バスの先頭からディジーチェーンで接続された最後のSCSIデバイスまで送られます(図1).ここで,バスの最後に到着した信号はどうすればいいのかを考えてみてください。もし,バスの末端に信号の出口がなければ,信号はそこにい続けるわけにもいきませんから,末端に達した信号は,今来た道を戻っていくのです!
 しかし,バスにはどんどん新しい信号が送り出されてきますから,進んでいく信号と,帰ってくる信号がバス上で衝突します.こうなると,信号の波形が乱れ,ちょうどパソコン通信でいう「文字化け」のように,SCSIコマンドなどのデータが,別のデータに化けてしまいます。これでは,正常なコントロールもできませんし,正しいデータのやりとりも不可能になってしまいます。
 そこで,末端に到達した信号の「出口」を作ってやれば,こうした不都合が解消できます.つまり,ターミネータはSCSIバスに流れる信号の「出口」なのです。
ターミネータはバスの両端に
 もちろん,信号はパーソナルコンピュータから周辺デバイスに送り出されるだけではなく、バスの先頭(パーソナルコンピュータ側)に向かって進む信号もありますから,パーソナルコンピュータ側にもターミネータは必要です.つまり,SCSIバスには先頭と末尾に必ず1つずつ、合計2つのターミネータが必要です.ただし,バスの先頭はパーソナルコンピュータ内部のインターフェイス回路に決まっています.ですから,あらかじめインターフェイス回路内部にターミネータが組み込まれているので,ユーザーが先頭のターミネータで悩む必要はありません。
 しかし,バスの両側にターミネータが必要だということは、あくまでも原則です。そして,原則には例外があります。
 たとえば,ご質問にあるように,SCSIディスクが内蔵されている場合,コネクタにターミネータを接続しないのが普通です.しかし,バスの先端と終端にターミネータを入れなければならないという原則からいけば,SCSIコネクタにはターミネータが必要になるはずです.
 ところが,せいぜい10cmそこそこの長さのケーブルであれば,終端のターミネータを接続しなくても,信号の乱れはそれほど大きくなりません。インターフェイス回路は,多少の信号の乱れは吸収できるように設計されているので,この程度なら問題がないというわけです.当然,コネクタにターミネータを付けても悪影響はありません.
SCSIバスの怪
 ユニットIDを正しく設定して,きちんと最後のデバイスにターミネータを付ければ,少なくとも理屈の上では,問題なくSCSIデバイスが動作するはずです.しかし,正しく設定しているはずなのに,なぜかSCSIデバイスが正常に動かないというトラブルに悩まされる人は少なくないようです.
 SCSIデバイスに関するトラブルとしては,メーカーごとにSCSIのインプリメントが微妙に違っているため,ハードウェア的には正しく接続されているのに動作しないというケースがあります。たとえば,PC-9801のSCSIインターフェイスには,MacintoshやIBMPCで使われている一般的なSCSIデバイスが接続できません.
 PC-9801のSCSIがどうしてこのように特殊な仕様になっているのか,理由は不明ですが,SCSIの難しさを考えるとなんとなく設計者の気持ちが分からなくもありません。なにしろ,汎用の規格ですから,世の中にはずいぶんいろいろなSCSIデバイスがあります.ところがこれらのSCSIデバイスに接続した場合,メーカーが意図していなかったようなトラブルが続出する可能性があるのです.ユーザーにとっては,どんな機器でも接続できるのは大きなメリットですが,メーカーの担当者にしてみれば,わけの分からない機器を接続しようとしてトラブルが発生した.といった苦情の嵐で詰め腹を切らされてはたまらないでしょう.筆者の勝手な推測ですが,それならいっそ,自社が保証するデバイス以外にはつながらないようにしてしまえと設計者が考えたとしても,不思議ではありません。
理想と現実
 さて,とにかくハードに要求される性能が厳しくなると,必ずしも理屈どおりには動かないというケースも出てきます。ちょっとした電気的な特性の違いで問題が発生することも考えられます.
 また,たかがケーブルといっても、前に書いたようにケーブルが短ければ乱れが少ないということは,ケーブルが長ければ信号の乱れも大きくなるということです.原理的には,ケーブルが長くてもきちんとターミネーションされていれば,信号は乱れないはずなのですが,現実のケーブルは決して理想のケーブルではありません。また,途中にいくつかのSCSIデバイスが接続されていると,それぞれのコネクタ部分で信号の乱れが生じます。もちろん、理想のコネクタなら乱れは発生しないはずなのですが.
 こうした現実的な要因が微妙にからまりあうと,理屈が通らないケースが出てきます.たとえば,デバイスの接続の順番を替えたり,ケーブルを交換すると,トラブルが解消することがあります。筆者もご質問にあるように,ターミネータを外したらエラーが発生しなくなったというケースもあるという話を聞いたことがあります。
 とにかく,SCSIにさまざまなメーカーのデバイスを何台も接続すると,理屈では割り切れない,不可解なトラブルが発生する可能性があります。
 不幸にして不可解なトラブルが発生した場合は,理屈にとらわれず,いろいろと試行錯誤してみることをお勧めします。
 また,このようなSCSIデバイスのトラブルを未然に防止するコツは,デバイスの接続には,できるだけ上等なケーブルを使い,配線は極力短くすることでしょう。特に,ケーブルは安物を避け,多少高価でも太くてしっかりした高級なケーブルがいいようです。
(安田 幸弘)


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ASCII1992(07)g02ターミネータ図1_W520.jpg

得体の知れない記号が付いている?
Q CPUの表面には型番などのほかに(C)や(M)という記号(マーク)が付いていますが,一体何を表わしているのですか. A 最近,新聞などによく「知的所有権」ということばが使われています.知的所有権(英語ではIntellectual Property,知的財産権とも翻訳されます)を簡単に説明すれば,人間が考え出したアイデアや技術を保護し、そのアイデアを他者が無断で利用できないようにする権利のことです.
 知的所有権は,大きく工業所有権と著作権の2つに分類できます。工業所有権は主に企業活動などにかかわる発明や名称に与えられ,さらに特許権(Patent),実用新案,商標(Trademark),意匠(Design)やサービスマークなどに分けられます。一方の著作権(Copyright)は,主に美術,音楽,文学などの創造物に与えられる権利です.欧米における知的所有権という概念の歴史は古いもので,1世紀以上も前の1882年に締結された「工業所有権の保護に関するパリ条約」と1886年締結の「文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」は、現在のさまざまな国際間の知的所有権保護条約の基本となっています.日本も1899年に,両条約に加入しました.
 しかし,それから現在までの約1世紀の間には,バイオテクノロジーによる植物の新品種やCDのレンタルビジネスといった,今までの概念ではカバーできない新しい知的所有権の形態が現われてきました。コンピュータプログラムやデータベースも,このような新しい形態の知的所有権と考えることができます。
新しい知的所有権の保護
 先に述べた2つの国際条約を基に,1967年には「世界知的所有権機関(WIPO)」という団体が設立されました。この組織は、知的所有権の保護増進という目的から,「コンピュータソフトウェアの保護に関する国内法のためのモデル条項」(1977年),「集積回路に関する知的財産条約」(1989年)などの作成に取り組んできました。
 このような世界的流れの中で,各国でもそれぞれ国内法を制定,改正して新しい知的所有権の保護を考えるようになってきています.ここでは日本とアメリカの動きを見てみましょう。
 まず,アメリカでは1980年,日本では1985年および1986年に行なわれた著作権法の改正から,コンピュータプログラムやデータベースなどを含む広義のコンピュータソフトウェアが,著作物の一種と規定されるようになりました。このようにソフトウェアという知的所有権の扱いは,長期間(日本は50年)の保護を受ける著作権の中に含まれるという考え方が世界の主流です.
 一方,半導体集積回路の高集積化にともない,回路配置(パターン形状)の巧拙が集積回路の性能を左右するようになってきました(写真4).このような中,アメリカでは1984年に「半導体チップ保護法」が制定され,回路配置利用に関する権利(10年間)を保護できるようになりました。このときアメリカは,外国人の回路配置保護に相互主義(相手国でアメリカ人の権利に保護を与えなければ,アメリカで相手国人の権利を保護しない)を規定したため,日本も1985年に「半導体集積回路の回路配置に関する法律」を制定しました.要するに集積回路配置は,著作権と別の特殊な権利として扱うようになってきたわけです。
(C)と(M)
 さて,マイクロプロセッサが持つ知的所有権は,実際には今まで述べてきたような点から保護されています。つまり,マイクロプロセッサを動作させる内部プログラム(ソフトウェア)に関して著作権が,マイクロプロセッサの回路パターンに関して回路配置利用権が与えられるのです.
 2つのマーク(写真5,6)の意味についてはもうお分かりのことと思います.(C)はCopyrightの略で,(M)はMaskworkの略になります.を規定しているのは,1952年に締結された「万国著作権条約」です.アメリカと中南米の国々は,ベルヌ条約に加盟せず独自の条約を結んでいました(アメリカは1989年にベルヌ条約に加盟).万国著作権条約は,を記した著作物がすべての加盟国で著作権の保護を受けることを規定しているので,例えば1989年以前に日本の書籍をアメリカへ輸出して著作権保護を受けるためには(C)を記載する必要がありました。
 (M)のほうも理由は同様です.アメリカのチップ保護法の規定では,(M)を記すことが回路配置利用権が保護されている証拠となります。前述の相互主義から日本製チップもアメリカで保護を受けることができますから,輸出するときには(M)を付けてその事実を示しておく必要があるわけです。ただし,(M)による保護は当然アメリカ国内だけに限られており,世界のほとんどの国で通用するとは少し違います.
(野島)


ASCII1992(07)g03(c)と(M)_W353.jpg





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未来コンピュータその4(月刊ASCII 1992年7月号10) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

「未来コンピュータ」の坂村健と西和彦の対談をスクラップする。
月刊アスキー創刊15周年記念スペシャル・トーク
坂村健&西和彦
未来が見えるチャンネルにチューニングせよ

 IBM PCやPC-9801,Macintoshといった16bitのパーソナルコンピュータが登場したのが約10年前。その結果として1992年現在の基礎的なコンピューティング環境というものがあると考えていいだろう。発生してからある程度成熟するまでの時間を10年と考えれば、今後10年間でパーソナルコンピュータとその周辺の環境は大きく変わることが予想される。そのあたりを、東京大学助教授の坂村健氏と,アスキ一社長の西和彦氏に話し合ってもらった。
ASCII1992(07)f29未来コンピュータ写真1_W509.jpg
西和彦
株式会社アスキー社長。1977年にアスキーを設立して雑誌「月刊アスキー」を創刊。最近はCPU設計会社のVMT社をはじめ、社長を兼任するGCT社とIBMが共同開発したPS/55を使ったテレビ電話システムを発表するなど,マルチメディア事業に力を注ぐ.
坂村健
東京大学理学部情報科学科助教授.CPU,キーボード,OSを包括する独自のオープンアーキテクチャ「TRON」を提唱する“電脳建築家”.著書に「電脳都市」「TRONからの発想」(共に岩波書店刊)などがある.


デジタルAVの入ったWS,PCが登場する
坂村 コンピュータをEDPマシン*1として捉える見方と,家電として捉える見方と2つあって,それによって違ってくると思うんです。でも中身はほとんど同じものなんですけどね。
西 そうですね。
坂村 EDPマシンとして見た場合のコンピュータはそう簡単に変わらないと思う.
*1: Electrical Data Processingの略。いわゆる科学技術計算やオフィスでの金銭計算などをするコンピュータ.
 なぜかというと,UNIXだって普及するのに20年かかってるんですよ。独自技術でやろうとすると,すごく時間がかかる。米国の某社みたいに独自技術にこだわりすぎて,ついに最後まで立ち上がらなかったという例もあるくらいですからね。家電の場合はもっとサイクルが速いから,10年でドラマチックに変わるだろうなという気はしますね。でも、未来のパソコンはテレビだとか,家電だとか言われてますが,いまある情報機器を見てると,難しいですよ。10年で本当に普通の人が使えるものが出てくるのかなと思いますね。西さん,どうお考えですか.
西 10年後というと2002年でしょ.だいたい5年ごとにエポックメイキングな新製品が出てきてるんです.今から15年前に8ビットのパソコンが出たでしょ。10年前にIBM PCが出て,5年前にMacintoshが本格普及して,Sunが出ました。5年ごとに変わるわけです。だから'95年から'97年に何が出るのかということですね。そして2002年は何かという話になります。コンピュータにはいろんなものが入ってくるけれども,いちばんコンピュータの見てくれを変えるのは,音声と画像のデジタル化だと思うんです.デジタル・オーディオとデジタルビデオがパソコンにどうやって入ってくるかという問題.だから,2002年ごろには,デジタル・オーディオとデジタル・ビデオがたっぷり入ったワークステーションが出てくる.で,それが結局パソコンになると思う.形がどうなるかは別にしてね。
坂村 そのとおりだと思うんですが,過程が少し違うんじゃないかと思う。つまりワークステーションからパソコンへというふうに進むと西さんはおっしゃったけど,ぼくはね、意外とワークステーションは盛り上がらないと思う.
西 ワークステーションというのはね,UNIXのコンピュータにディスプレイというお面を被ってるわけですね。そのお面がはずれて,ワークステーションはサーバーになっちゃうと思う.Windowsからワークステーションにアクセスし始めたら,ワークステーションがディスプレイを持つのは意味がなくなるから.すべてのWindowsがX夕ーミナルになればいいわけでしょ?ワークステーションはフロントエンドとバックエンドに2分化すると思う.
坂村 それはそうだと思うけど,ただワークステーションのユーザーはコンパイラが動いてシステム開発ができればいいという人もけっこういるんです.XターミナルなんかでもCしかやんないとか,emacsとかせいぜいTeXぐらいにしか使わないとか,X Windowもいらないという極端な人もいるんですね。そういう意味で,高度なグラフィックとかデジタルオーディオとかはホームユースというかプロフェッショナルじゃないエンドユーザーのほうが要求が厳しいと思う。だから,いままではワークステーションからパソコンに降りてきたけど,今後はそういう過程が飛 んじゃうような気がする.


デジタル・ビデオディスク=CD-ROMの付いたパソコン
西 家庭用パソコンに関して言うと,CD-ROMが付いたパソコンは,デジタル・ビデオディスクとも言えるわけですね,ソフトに絵が入っていれば.FM TOWNSのことをデジタルビデオディスクプレーヤとも言えるわけです.言い換えるなら,インタラクティブ・デジタル・ビデオディスク・プレーヤでもいいわけです.ラジオの放送があって,ラジカセができて,ウォークマンができて,CDが出ました。テレビ放送があって,ビデオデッキが普及して,ビデオソフトのマーケットができて,次はデジタル・ビデオディスクじゃないかと思う.デジタル・ビデオディスクというのは何かと言ったら,光ディスクの付いたパソコンだと思う。それが'95年あたりからにわかに本格化すると思います.CD-Iに関しては,インタラクティブ機能はあくまで付加価値であって,標準的にはデジタル・ディスク・プレーヤになると思う.
編集部 ソースは何ですか?
西 映画。2時間半の映画が入るデジタル・ビデオディスク.
坂村 なんでワークステーションがダメだと言ったかというとね、ワークステーションは必ずネットワーク環境で使いますよね。デジタルのネットワークはね,重いんです.画像圧縮の技術にかかってるんですが,日本全国を動画像が行き交うようなインフラを作るのは5年じゃ無理かもしれない。
西 20年?
坂村 うーん……そう,20年は最低かかりますよね。ネットワークは重要だけど,必須じゃない。そういう意味で,スタンドアロンのデジタル・ビデオディスクのような形で家庭に入ってくるのが先だと思う.


パーソナライズド・テレビジョンのコンセプト
編集部 ホーム・コンピューティングに話を戻すと,たとえばBSチューナー付きのビデオとかのリモコンというのは,ボタンが40個以上あるんです.パソコン顔負けなんですね。そこで,先ほどからテレビがプラットフォームになるみたいな話も出てますが,もっと家庭のコンピュータについて話していただけますか。
西 AV機器についてはソニーとか松下が考えることなんでしょうけど,いまBSのチャンネルがWOWOWとNHKの1と2,ハイビジョンのテスト放送で4チャンネル,それとCS*2が6チャンネルでしょ,それで10チャンネル.次の衛星が上がるとさらに4チャンネル増えて,14チャンネルになるわけね。
*2:通信衛星を使った放送サービス.
地上放送のチャンネルが6個あるから全部で20になって,UHFが4局ある.するとね,計24チャンネルになるけれども,それをホントに選ぶのかっていう気がするんです.テレビに必要なのは,多チャンネル化ではなくて,1チャンネルでいいんですよ.
坂村 そうかしら?
西 でもその1チャンネルはね,自分が見たいものが出てくる自分だけのチャンネルがほしいわけ.ぼくは,それをパーソナライズド・テレビジョンと呼びたい。パソコンみたいなもんですよ.on demand(要求に応じて,要求があり次第)というか,ネットワークを通してデータベースから探してくるんじゃなくて,24チャンネルの中から自分のほしいチャンネルを選んで切り替えてくれるテレビのコントローラーじゃないかと思う.テレビガイドみたいなテレビ情報誌に載ってる情報を文字多重放送で流して,コンピュータが自分の好みを知っててチャンネルを切り替えてくれる的なもの。放送をインテリジェンスで選択するというものです。
坂村 いま西さんが言ったようなことは,やろうと思えば今の技術でもできるんだよね。
西 できる.
坂村 いまの話を聞いてて思ったんだけど,やろうと思えばできるという類のことっていっぱいあるんだよね。
西 やってないだけ.
坂村 そう.だから,そういうアイデアはずいぶん前からあるのに、どうしてやってないのっていうことを今後の10年かけて片端からつぶしていくべきなのかもしれない。
西 いままでの総点検というか….
坂村 やればもっと面白くなるというようなことは,いっぱいあるんですよね。でも実際にやるとなると,電波法だとか難しい問題が出てくるんだな。たとえばプロ野球中継が延びたせいで留守番録画がうまくいかなかったなんていうことね。あんなのは,テレビ局が多重放送を使ってちょっと信号を送ってくれれば簡単に解決できることですよね。なのに、やらない。法律と標準化の問題があるんですね。その辺,西さんどうです?
西 それは時間の問題だと思います。標準とか国の方針とかを決める人たちが,どんどん若い世代に移行してきてますから.ぼくらと同世代の人たちがいずれ課長補佐になって,政策立案をするようになるんですが,彼らは通産省でも郵政省でもものすごいクリエイティブなんです.
坂村 じゃあ、わりと未来は明るいと考えてるわけだ。
西 ぼくらの世代が第一線に立つころには,政府のポリシーというのは驚くべき変革をとげて,ものすごく前向きになると思う.
坂村 そうなるといいねぇ.
西 それはね,実際につきあってて感じますね。彼らはものすごく優秀でアグレッシブですよ.


インタラクティブ・テレビジョンによるコミュニケーション
編集部 デジタルビデオディスクなどの家電的なスタイルのものが出てくる一方で,いまあるパーソナルコンピュータの延長みたいなものもありうると思うんです。それはどうなんでしょうか.
西 それはね,インタラクティブ・テレビジョンというのが出てくると思うんですね。インタラクティブ・テレビジョンの前段階として,テレビ電話があると思う.テレビ電話が普及して,テレビに対して話をするとか,キーボードから打ち込むとかいうことに慣れてきたときに,話す対象がコンピュータになると思う.インタラクティブ・テレビジョンというのは,パソコン通信です。でもそれはドキュメント+音+映像のパソコン通信なんです.
坂村 そうなってきますね。ぼくが第1ステップとしてやってほしいのは,電話が全部ISDNになったときに公衆電話にテレビカメラをつけて,たとえば今から六本木に行こうっていったときに,六本木の公衆電話に電話するわけ.すると六本木の街角が見えるとかね…….
西 たとえば,富士山の頂上に電話して…….
坂村 そうそう,オホーツクの流氷が見たいとかね。
西 だからね,さっき言ったけど,パーソナライズド・テレビジョンは1チャンネルしかいらないと.
坂村 うん.
西 2番目。2チャンネル目はね,自分が見たい場所の景色が見られるチャンネル,でね,テレビは2チャンネルあったらいいと.
坂村 1チャンネル増えたね(笑)。
西 1チャンネル目のテレビのことをもう少し詳しく言い直すと,過去のいかなる映像も見られるチャンネル.過去のあらゆるテレビ番組,あらゆるビデオが見られるチャンネル。2チャンネル目は,現在のあらゆる場所の風景が見られるチャンネル。つまりテレビ電話。もし3チャンネル目があるとすれば,未来が見られるチャンネル(笑)ディスプレイは水晶玉みたいな形になってると(笑).
坂村 わはははは.
編集部 そうなると,やっぱりデジタルの高速通信が必要になるんじゃないですか.
西 インタラクティブ・テレビジョンに関してはそうだね.
坂村 ISDNがくまなく張り巡らされないと.
編集部 やはり20年.
坂村 そうですね,10年じゃ無理でしょ.
西 パーソナライズド・テレビジョンが10年,インタラクティブ・テレビジョンは20年.もうちょっとかかるかもしれない。でもね,ぼくらが生きているうちには実現するでしょうね。
坂村 そりゃそうですよ.


思考やクリエイティブな行為をサポートするコンピュータはどうなる
編集部 坂村さんもおっしゃってると思うんですが,もっとこう知的なことというか,創造的な行為というか,そういうものをサポートする機械としてはどうですか.
坂村 思考を助けたりすることですね。それはね,AIとは違うんですよね。人間に取って代わるということではなくて、電卓の代わりというか,アイデアプロセッサをもっと使いやすくしたようなものが出てくると思いますよ.
編集部 そういうものは家庭には入ってこないでしょうか.
坂村 そういうシンキング・エイドみたいなものが家庭に入ってくるとしても,いまのパソコンの延長ではないね。MS-DOSとかMS-Windowsの延長では,そういうものは考えにくい。ポイントは結局マン・マシン・インターフェイスが悪すぎるということ.よく使われてるワープロなんかでも,結局清書機械になってるでしょ。そうじゃないものを考えないと…….
西 そう.電子レポート用紙になってる.
編集部 10年後でも,やっぱり人は書くことによってものを考えるということをやってるんでしょうか.
坂村 それはいろんな選択ができるんじゃないですか.
西 あのね、ノートの取り方を見てると,人間って2種類あるね。言葉でノート取る人と,グラフィックでノート取る人と2通りある。まったく別の人種ですね。だいたいエンジニアリング系はグラフィックですね。で、文科系の人は間違いなく言葉で取ってる。発想のトレーニングの仕方が違うんじゃないかな.
坂村 だから,選択できるって言ったのは,キーボード打ちたい人はそうすればいいし,電子ペンみたいなの使いたければそうすればいいし,どちらでもチョイスできるのが10年後じゃないかな.
西 いまのペン・コンピュータのペンはね,マウスの代わりのペンだと思う。ペン・コンピュータも必ず技術的に成熟すると思うけれども,すごく時間かかると思う.いまのところ,ぼくはアンチ・ペン・コンピュータ派なんです.ペン・コンピュータをたっぷり研究した結論なんですが,コンピュータが分かってくれるような文字を書くのはまっぴら御免だっていうんです.
坂村 (笑)
西 ペン・コンピュータを使ってるとね,人間どうなるかというと,コンピュータが分かるような文字を書き始めるんですよ。人がものを考えてるときは,まぁ何GIPSか知らないけれども,そのGIPSのうちの5%でも10%でも字を書くために使いたくないわけ.
坂村 分かります.
西 思考のスピードが落ちますよ。だからペン・コンピュータで文章を書くのは、ものすごい苦痛ですよ.
坂村 でも,それは人によるんじゃないかな(笑)。
西 ペンコンピュータを,メモ帳みたいなイメージで考えるならいけるでしょう.無線LANかなんか付けてさ,メッセージがピッと入ってくるとかね,そういうコミュニケーション・マシンとしては十分ありえると思う。編集部来週,AppleがPDA(Personal Digital Assistance)を発表するという噂がありますが,注目したいですね。


知的営為をアシストするもの
編集部 ぼくらも,最近あんまり頭の中だけで考えなくなって,ディスプレイ上で考えるというか,エディタの中で考えるという感じになってきてるんですが,IBM PCとかが登場して10年かけてワード・プロセッシングなどもこなれてきたわけです。あと10年で,もう一段階進むんじゃないかと思うんですが…….
坂村 まず10年たつと,キーボードに対してアレルギーのある人はいなくなるでしょうね。いまは過渡期だからね。いま本格的に文字認識をやろうとすると,すごく高いものについちゃうけど,10年たてば選択可能になると思うよ.アナログ的な思考する人もいれば,デジタル的な思考をする人もいるからね.
西 音声だと思う。音声認識ね。ぼくはね,
坂村 でもね、一日中しゃべってると疲れるよ(笑)ぼくは黙って仕事したいなぁ(笑)。
西 だからね、テキスト入力はキーボードで,編集は音声でやるんですよ。そこ右とか(笑),下とか,改行とかカットとか言ってね。音声認識でクイックアクションさせたら,すごい便利ですよ。
坂村 便利なときもあるかもしれないですね。
西 音声はね,次の時代にすごく明るいと思う.人間は光よりも音声の認識のほうが0.0何秒くらい速いんですよ。クルマのCD-ROMを使ったナビゲーション・システムってあるでしょ。あれは音声でやるべきだね。「そこ右」とか(笑)。「どこ?」って聞いたら,「ここは246の三軒茶屋」とか声で答えるようになるべきですよ。
坂村 たしかにクルマの場合はそのほうがいいね。
西 あんなグラフィックの地図つくるより,声で言ってくれるほうがずっといい。ヒューマン・マシン・インターフェイスの研究を,もっと身を入れてやるべきですよね。
編集部 秘書に向かって言うような感じでコンピュータに指示できればいいですね。これ何とかしといて,とかね.
西 何とかは無理かもしれないけど,ファイルの「オープン」とか,「クローズ」とか、「メニュー」って言ったらメニューが出るとか、「ダメ」って言うとアンドゥになるとかね。
坂村 何でも音声認識にするわけにもいかないだろうけど…….
編集部 雑談はキーボードでやるとか(笑).
西 週に1,2回テレビ会議をアメリカと日本の間でやるんですが,テレビ会議に出てる者どうしがコードレス電話でヒソヒソ話をするんですね(笑)。向こうに3人いて,こちらに3人,そのうちの2人が電話でヒソヒソ(笑)。というのが最近のテレビ会議です,うちのね(笑).
編集部 企業内BBSみたいなもので,会社の経費を大幅に節約したとかいうケースもあるみたいですが,ああいうシステムについては…….
西 企業内BBSというのが,どういう切り口で流行るかというと,日本の大部屋制だと非常に効率が悪いんですよね。人に邪魔されなかったり,電話がかかってこなかったら,仕事の能率ってものすごく上がるんです.
坂村 そうですね。
西 オンラインのノン・リアルタイムのコミュニケーションが流行ると思う.
編集部 時間の節約にもなるので,潜在的なニーズは相当ありそうですね。
西 オンライン,リアルタイムは犠牲が大きいですよ。ぼくもね,暇なときは日曜日でも電話に出ますが,ホントに休みたい日曜日には,電話出ないもんね。人間にとって一番大切なことは、自分の自由な時間だと思う.
坂村 いま西さんの言ったことは,要するに電子メールだね。
西 それもマルチメディアの電子メールね。
坂村 オンラインでやると,くたびれますもんね。
西 ほとんどの仕事はオフラインで片付くんですよ。効率上がりますよ。
編集部 ボイスメールとか…….
西 そう,ボイスもテキストもビデオも全部。だから,メールが来るでしょ,そのメールにポストイットみたいな感じで音声とかビデオとかが付いてるわけ.音声オブジェクトとか、ビデオ・オブジェクトみたいな形で付いてて、それをクリックしたら再生するわけ.「よろしくね」とか言ったりしてね。お願いしますアイコンとかね。
坂村 ぼくらも音声に関してはやってますけどね,圧縮してね。でも体に悪いっていうね。
編集部 どうしてですか?
坂村 突然,機械からこの声で,「読んどけよ」とか言われるから(笑).
西 いや、それはいいことですよ。そういうマルチメディアのコミュニケーションは、効率がすごくいい
坂村 電子メールをもっと普通の人に使ってほしいな。ぼくらはあたりまえに使ってるけど,普通の人は使ってないでしょ。インフラができてないから.
西 普通の人が,電子メールを使うようになる環境ができてくると思う。まずファクシミリが変わると思う.ファイルサーバーとファクシミリが一緒になると思うのね,イメージとしてはね。ワイヤレス留守番電話ってあるでしょ.あれをパソコンに置き換えると,子機が無線LANノートパソコン,親機が無線LANファイルサーバーになる。無線LANファイルサーバー兼プリンタ兼ファクシミリね。会社で,部とか課単位で1台親機があって,社員がみんな子機を持ってるわけ。そんなイメージ。


パーソナルコンピュータの仕事は,情報をインテリジェントにチューニングすること
編集部 印刷業界はいますごく人手不足で,編集の仕事も年末とかお盆とかには大騒ぎすることになるわけですが,郵便なんかも人手をすごく使っていて原始的ですよね。
西 郵便というのばね,手紙をデリバリーするものから物をデリバリーするものに変わると思う。つまり,情報はネットワークで流れて,情報でないものを郵便でやりとりするようになる.
坂村 そうなりつつありますよね。物流は残りますけど,デジタル・ファクシミリが普及すれば,高い品質でどこにでも送れますからね。でも,新聞や月刊アスキーをオンラインで送るとなると,さっきのインフラの話になるけど,大変ですよ。月刊アスキーを書店売りをやめて読者の家に送るとなるとヘビーですよ。テキストだけじゃなくて,カラー写真もあるわけだから.
西 そうはならないと思う。それは,テレビが出てきて新聞がなくなったかという話なんですよ.
坂村 そうね。
西 なくならない。電話が出てきて手紙がなくなったかというと,なくならなかった.電子メディアが出てきて,出版がなくなるかというと,なくならないと思う.
坂村 ただね、そういう時代になると,出版物はいまよりずっと奇麗なものにならないとダメだね。紙に印刷して持ってくるに値するものでないと.電子メールで送ればすんじゃうようなのじゃ価値がないね。
編集部 家庭で奇麗に印刷できれば,すべて電子的でいいわけでしょう.
坂村 うん、そうだけどね。
編集部 もっとも,そうなると全部を受け取る必要があるかという問題はありますけどね。
西 そこで,さっき言ったパーソナライズドというコンセプトが出てくると思う。セレクションはローカルでやるということね。
坂村 そうね,さっきのテレビの話と同じだね。
編集部 月刊アスキーも,読者によって,ここは読む必要ないというページもあるかもしれないから(笑)。
西 月刊アスキーは厚さが5センチになってもいいわけ.その中に自分の読みたいページがあるならね。新聞なんか完全にパーソナライズド・メディアだと思う.読みたいところだけ読んでるでしょ.
坂村 そうだね。あんなの毎日全部読む人いないよね。
西 テレビはダメなんですよ。チャンネルは選べても,選ぶための情報もなかったりするしね。だからパーソナライズド・ラジオ,まずこれからくると思う。有線放送ってあるでしょ。あれ440チャンネルあるわけ,440チャンネルあるということは,ほとんどパーソナライズド・ラジオの世界ですよ.
編集部 いまのテレビとかラジオは,みんなに受けようとして番組を作って,その結果誰もその内容に満足していないですね.
坂村 そうそう.
西 だから,こんな感じです。自分の好きな音楽や自分の好きな映画を常にやってるチャンネル.どうするかというと,メモリがあって,自分の欲しい番組をためてるんですよ。でね、そのパーソナライズド・テレビジョンのプラスαとして,インタラクティブな機能を持たせるというのがね,コンピュータ一家に一台ということの一番いいシナリオじゃないかと思う.
坂村 でも、そうなったときに,みんな何見るのかな(笑).結局,自主性がないとパーソナライズできないでしょ.
西 あのね、自主性じゃなくてね,テイストなんですよ.たとえば,食べ物の好みに自主性なんていらないですね.
坂村 ああ、でも普通の人ってさぁ,結局最後に何やっていいのか分からなくなると思うんですよ.TRONハウスでも似たような話があったんです。照明の組み合わせのパターンが16万通りくらいあるんですね。でも16万通りとか言われても、困っちゃうんですよ。だから,将来コンサルタントみたいなのが出てくると思う.たとえば,西和彦が勧める24時間とか(笑)。
西 それいいね。
坂村 そういうのがどんどん出てきて,ソフトウェアじゃなくて,ユースウェアとでもいうのかな,そういうふうな商売が出てくるんじゃないかと思うんだよね。
西 それがパーソナそれ,すごくいい発想だと思うね。ル化してゆくコンピュータの文化というものだと思う.
編集部 画一性を崩すというか,そのユーザー向けに柔軟に対応するというのがパーソナルコンピュータの本来の存在意味ですからね。
西 そう.
坂村 チューニングというのは、ますます重要になってくると思う.
西 あ、チューニングっていい言葉ですね.


日本の独自技術について
西 ここで坂村先生に伺いたいんですけど,コンピュー夕というのは1946年にアメリカで発明されたもので,だからコンピュータはアメリカの機械ですね.で,アメリカに対抗する日本オリジナルなものはTRONだけですね。それで2002年に,日本のテクノロジーはどれぐらいのオリジナリティをもって,どれぐらい世界に貢献できているのか,これを聞きたい.
坂村 難しい質問だなぁ(笑)。ぼくはもちろんオリジナルをやり続けるつもりでいますが,いまの日本の産業界を見てると,どうなっちゃうのかなと思うこともあります。よく言われることですが,松下電器なんかも最初はRCAやフフィリップスと技術提携してましたね。でも,松下が大きくなったのは,そういう外国企業との提携をやめてからなんですね。やっぱりね,日本が生き延びたいなら,独自技術をやらないと絶対だめだと思う。オリジナルをやらない限り産業としてはビッグになりません。そうしないと,ロイヤリティは上がるし,ミノルタやセガの例を見ても分かるように特許料も大変です。だからソフトから何から全部オリジナルでやらないと,産業としては成立しませんよ.
西 それは言えるでしょうね.そうねぇ,
坂村 特に生活に密着したような部分で,何をしてもいちいちロイヤリティがかかってくるようなことじゃ,ダメだと思うな。もっと,オープンにしないと.
西 もうひとつ。日本のコンピュータ教育の展望というか,10年後の日本の大学のコンピュータ・サイエンス学科というのはどんな感じですかね。スタンフォードとか,MITとかに追い付いてますか.
坂村 AT&Tとかに恨みがあるわけじゃないけど,UNIXベースのことをやっている以上,アーキテクチャなどでオリジナリティは出にくいね。
西 UNIXをやる限りUNIXを超えられない…….
坂村 超えるためによく知ってもらいたいなんてヘンなこと言ってる人がいるけど,そういう教育自身を変えないとだめだと思う。それをやってると,アプリケーションのエンジニアは育っても基礎技術のエンジニアは育たないですね。インテルの石の使い方が分かっても、自分たちでオリジナルの石を作れるかというと,できない.コンパチをやってると,エンジニアリング技術は上がりますが,新しいアーキテクチャを作るということはできなくなる.
西 なるほど.
坂村 世間的にはアメリカの規格というのは当面リーダーであり続けるだろうけど、やっぱりいろんなものがあるから面白いのであって,標準化するところを間違ってるんですよ.データ交換の標準化なら大賛成です.インターフェイスも標準化したほうがいいでしょう。でも,OSとかCPUとかはいろんなものがあったほうがいいし,それができるようになってきている.だいいち,そこにエネルギーを注がないと,差が出なくなっちゃう。そうなると,つまんないよね。いろんなものがあったほうがいいし,そのためにぼくの活動があるし,オリジナルをやる人が育ってほしい.
編集部 ただ昔は日本は研究におカネを使わないとか言われてましたが,いまはもう毎日食べてるお米の売り上げより研究費のほうが大きいとか聞いてます.そうなってくると,案外10年後ぐらいに日本がオリジナリティを持ってやってる可能性もあるんじゃないですかね.
坂村 いや、ぜんぜん諦めてはいませんよ。
西 さんも言ったように,世代交替もしてるからね。ただ,今のパソコンの世界からは出てこないことですからね.FM TOWNSなんかも,あそこまでやっておきながら,なぜOSがMS-DOSなのかな。惜しいと思うよ(笑)。
西 デジタル・オーディオとデジタル・ビデオ…….
編集部 ぜんぜん別のことを……(笑).
西 では最後にね,古くて新しい問題ですが,コンピュータに意識を持たせるというようなことね,人工知能やってる人は諦めちゃったけど,どう思われますか。ぼくらはコンピュータはしょせん道具というふうに捉えてて,普段そういうことは考えませんが.
坂村 はっきり言いますが,シリコンで作るのは無理でしょうね。非ノイマン・アーキテクチャであろうが,何を持ってきても絶対にできないと思う。唯一可能性があるのは、ぼくは非常に嫌いなんだけど,遺伝子工学とか生命化学を応用したようなものになる可能性がきわめて高いね。そういう技術とマイクロチップをくっつけたりすると,ヘンなものが出てくる可能性はあると思いますね。ただ,そういうことはやっちゃいけないと思うし、ぼくの趣味としては大嫌いだし,話すのもイヤだけどね(笑)。
('92.5.19)

撮影協力:割烹たちばな

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なんかちょっと違ったよなという発言が多いが検証は後回しにする。

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未来コンピュータその3(月刊ASCII 1992年7月号9) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

「未来コンピュータ」から「パソコン使いの達人にインタビュー!」をスクラップする。

高橋 悠治
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――最近はずっとコンピュータを使ったライブをやってらっしゃいますが.
高橋 最近じゃなくて,私は昔からコンピュータを使ってたのね。1964年にパリで,IBMのシステム360を使って自動作曲をさせたのが最初で……FORTRANでプログラム書いて,出力,それは数字の表なんだけどそれを楽譜に直して演奏してテープに取る,と.
 最近コンピュータミュージックっていうと,テープレコーダの代わりのような使い方のことを指すことのほうが多いみたいだけど,僕が今やってるのは,当時から大型コンピュータを使ってやってきたことに近いんじゃないかな.
――大型コンピュータでは何をするのでしょうか?
高橋 私がいっしょに研究してたクセナキスは,確率理論に基づく曲の生成や、最近では確率波……つまり,確率によって波形を作る,なんてことをやってる.
 けどこれって,すごい計算能力が必要だから,リアルタイムじゃできないのね。44kHzで再生するとしたら,4万4000分の1秒の間に波形の次の点のデータを計算しなくちゃいけない,それはまあ,どういう理論で音を作るかにもよるけど。だからヨーロッパでコンピュータ使ってやってる人の場合,作品はたいていテープなの.大型コンピュータで,何秒分かずつ計算して,テープに録る,という作業をくり返して1曲作るのね。でも,もうちょっとコンピュータの能力が上がるか,あるいはDSPの機能が上がれば,リアルタイムでそういう計算ができるようになるでしょう。最終的にはパソコン上で使えるようになるのかもしれない。
――現在のライブではどういうことを.
高橋 今やってるのは、自動作曲&自動演奏,で,それに人間が途中でかかわる,っていうスタイル。曲を構成するさまざまなモジュールをプログラムで制御することで作品が生まれる。今はMacintosh上でMAXっていうGUIベースの開発言語を使ってる。これは確率とか条件判断とか,普通のプログラム言語ができる処理はだいたいできるから.
――こうなってほしい,ということはありませんか?
高橋 そうね,たとえば今,人間のアクションを入力として取り込む場合,Pitch to MIDIコンバータっていう,音の高さをMIDI情報にする装置を使うんだけど,これだと単音しか取れない。和音が取れるともう少し複雑なことができるんだけど.
 あと,もう少し融通がきいてほしいね。プログラムの一部を修整したいときなんか,まずその部分がちゃんと動くかどうか,それから,それによって全体が変なことにならないか,いつもしっかり考えてチェックしながら進めなくてはならないのでとても大変です。楽譜を書くときなんか,普通はそんな細かいことまで考えないんだけど.コンピュータにもそういう,自己修復機能みたいな機能があるといいなあと思う.
――10年後,あるいは未来の音楽シーンへのコンピュータの影響についてはどう考えられますか?
高橋 作るということの意味が大きく変わってくるんじゃないかな.音楽作品,私の場合それはプログラムですけど,そうじゃなくて普通の,標準MIDIファイルのようなものでも,公開されれば誰でも作品を入手して,それに対してとても簡単に手を加えることができる.すると,誰の著作物でもないような音楽が出てきます。特に作品がプログラムだと,作品の本質にかかわるような部分も簡単に変更できるわけですから.また,ネットワークを通過することによって作品が成立する,なんてことも起きてくるでしょうね。そこで何が生まれるかは興味深いですね。


石原 藤夫
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――過去のSFと実際のコンピュータの発展をながめてこられて,どのような未来像が見えてきますか?
石原 SFにおけるコンピュータ像は,初期のころは巨大で万能の,ほとんど神のような役割を演じるというパターンが多かったと思います。もっとも,先日発掘したHURLYという作家の作品のように,小型化して,家庭に端末が入るなんてことを予測したものもあったけれど,基本的には真ん中に大きな大きなコンピュータがあってそれがすべてを制御しているというのが多いですね。たとえば今私の机の上にあるPC-9801FAのような,ひとむかし前の大型コンピュータをしのぐようなものがこんなに家庭に入ってくるという方向になるとは,ほとんど誰も予測していなかったのではないでしょうか.
 そういう意味では,SFに見るコンピュータから未来を語ることは、なかなか難しいものがありますね。
――今コンピュータに望むことといったら何がありますか.?
石原 作家としての立場から言えば,自動でプロットを作ってくれるようなのがあるといいね。ロマンス物なんかでは実際に使われてるらしいけど,適切なアシストをしてくれるようなものを作るのは難しいみたいですよ.
――では,工学博士として,10年後のパソコンを予想していただけないでしょうか?
石原 ここ10年に関しては,自動翻訳がたぶん実用レベルに達すると思います。これは非常に大きなことですね。現在,世界で流通している情報の多くは英語です.ドイツ語やフランス語の論文では,アブストラクトだけは英文がつくのが普通ですし,日本の論文でも重要なものはほとんど英語に翻訳されます。その点で,われわれは英語圏の人にたいして情報のタイムラグや利用可能性という点で大きなハンディキャップがあるわけです.
 ですから,自動翻訳が実用レベルになれば,われわれ日本人にとっては、ワープロの出現と並ぶ大きな変化が起こるのではないかと思います。これには同時に,紙を読み取る技術も進歩していてほしいのですが……英文の資料をスキャナみたいなもので読み込ませながら,場合によっては音声で補足的な情報を付加していく,みたいな方法が実用化されると思いますよ。
――コンピュータの進化を考えると,現在の延長として人工知能やロボットといったものが思い浮かびますが.
石原 今言った自動翻訳なんてのは、いわば人工知能ですよね。SFで出てくる,感情を持ったアンドロイドみたいなものも、ずっと先には可能かもしれません。でも,コンピュータって,基本原理はほとんど変わらずに,ただパワーとメモリがどんどん大きくなっているわけですよねえ。その過程で、ワープロなんてものが急に実現可能になったりもする。量が質に変化するのを待ってるわけですから,未来を予測するのはとても難しいですね。でも、徐々にはSFの世界にも近づいていくのではないですか.
――ともあれ未来には期待できると.
石原 いいえ。この10年,日本は本当にあぶないと思いますよ。まあこれは日本に限らず先進国全体に言えることらしいのですが,技術が発達すると,技術者になる人が減るんですね。技術者っていうのは,非常によい製品を作っても科学者のように名前が残ることはめったにないんですね。でも,ちゃんと本読んで研究しなければならないし給料は安いし.いわゆる高度成長時代には,戦時中国策で研究をさせられていた,朝永博士のような非常に優秀な方が民間にまわって研究を続けられていたからここまで来たわけですが,最近はうちのゼミでもみんな金融とかマスコミとかに行きたがる.人間の総数のうち,技術者としての適性がある人はやっぱり限られていると思うんです。そういう人をどんどん別の分野に取られてしまうと,すでに作られたハイテクの世界,たとえば原子力発電所のようなところで大きな事故が起こるようなことにならないでしょうか。ハイテクに依存した状態で,システムを維持できなくなるのは恐ろしいことです.


杉田 敦
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――パソコンは,わずかな歴史の間にひとつの文化のようなものを形成してきましたよね。
杉田 パソコン文化は,とくにカウンターカルチャと非常に親和性がありました。パソコンが誕生した時代には,ビッグブルー,つまり大型コンピュータのIBMが一方にあった。パソコン登場の背景には,そうした抑圧的なテクノロジーに対して,情報の寡占を許さないぞという大義名分のようなものがあったわけです.その後,IBM自体がパソコンを売り出すようになるわけですが,基本的にはそういう精神的な背景をもって,パソコン文化はアメリカで花開き,根を下ろした.
 ところが,日本の場合は大きく違います。そういう解放のテクノロジーという雰囲気は受け継いだものの,それがあくまでも雰囲気だけのものに過ぎない.日本の場合は,パソコンをどう使って,どう捉えていくかという意識が非常に希薄でしたね。どうも,パソコンを技術的にどう発展させていくのかというレベルにばかり注目して,どう捉えるのか,どう使うのかという意識がおざなりにされてきた.
――アメリカは,テクノロジーに関して楽観的ですよね。
杉田 ミンスキーなどは,かなり早くから自分の立場を明確にしていますね。コンピュータが出てきて人間の生活は大きく変化するだろう,そして,それが悪かろうが良かろうが,とにかく進歩すればいいじゃないか、と非常に無謀なことを言っている。もっとも,その後は慎重になるわけだけど,結局は確信犯であることに変わりはないわけです。日本の場合,電子テクノロジーそのものが,弾道計算や原水爆の開発などに非常に深くかかわって出てきたという,いわば原光景のようなものを,忘れてしまっている。そうしたことへの反省なしに,脳天気に電子テクノロジーに身を捧げちゃってる。
――そういう意味では,アメリカ的な確信犯のほうが,まだましだということですか?
杉田 僕はそう思います。でも,それはアメリカの真似をしろということじゃない。抑圧的なインパーソナルなテクノロジーに対するパーソナルな解放のテクノロジーという言い方にしても,そもそも,かつてのカウンターカルチャの指導者たちが惹かれ,そこに乗っていったのは分かります.しかし,まがりなりにもポストモダンという物語の不在を,すでに経験経過した知性が,はたして素直にその物語に乗っかっていいのかというと,はなはだ疑問ですよね。
――しらじらしく進歩という「大きな物語」を新たに捏造するのも危険ですよね。
杉田 つまり,これからの課題は,カウンターカルチャの亡霊から脱して,どういうものを作るべきかを意識的に選択していくということでしょうね。そのときに,パソコンなんてなくてもいいではないかという考え方を、ひとつの選択肢として残しておきたいというのが、僕の考えです。
 ミシェル・アンリなどは,生の自己成長としての“文化に対する野蛮”としてのテクノロジーに嫌悪しています。これは,あまりにナイーブではないかと言われてますが,これはこれでいいのだと思います。というのは,そうした問いまでを視野におさめたうえでテクノロジーの進歩が選択されてきたとは思えないからです.ただ,無視されてきただけであると……テクノロジーに対する否定的意見を捉えて,意図的に,責任を明確にしたかたちでの「進歩」が選択されてきたのではないのです.
 サミュエル・バトラーの「エレホン」は,機械文明の進展を拒否し,271年以上の歴史を持たない機械はすべて放棄するという国の話です.“nowhere"のアナグラムでもある「Erewhon」は,決して現実にない不可能の国ですが,この物語を過度のテクノロジーアレルギーとして読むのではなく,非進歩に判断を下した国のものとして読む必要があるでしょう。パソコンを含めたテクノロジーは,少なくとも進歩への判断の中にこそ生かされるものであって,無判断の処女地の野蛮であってはならないのです。


立花 ハジメ
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――いままでいろいろな分野にコンピュータを応用していらっしゃいますが,積極的にコンピュータを使ってきた理由は?
立花 うん、確かに音楽,ビデオ,グラフィックと,どこかしらコンピュータを使ってきたね。でも,機械べったりというやり方はしてない。機械の作業と人間の作業のバランスをとることに気を使ってきたというか。機械べったりに作ってしまったら,それは単なる機械のデモだから.
 パソコンっていうのは,個人を開発して自由になるための道具,人間を覚醒させるための道具だと思うんだ.
――覚醒……とは,具体的にはどういう意味でしょう?
立花 人間はみんな超能力者なのね。自分でも気がつかないような可能性,あとから考えて自分自身にびっくりするような発想っていうのは,それはすごく低い確率かもしれないけど,ときどきぽこっと泡のように浮かんでくるよね.それを素早く書きとめる,形にする,作品にすることができる人は,超能力者と言って悪ければ,高能力者と言えるんじゃないかな.
 だから,覚醒するためのツールは別にコンピュータに限らないよ。ベンチャーズにとってはギターがそうだし,ダ・ビンチにとっては画材がそう.パソコンも本当はそういうツールのはずなんだけど,僕の見たかぎりいまだにダビンチもベンチャーズも現われていない.
 コンピュータを使えば,できた瞬間に「古典」となるような作品がもっといっぱい作れるはずなんだよね。
――古典というのはどういう意味でしょうか.?
立花 たとえばローランドのTR808っていうリズムマシンがある.通称ヤオヤっていう,ミュージシャンの間では伝説的なリズムマシンなんだけど,こういうのは古典だよね。今これを録音しているウォークマンも,最初のソニーのウォークマンは古典と言えるでしょう。そのあとリズムマシンにしろカセットレコーダにしろ,似たようなのがたくさん出たけど,それは結局真似だからね。
 それが最近は,みんなそういう「時代の作品」を楽しむことが多くなっているような気がする.今ハウスがはやってるけど,出現したときは古典と言うべき作品だったんだろうけど,今ハウス作るっていうのは自分で作ってるように見えて、実は時代が作ってるんだよね。典型的なのは自動車のデザインとかね。みんなおんなじでしょ。これは、合議制の問題が大きいと思うんだ。みんなで考えて,あれもつけよう,これもつけよう,っていったら,同じになっちゃうよ.
 ぼくはやっぱり,「個人」が作ったもののほうが面白いと思うし、作った瞬間古典になるようなものっていうのは個人でなければ作れないと思う.
――パソコンによって,またパソコンの進化によって,CGや音楽や、そういった芸術にどのような影響が今後起きてくるでしょうか?
立花 ぼくはこのあいだ,MacのIllustratorってソフトを使ってタイポグラフィを作って,それでいくつか賞をもらった――それによって,パソコンはギターや絵筆のように個人を覚醒させるツールになることを証明できたと思うんだけど。でも,Illustratorでそういうことをやる人っていないんだよね。せっかくMacみたいなすばらしいツールがあるのに,みんなで版下ばっかり作ってもしょうがないでしょう?10年後にパソコンがどうなるかなんて分からないけど、でも,パソコンを使って覚醒して,おもしろい作品を作る人は出てくるんじゃないかな.


高城 剛
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――10年後のパソコンはどう進化するでしょうか?
高城 僕が必ず言うのは,コンピュータはスタンドアロンの文化ではなく、常に現実世界,実際の生活と密着して発展していくものだということ.ある日突然,ブレードランナーのようなSF映画的状況――目の中にコンピュータをジャックインするとか――が来るわけじゃない。「お茶の間」の風景は,結局,変わらないんです.
 ただしひとつ言えることは,入出力に大きな変化があること。それから,筐体がどんどんコンパクトになっていくこと.CPUのクロックが何MHzであるとか,RISCチップがどうとか,それは実は大きな問題じゃない。非ユーザーまで含めたわれわれの生活の大きな変革は,やはり入出力端末の問題とサイズの問題,この2点だと思うな.
――小型化することはどういう意味を持つのでしょうか。
高城 温泉でも野原でも,どこでも連れていけるようになる。ウォークマンはあくまで単体で楽しむものだったけど,コンピュータはコミュニケーションメディアとして成立するでしょう.今,PDA(Personal Digital Assignment)とかIPC(Intelligent Personal Communicator)とかいろいろ言われているけれど,新しい通信機器としてのコンピュータがどんどん出てくる.どこに持っていっても,必ずどこかにつないでくれる.そのときには,すでにコンピュータという名前ではないような気がしますね。
――入出力に関しての問題点は何かありますか?
高城 今,コンピュータの入出力,あるいは表現の問題で一番足りないのは「温度」なんです。簡単に言ってしまうと,CGと普通の35ミリで撮ったものといったいどこが違うか?それは温度35ミリのムービーで撮る場合,極端な話,照明のそばに寄れば熱い.で,役者さんは汗をかく,当たり前の話だけど,それがすごく人間くさい部分を見せてくれる。そういう要素がCGにはないよね。
 入出力,特に出力するときに体感できる「温度」ができたときに,それはコンピュータという域を超えて,きわめて何か違う新しいものになるような気がしますね。いずれにしろ,どんなに速い動きの画像,どんなに高解像度のモニタよりも,温度をいかに僕らの手にもどしてくれるかが,僕は一番大事なことだと思う.
――マルチメディア時代だ,と言われますが.
高城 日本人は機械好きだよね。会うとまず,何持っているの?いいマシン持ってる人が偉いみたいな。メディアというのは,ソフトとハードが一体になって初めてメディアになるんだけど,今の状況はニューメディアじゃなくてただのニューテクノロジーだよね.テレビで流される番組について語ることをしないで「俺,テレビ持ってんだぜ」って自慢してるのと同じ。そうした機械自慢ではなく,やはりメディアとしてもう1回考える時代が来るというか、もうコンピュータを持つのが当たり前になる.その端的な例として僕がよく言うのは,'80年代に女の子を部屋に連れ込むタームは「うちにビデオ観に来ない?」だった。ところが'90年代は「こんなソフトがうちにあるけど」がくどき文句.そういう時代が確実に来るわけ.
――ホットドッグプレスの特集で,女の子を家に連れ込むアイテムになっていたり、と.
高城 そう.HDPで特集を組むくらいになることが,コンピュータカルチャーとしてすごく大事。それにもうひとつ,アンダーグラウンドの問題。イデオロギーを持ったアンダーグラウンドなメディアが必ず確立してくると思う.いずれにしろ,パーソナルなメディアを持つことは大事だよね.CD-ROMプリンタでオリジナルCDを作って匿名的にばらまいたり、とかね。テレビのチャンネルが一番分かりやすいけれど,CSが出て50チャンネルの時代が目前に来てるわけ。当然,ソフトの作り手が足りないんだ.すると,素人が作ったものでも面白いものならどんどん放送されるようになる.億総ディレクター時代,一億総ハイパーメディアクリエイタ一時代がやってくる。個人個人でものを言う時代なんだ.


奥出 直人
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――パソコンはマルチメディアをねらっているようですが,10年後にはどうなっているでしょう?
奥出 最近,“マルチメディアエクリチュール”ということをテーマにして,いろいろなところで話をする機会があります。要するに,エクリチュールの問題をマルチメディアで考えようということです.
 今までのコンピュータを振り返ってみると,それまで存在していたメディアを,コンピュータが代替していくという歴史でした.しかし,マルチメディア環境は,コンピュータがなければ存在しなかった,なにものかであるはずです.そして,それが表現するものを“マルチメディアエクリチュール”,その能力を“マルチメディアリテラシー”と呼んでみようということです。僕は,コンピュータは,空間とか部屋のようなものになっていくのではないかと考えています。たとえば音楽室とか図書室とか、そういうもの自体がコンピュータになっているということです。
――とすると,パソコンというものはなくなってしまうということですか?
奥出 パソコンは,今のようにCRTとキーボードというかたちではないかもしれませんが,マルチメディア空間の一部としては存在し続けるのではないでしょうか。
――マルチメディアというのは,どういうイメージのものなのでしょうか.
奥出 パソコンにワープロのソフトを入れたとき,感動がありました。画面に文字が出て,自由に入れ替えて編集できる。その次の感動は,初めてパソコンをネットにつないだときです.そういう率直な感動の延長線上にくるものでなければ,マルチメディアは成功しないでしょう.MacやWindows上のマルチメディアは,僕は,どうも違うな,と思っているんですよ。むしろ,ビデオをビデオプリンタでシーンごとに出力して,それを壁一面に貼り,どうエディットしようかと考えているほうが、よっぽどマルチメディアっぽい感じがしますね。
――そういった,マルチメディアエクリチュールにいちばん近い機械は,現在ではどういうものでしょうか
奥出 いちばん近いのは,ファミコンでしょうね。あれは,ハードに限界はありますが,その範囲内で,マルチメディアリテラシーの基本を切り開いたと思います.もうひとつは,ウォークマンやカーオーディオです。移動する感覚と音の結び付き方が,マルチメディア的です.いままでバラバラにあったものを統合して,違う角度から世界を認知できるようにするものであればいいわけで,それをコンピュータ空間なんかに持たなくてもいい。
 これは人間とコンピュータがフュージョンして新しい系を作るという方向なんです.今までのサイバースペースというのは、人間がコンピュータに入るわけで,決して外に開いているものではなかった。それに対して,マルチメディアはコンピュータと人間が外に開いたかたちで系をつくる。コンピュータの方向としても,そうしたコンセプトで,ウォークマンやカーオーディオの先に何かあるはずなんですよ。そのひな型は,まちがいなくファミコンだったけれども,ファミコンでいくらがんばっても,それこそ三輪車でどこまで速くこげるかを競っているようなものです.
 たとえば,今の高校生のダンスは、僕らが高校生のころよりも断然うまい。これは,プロの踊り手のダンスをビデオに撮って勉強しているからです.ビデオを何度も見直して研究して練習したら,ダンサーのように踊れてしまう.そういうこともマルチメディアリテラシーだと思います。
 そういう萌芽のようなものはあちらこちらにあるけれども,いざコンピュータの世界にくるとコンピュータリテラシーという怪物がいて,その成長を阻んでいる.もう,マルチメディアはそこまできているのに,バロック的ともいえるプログラミングの必要性が,その開花を妨げているような気がしますね。マルチメディアのためのオーサリングツールが必要なんですよ.「近代」の感情を生むために,たとえば西脇順三郎が新しい日本語を生んだみたいにね。


藤正 巌
東京大学先端科学技術研究センター,同大学医学部医用電子研究施設教授.著書に『マイクロマシン開発ノートブック』(共著,秀潤社)などがある.
――コンピュータは,この10年でどのくらい小さくなるでしょうか.
藤正 どのくらい小さくなるかということは,基本的には従来の技術の延長線で考えていけばいい。要するに,どのくらい細かい素子が作れるかという話。さらに量子素子にすれば,分子レベルの大きさの論理ゲートを作れるわけです.ある時点で量子素子ではなく,光素子になったりするかもしれないけど,それでも結局は,現在の技術の延長線上の話です。だから,コンピュータがどのくらい小さくなるかという話に,僕は関心がないのです.
――現在のコンピュータとは,まったく別の機械を考えていらっしゃるわけですか?
藤正 何かを作ろうと思うとき,お手本があるために,かえってそれを超えることが難しいということがありますよね。そういうモデルがない分野は,人間はどんどん先にいってしまいます。その典型的な例が電子素子の世界です.本来、自然の中にはなかった電子素子だからこそ,人間は考える余地があった。どんどん先へ先へと考えていくことができたわけです.では,神様が創った生物を乗り越えるにはどうしたらいいか。まず,観測することです.
――すでに,われわれは分子レベルまで観測対象にしているのではないですか?
藤正 たしかに,分子1個でも観測できますが,分子生物学や生物物理学の世界の1nmのオーダーから,その1000倍の,可視光の顕微鏡で見える1μmのオーダーまでいきなり飛んでしまう.分子生物学というと,分子1個1個のオーダーまで操作できるようになったと考えやすいんだけど,実はその途中がとんでいるんですよ.生物は,その中間のメゾスコピックといわれる領域にすべての原理がある.
 ここの領域は,1985年あたりまで観測系がありませんでした。電子顕微鏡だと,一気に分子のレベルまでいってしまうために,この中間領域の観測系がなかった.そのため,生きているものを生きたまま見る術がなかったのです.だからといって,シミュレーションでその領域の構造学をやろうと思っても,数nmの大きさになるとダメになってしまうんですよ。それ以上の大きさになると,複雑すぎて計算ができなくなってしまうからです。ところが生物は,その領域で,実にうまく機械を作っているわけです.これは何かあるぞ、と誰でも思いますよね。
 その領域を観測する,新しい方法が見つかったということが重要なのです。走査トンネル型顕微鏡(STM)やレーザ走査型顕微鏡などがそれですね。今までまったく見えなかった世界を,突然,見えるようにしてくれた。今まで生物という生きたものを生きたまま観測できるというのは,1μmのオーダーまでだった.ところが,1μmよりも下のオーダーのものが,生きたまま見え始めた。もう一方では,バイオテクノロジーで遺伝子の構造を読み取って,それをクローニングした遺伝子でもって,ものを生物に作らせることができるようにもなった。これで,初めて,観測系と合成系がそろったのです.
――ということは、いよいよメゾスコピックの広大なフロンティアが開けたということですね。
藤正 そうですね.生物を見てみると、実に不思議な機械なのです。見れば見るほど不思議です。たとえば,生物の神経系をはじめとする細胞は,みんながイメージしているような単純な線維や水の入った袋でなく,ものを運んだり組み立てたりする道具であるモータータンパクと細胞骨格でできている.この原理が分かれば,コンピュータだってオートアセンブルで作れるんですよ。このモータータンパクは,コンピュータの世界でいうアセンブラです.これを作ってやって,何かのシグナルを送ってやるとものを作り始める。まさに情報機械です.そうやれば,今までの電子系の人たちの作ったコンピュータとぜんぜん違ったものを作ることができるかもしれない.
 コンピュータを物質系から考え直すということは,当然のことではないでしょうか。その原理が,この10年ぐらいのうちに見つかるでしょう.

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武邑 光裕
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武邑 このところ急速に進んだダウンサイジングによって,スーパーコンピュータ/ワークステーション/パソコンといったハイアラーキーが,成り立たなくなってきましたね。たとえば,ハイエンドコンピュータグラフィクスと言われている領域も,この3年ぐらいでパソコンの環境になだれこんでくるでしょう。ただ,現在のウィンドウベースのパソコンの情報処理環境,いわゆる2次元的な情報処理環境は、ここしばらくは基本的に変わらないと思います.この10年で並列処理のようなことがパソコンレベルで可能になって,情報処理環境が非常に加速化されることになるかもしれません。しかし,それが一挙に3次元化してVR的なものに変化するとは思えませんね。
 おそらく,コンピュータは,マルチメディアのプラットフォームというか,コアにはならないでしょう。マルチメディアは,今までのテレビや電話,ミニコンポなどの旧来型のAV装置の延長線上のメディアとして,成熟していくだろうと考えています。
――ということは,家電でマルチメディアが実現するということですか?
武邑 いや、もう家電という概念自体が崩壊することになるでしょうね。ホームエレクトロニクスという概念では,これからのマルチメディアというものを考えることはできません。そのための新しいコンセプトを導入しないとダメでしょう。マルチメディアのためのインフラストラクチャが整備されてくるのが,1990年代だと思います.'90年代後半のイリジウム計画などは,その代表的なものですね。光ケーブルなどによるリニアな通信ではなく,大量の通信衛星によるワイアレスの世界標準化が起こるわけです.
 去年,AT&Tに映像の発信サービスの認可がおりたわけですが,これは,“放送”が“通信”へとシフトしていくという,巨大な産業変換を意味しています。そういうグランドデザインの視点から見たアプローチが必要になってくるでしょう.
――新たに必要なコンセプトというものは,具体的にはどのようなことを考えればいいのでしょうか?
武邑 重要なのは,われわれの情感=感覚情報の新しい計量化です。かつてマクルーハンが,感覚の計量化を試みましたが,どのような感覚的,情感的なモチベーションをメディアとの関係の中で可能にするのか,そしてどのように生成していくかといったことを考えなければならない.たとえば,今のコンピュータ上のマルチメディアは,せいぜい21インチ程度のディスプレイと至近距離で向かい合わなければなりません。その距離で見ることを前提に,解像度を上げていくという方向にある。それに対して,テレビは,2mから3mは離れて見ているわけです。この違いというのを,はっきり意識すべきではないかと思います。
 ハイビジョンの1125本の信号を,ふつうのNTSCの525本の信号として見ることができるようにしたテレビが出ていますが,フルスペックのハイビジョンテレビとこれを並べてみると,ほとんどの人は,ダウンコンバートしたNTSCのほうがきれいだと言うんですよ。これは主に輝度の問題で,2mとか3m離れてみると,決してハイビジョンがきれいには見えない。近づいてみると,もちろん,ハイビジョンのほうがきれいだと分かります。おそらくハイビジョンはマルチメディアとしてのディスプレイ環境を統合していきますが,そのためにはNTSCをどのように内包するかをも考えていく必要があると思います。つまり、感覚的なモチベーションをきちんとわきまえないで,数字上のスペックだけを追い求めていくと,テクノロジーのイノベーションは,ハイビジョンにしろ,コンピュータ上のマルチメディアにしろ,これから難しい局面にぶつかるということです.
 これは,次世代のあらゆる先端技術を,エンターテイメントテクノロジーという枠組みの中で,再編成しなければならないということを意味しています。そのときに,僕が,「メチエ」と呼んでいるものが重要になってくるのです。この「メチエ」という言葉は,日本では「技芸」と訳されることが多いのですが,「技術」と「芸術」を統合化し融合した概念です。今までの20世紀的なアートとか芸術,技術と言っていたものとはかけ離れた,新次元の「メチエ」というものが創出されてくるプロセスが,この'90年代に予備的に出てくるのではないでしょうか.


巽 孝之
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アーサー・C・クラークの「2001年宇宙の旅」は未来を描いたものですが,実際に発表されたのは1968年です.だから,未来といっても1968年においての“未来”なんですね。クラークの小説版をよく読むと,コンピュータに関連する重要な示唆があります。あれは,実は,HAL9000型とモノリス型の2つのコンピュータが闘争する物語として読むことができる。普通は,たんに映画版の印象なんでしょうが,モノリスを一種の超越的な神秘的実体だと思い込んでしまっているため,どうもドラッグ体験や意識革命に結び付けて考える傾向が強い。キューブリック自身の映画のラストシーンが典型ですね。
 ところが,クラークは非常に緻密に小説を書いていまして,HALの発狂も,モノリスがハッキングをした結果ではないかというふうにも解釈できるんですね。モノリスがHALをしきりにいじっているんですよ.今考えれば,モノリスというのは一種のサイバースペースのようなもので,ギブスンならばマクロチップ(マイクロチップではなく)と呼ぶであろうような,そういうイメージを予告していたわけです.HAL9000型のテクノロジーが滅んで,その次にモノリス型の時代がくるという,あれは一種の予言の書だったんじゃないかな。映画では,あくまで'60年代的な感性によって,モノリスはドラッグであるということになっていたのですが,そのドラッグ自体がマイクロチップによってとって代わられた。つまり、反テクノロジー的にして“最も文学的”なイマジネーションをかき立てていたモノリスが,現在では立派にテクノロジーと化すというパラダイムシフトがあったわけですね。
――そうしたモノリス的テクノロジーは,どういう影響をもたらしているのでしょうか?
'60年代を動かしていたのは,たしかに“未来”というパラダイムだったと言えるでしょう。そうした“未来”にぴったりだったのがHALでした.ところが,その“未来”がとうに過ぎ去ってしまっている.未来というのは,今や言説にすぎません。ですから,今のSFが描くのは,未来ではなく現在や過去になっている.
 過去、現在、未来というリニアな時間軸がありましたが,今は,どんどん現実や歴史、そして未来までをも複数化して考えられます。そもそも,“未来”ではなく“現在”だと言っても,それは新たに“現在”という名の神話(=オモチャ)を手にしたにすぎない。“現在”も過ぎ去ってしまうでしょう.ただし,スチームパンクのような歴史改変ものの小説やゲームが流行る背景には,モノリス的ハイテクによる差異化が進んで,歴史や人間のアイデンティティを,“現在”のあり方さえも,いかようにも語ることができるようになってしまったということがある.そういう感性は,すべてハイテクによってもたらされたはずです.
――ハイテク化が,人間の内面までも変えてしまうということですね。
というよりも,まずイマジネーションがあって,それがやがて具体的なテクノロジーとなるんじゃないでしょうか.リチャード・コールダーがナノテクを主題化したSFを書いた背景には,まず人形愛的なピグマリオンコンプレックスへの傾斜があったわけだし…….
――10年後を予測できるような現在のイマジネーションは,どこらへんにあるとお思いですか?
ブレット・イーストン・エリスの小説に出てくるような,おぼっちゃま/おじょうちゃま悪ガキ集団を「ブラットパック」(BratPack)と言っています。若くして地位も財産も得てしまった人間は,ちょっとやそっとでは満足しない。「アメリカン・サイコ」で描かれたみたいに,昼間はウォール街のエリート,夜になるとチェーンソーを振り回してエルム街の悪夢をやってしまう.今までは,そういうバイオレンスに走るのは,下層階級やドロップアウトだったわけですが,この「ブラットパック」は良家の子女でなければならないんですね。この「アメリカン・サイコ」で描かれているようなチェーンソーの役割が,なんらかの構造としてハイテク環境で反復され,抽象化されていくんじゃないか。今は文学的イマジネーションでしかありませんが,おそらく10年後には,そういうものがなんらかのテクノロジーとしてハイテク上流階級の欲望を写しとっていくと思います。



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未来コンピュータその2(月刊ASCII 1992年7月号8) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

特集記事「未来コンピュータ」から「メーカーの考える近未来のパーソナルコンピュータ」をスクラップする。
メーカーの考える近未来のパーソナルコンピュータ
 Apple Computer「Concept Models from Apple Computer」
 Apple社は全製品のインダストリアルデザインを担当すIDg(インダストリアル・デザイン・グループ)と呼ばれる社内組織を持っている。同社は1988年に音声認識/合成やアニメーションなどのマルチメディア機能と通信機能を備えた個人向けの情報機器「ナレッジ・ナビゲータ」のコンセプトを発表しているが,IDgはこのデザインにも大きく関わっていた。さらにこの5月には次世代の個人向け情報機器といわれるPersonal Digital Assistant(PDA)もお披露目され,Apple社はこの分野では最も進んだ動きを見せている。
 今回紹介するのは,IDgに所属するデザイナーの手によるコンセプトモデル群である.今年のMACWORLD Expo/Tokyo '92のアップル社ブースにも展示されていたので,ごらんになった方もいることだろう.ただし,これらは製品化を前提としてデザインされたものではない。インダストリアルデザインが,いかに新しい製品アイデアや発想を引き出せるかを明らかにするものだという.細かいスペックなどは入手できなかったが,それぞれのコンセプトから,用途などはある程度推測できるであろう.
 本特集では編集部が提案するところの10年後のパーソナルコンピュータを紹介したが,これだけでは不十分かもしれない。現在パーソナルコンピュータや個人向けの情報機器などを製造している各メーカーこそが,最も真剣にそれに取り組んでいるはずである。国内の主要なメーカーに10年後に限らず近未来のパーソナルコンピュータとして研究中のものがあったら公開していただけないかという申し込みを行なった結果、2つのメーカーのコンセプトモデルを紹介できることになった。堅苦しいことはヌキにして,それぞれのコンセプトモデルをじっくりと見ていただきたい。

ASCII1992(07)f20未来コンピュータ写真1_W454.jpg ASCII1992(07)f20未来コンピュータ写真2_W351.jpg ASCII1992(07)f20未来コンピュータ写真3_W345.jpg ASCII1992(07)f20未来コンピュータ写真4_W336.jpg

メーカーの考える近未来のパーソナルコンピュータ
日本電気 「C&Cウエアラブルターミナル研究」
 1990年12月,(株)日本電気デザインセンターアドバンスデザイン部は,「C&Cウエアラブルターミナル研究」と名付けられたコンセプトモデルを発表した。これは「ウエアラブル」すなわち「身にまとう」というコンセプトのもとにデザインされた情報機器である。実装技術の進歩に伴う小型化,計量化により,デスクトップからラップトップ,ノート型へと進歩してきた情報機器が,最終的に身につけるデザイン形態になると想定したものだ。
 コンセプトモデルは全部で8タイプ.目的と使用環境に合わせていろいろなバリエーションがある.誌面の関係でそのすべては紹介できないが,使用状況を想定したイメージイラストとともに見ていただきたい.

ASCII1992(07)f25未来コンピュータ写真1_W242.jpg ASCII1992(07)f25未来コンピュータ写真2_W323.jpg ASCII1992(07)f26未来コンピュータ写真1_W374.jpg ASCII1992(07)f26未来コンピュータ写真2_W406.jpg ASCII1992(07)f26未来コンピュータ図_W495.jpg


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未来コンピュータその1(月刊ASCII 1992年7月号7) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

特集記事「未来コンピュータ」を数回に分けてスクラップする。
どの程度当たってかの取り敢えず検証は後回しにする。
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西暦2002年,いまから10年後の未来である.
その遠くて近い未来に,パーソナルコンピュータはどのような姿で、私たちの前に登場するだろう?
コンピュータの役割は、どのように変貌しているだろう.

これからの10年,あなたのためのパーソナルコンピュータが誕生するまで,ほんの少しの時間である.


 過去,月刊アスキーでは「極楽(Heaven)」という名称で,パーソナルコンピュータの未来像を発表している。1978年発表のラップトップ型をした「極楽1号」,1983年発表のノートパッド状のコンピュータ「極楽2号」がそれである.それぞれ,先進的な発想によって考案されたコンピュータのイメージであり、現在のパーソナルコンピュータにも極楽の思想が生きていると自負できるものだ.
 10年後のコンピュータは,私たちの生活のあちらこちらに姿を隠して溶け込んでいるだろう.その形態も,用途や個人の好みにより多種多様に分化しているはずだ。究極のコンピュータは,決してひとつのものではない。いままでハードウェア重視で考えてきた極楽の思想は,もはや終焉を迎えたのかもしれない.
 未来のコンピュータを語るとき,CPUの演算速度やメモリ容量などの具体的な性能に注目することは,ほとんど意味をなさないだろう.10年後に到達できるであろうハードウェアスペックについての見積もりも可能だが,それが実現されたとして,ユーザーインターフェイスやアプリケーションまでは把握し難い。また,流行という予測できない要因もパーソナルレベルにおいては重要になる.であれば,どこに着眼すべきなのか?


 今回,月刊アスキー編集部は未来のある場面において使われるだろう,携帯できる情報整理ツールを発表する。外観は,アラン・ケイのDynabookや現在のノートパソコンの延長線上にあるが,情報を得るための「本」としての役割,電子出版時代の到来を考えた本来の意味での「ニュー・パピルス」の概念を尊重したモデルとなっている。人との関係,交際,伝達などの意味を重視し,人間の友達に相応しい名称「liaison」の名を持つコンピュータである.

基本スペック
 前提として,「コンピュータは,情報を加工し,新たな情報を創造するための道具である」としよう。情報の加工には多種の様式が考えられるが,人間が使うことを前提にすれば,情報の出入口は人間の感覚に合うものでなくてはならないはずだ.
形態
 外観は,まさに本をイメージしたものであり,各種のインターフェイスを装備したハードカバー部と,情報の表示/加工を行なう複数のディスプレイページから構成されている.ハードカバー状の本には、簡単な操作を行なうためのボタンと,情報の加工に使うペン,データ入力を補助するペン型のイメージスキャナを装着している.
 本体下部の球状の物体はトラックボール状のポインティングデバイス,上部の球はイメージ投影装置である.また,各状態を示すインジケータランプ,大量情報を交換するためのカードスロット,ソケット状の汎用インターフェイスコネクタを装備している.
 本体には,縦/横の決まった向きはなく,本のように開いたり,現在のノートパソコンのように片側を起こして使うことができる.
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出力
◆情報の出口として「本」をイメージしている.本の紙のように,ディスプレイとして複数枚用意されたフィルム状の表示媒体は,それぞれ透明~不透明を自由に設定できる.
◆一番上のディスプレイを透明にしておけば,より下層の表示層の情報を、ぼんやりと眺めることもできる。現在のCADソフトなどに見られるレイヤー構造と同じだ.
◆さらに,フィルムに表示された情報は電子的に管理されながら,本体から切り離しても表示情報を維持する不揮発性を持つ.

 このフィルム表示媒体は,安価に提供されなければならない.むしゃくしゃしたときには,ちぎって捨てられるほどの価値だ。電子的に読みかけの箇所をマークするのではなく,物理的に,隅を折り曲げたり,ちぎったりしてマークできるように,である.乱雑に扱えればいいというものでもないが,本と同一のイメージで捉えたほうが多くのユーザーの行為に対応できる.
◆ディスプレイには,文字および画像が縦位置,横位置の自由なレイアウトで配置可能だ。また,本体周辺部の6個のボタンスイッチは,ディスプレイ上のアイコンと連動.
◆本が活字を伝える道具なら,テレビジョンは映像を伝える道具である.当然のこととして,ディスプレイ上には現在のビデオ画像程度の動画表示も可能である.
◆本体上部にある球状の部分にはレンズが埋め込まれており,ディスプレイの表示内容を壁などの平面に映し出すための投影装置となっている.

 「複数人で同時に同じ情報を見る」という行為もかなえたい。現在,プレゼンテーションの場面などでは,ビデオディスプレイにコンピュータ画像を映し出し,多人数で情報を閲覧するなどは日常となりつつある。今の液晶プロジェクタの原理を用いれば,10年後の未来,きっとこの機能も装備されているはずだ.
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入力/操作
◆文字入力は,本体に装着されている専用ペンによる手書きで行なう.入力文字は,ユーザーの筆跡どおりにディスプレイにビットマップイメージとして記憶される.
◆メモ程度の手書き文字入力が主体となるが,活字文字に変換する必要があれば,その部分を枠で指定し,さらに機能を選択することで一括して活字書体に変換する. ◆文字/画像編集のほとんどは,ペンもしくは,本体下部にある球状のトラッキングボールによるポインティング操作と,ディスプレイ周囲のボタンによって行う.

 まさに,雑誌を開く感覚で,コンピューティングに入り,表紙を閉じる感覚で情報の保管を行なう.ビュアーとしての機能を重視した当モデルは,文筆業者向けのような大量の文字入力は基本的に想定していない。もちろん,外部とのインターフェイスは用意してあるので,周辺機器として,現在のキーボードや音声入力機器などが接続可能である.
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◆情報の閲覧/収集/加工には,ペンとボタンによる操作を基本とし、あとは,ページをめくる,ディスプレイを外して並べ替えるなど人間の直接的行為である.
◆書籍などの大量データの交換は,ディスプレイページによるデータ保管よりも、場所をとらず,信頼性の高い不揮発性のメモリカードを介して行なう.
◆処理作業中/電源降下などマシンの各種状態は,本体右のインジケータ部に常に示される.この部分のライトは緊 急時のライトとしても利用できる光量がある.

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重量/サイズ
◆ディスプレイページを最大容量まで差し込んだときの重量は約800g,ディスプレイやメモリカードなどすべてを取 り去ったときの重量は約300g.
◆サイズは,閉じたときが200(W)×250(D)×20(H)mm,開いたときが400(W)×250(D)×20(H)mmであり,一般的な雑誌程度の容積となる.
◆インターフェイス部に各種の拡張機能装置を接続することで,ビデオ画像の入出力/キーボード入力/他のマシンとの情報交換などが可能だ。

 以上、未来のコンピューティングにおいて考えられる大まかな項目について述べてきた。もちろん,この「liaison」ですべてのコンピューティングが語れるわけはない.極集中タイプの大型コンピュータもできるだろうし,データの蓄積には,大規模な電子図書館も必要だ。しかし,個人が携帯するのに,それほど複雑な機能はいらない。現在の手帳やノートに毛の生えたもので十分なはずだ.機能重視で進んできた従来のパーソナルコンピュータの流れを,今一度,考え直して見るべきなのではないだろうか?
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考察1:技術的バックボーン
鹿野 司

 これからの10年間は,技術の歴史の中でもかなり面白い時代になるというのも、ここ20年あまり続いてきた半導体の指数関数的な微細化が,ついに最後の段階を迎えると予想されるからだ。
 従来の半導体の微細化の歴史をたどると,3年で4倍,つまり15年で1000倍のペースで集積率が向上している.また,技術者たちの間にも「1Gbitまでは致命的困難はない」という雰囲気があり,従来ペースのまま微細化が進めば,西暦2000年前後にはギガ級素子が誕生することだろう.
 このような半導体の猛烈な進化は,電子技術全体にもフィードバックし,驚くべき速度で技術の革新を促している。技術の革新は,身近な生活にも大きな変化をもたらすだろう.私たちは変化の内部にいるため,変動の激しさに気がつかないのだが,たとえば,CDの規格がフィリップス社から発表された1979年から,わずか十数年で,アナログレコードは市場から姿を消してしまっている。10年後のコンピュータ世界は,大雑把にいって今よりさらに1000倍の世界である。処理速度しかり、記憶容量しかり,孤立しているネットワークが相互に連結すれば1000倍規模ネットワークも可能である。
 ところが,さらに遠い将来では話が違う.電子技術の微細化が量子サイズにまで進むと,電子の波動性や弾道性が問題になり,ナノテクノロジーの世界に踏み込まざるを得なくなる.回路が量子のサイズになると,そもそもトランジスタが動作するのかという問題もあるのだが,それが可能だとしても、たった1個の電子の振る舞いが無視できなくなり,これまでとは,根本的に異なる設計原理が必要になってくる.このまったく新しい原理による技術革新は,あと10年で量産段階にとどくとは,とても考えられない.そこで,電子回路の微細化は,せいぜい0.2μmあたりで止めて、回路の工夫でテラ(1T=1000G)のオーダーまで引っ張ろうという考えがある.
 たとえば現在のマイクロプロセッサは,1本の信号線で0か1かの,たった1bitしか表現していない。つまり,64bitの信号を同時に送るには64本の信号線が必要になり,チップ面積の大半(極端な場合7~9割)が配線部分となってしまっている.しかし,信号線1本で8bit程度を凝縮して表現するのは,そう難しくない技術だ。つまりプロセッサの多値化である
 これは,見掛け上の集積度を上げるだけでなく,デジタル回路とアナログ回路の親和性を良くするという意味でも価値がある。ひとつのチップの中に,ファジー回路やニューラルネットワーク,さらに真空マイクロ素子などのアナログ回路が、無理なく集積できるようになるだろう.あるいは,ひとつのプロセッサにすべてを集積しないにしても、デジタルチップとアナログ素子を,いまよりもはるかに親和性良く,結合できるようになることは間違いない.
 これからの10年の間に徐々に起きてくる技術的変化の中には,すでに現在,動き始めた技術もある。マルチプロセッサ化も,その一例だが,デジタル/アナログ混合型のチップや,1チップに多数のプロセッサを集積することができれば,コンピュータの姿も大きく変化するだろう.
 現在のマルチプロセッサのイメージは,複数のプロセッサを連結することで,処理能力を加算的に増加させていくものといえる.しかし,異質なプロセッサの結合が可能になると,一個の独立したコンピュータを外部インターフェイスとみなして,コンポ感覚でつなげていけるようになる.つまり,一台のコンピュータというより,異種コンピュータの複合体を,パーソナルなシステムとして使用するわけだ。たとえば,画像処理が得意なニューラルネットワークとCCDカメラを一緒にして,パターン認識機能を持つ画像処理コンピュータを作るとする。このコンピュータを装着した別のコンピュータは,画像入力インターフェイスとしての目を得ることになる.
 このようなインターフェイスは,すべてのユーザーに必要になるとは限らない。しかし,もしそれが簡単に自分のコンピュータに接続でき,しかも安価に供給されるならば、使用者の体の動きや視線といったアクションをコンピュータへの入力に使用したり、使用者の識別,あるいは盲人用の読書装置などに気軽に応用できる.
 また同様に,スピーカとニューラルネットワークの連結による,音声認識/入力インターフェイスなども考えられる。音声認識ができても,パーソナルユースでの口述筆記などというニーズはさほど考えにくい(オフィスや教室でみんながブツクサいっていては煩わしくてしょうがない)ので、あまり有用性はないという意見もある.しかし,コンピュータに対して音声リクエストができると,それなりに使用法は思い描ける。たとえば何かのシミュレーション実行中にある部分を指差し、「ここを拡大して」といったことが言葉でできるわけだ。
 このようなコンポ形式,あるいは極端にレゴブロック式にコンピュータのシステムが構成できるとするなら,それこそあらゆる個々人の,個性的なニーズに対応できるパーソナルコンピュータが生まれる.
 当然、その形は、唯一無二のものには収束し得ない。ワタシにとってのパーソナルなニーズは,アナタにとってのパーソナルなニーズとは,異なるはずだ.


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考察2:外見から導かれる事項 鹿野 司
 このマシンは,持ち歩くことを第一に考えた,アラン・ケイのDynabookの概念に属するもので,主な仕事はネットワークで供給されるデータの閲覧だろう.
 人間がコンピュータに司令する方法としては、画像認識や音声認識によるユーザーインターフェイスの向上ではなく、あくまでスイッチや電子ペンなどのポインティングデバイス,そしてキーボードを採用している.また,コンピュータから人間に対する応答も,グラフィック表示と音声のみである。この部分は,現在のコンピュータとさして変わらない。
 リフィル型の一見本体に見える部分は,長時間の電源供給と無線ネットワークアクセス機能を持った独立したコンピュータで,同時にポインティングデバイス(電子ペン)と,市販ソフトウェアや個人データを入れる電子カードを,ひとまとめに収納できるといった役割を受け持っている.
 しかし,リフィルに綴じられているページ一枚一枚も,実は独立したコンピュータであり,全体がコンピュータ複合体となっている。このページは「スマートペーパー」と呼ばれ(本文中のディスプレイページのこと),文房具屋などで,かなり安価に手に入れられるものと考えられる.スマートペーパーの全面は印刷工程で作られる.電源を切っても表示が消えないエレクトロクロミック・ディスプレイのようなものと,シート状圧力センサ,シート状電池,TABLSIなどを積層して作られるだろう.TAB(tape automated bonding)とは,厚さ100μmほどのテープフィルムにLSIを直に接続したもので既存技術である.
 この知的な「スマートペーパー」は,ディスプレイとしても使用できるし,キーボードをグラフィック表示させて,簡易キーボードとして使うこともできる。また,ペーパー内部にCPUがあるため,単独でも、今のパソコンがやる程度の仕事はすべて可能である.さらに,ページ数を増やすことで,加算的にCPUパワーを上げ,複雑なシミュレーションを高速に行なわせることもできる.シミュレーションの結果を一枚のペーパーに記憶させて,そのページだけを人に手渡すことも可能だろう.

 この時代,ネットワークには大量の使いでのある情報が流されているはずだ。しかし,パソコン通信などでよく経験するように,情報全体を閲覧するのに,単一の画面でスクロールする作業は,かなり煩わしい。画面には情報のある一部分しか表示されないため,ユーザーが,それ以外の情報を見つけようとするなら,隠されている情報(行き先)についても記憶していなければならないからだ。
 直線的に読むことしかできない「スクロール(巻き物)」が,やがてランダムに読める「本や雑誌」に進化したように,コンピュータの表示形態もランダムアクセスができるものに進むだろう.
 このマシンは,表示をページ形式で行ない,本でも読むように全体が読め,また,その情報を適当に編集して,必要なページを人に渡すこともできる。つまり、人と人との情報の交換を,データの交換ではなく,モノの交換として,人間の感覚にナットクのいきやすい形で行なうのである.もちろん、現在の手帳と異なるのは,渡されたペーパーの表示内容は,いったん,マシン本体に接続すれば再び流動的な情報として生き返るというところだろう.
 この装置の持ち主も,これでパーソナルコンピューティングのすべてをやらせようとは考えていない。自宅または職場には,これよりもはるかにユーザーインターフェイスの優れた,ハイパワーのマシンがあって,学習や仕事に威力を発揮しているはずだ.
 TPOにあわせてコンピュータを使い分ける。それが未来のパーソナルコンピューティングのあるべき姿ではないだろうか。


モックアップモデル製作過程
 今回製作したモックアップモデルの概念は,技術的資料やユーザーインターフェイス技術をもとに,月刊アスキー編集部での数回の編集会議を経て固定化された.実際は製作モデル以外にも,3次元表示を行なうもの,ハンディゲーム機器を巨大にしたものなどなど,数々のアイデアが提出されている.その後,インダストリアルデザインを専門とする「株式会社アイデック」のスタッフの多大な協力を得て,製作が始まった。
 1974年,伊丹デザインとして誕生したアイデックは,伊丹由和を代表とする数十名のスタッフにより,工業デザイン/商品企画/グラフィックデザインなどを手掛ける企業である.関連グループとの連携により,海外のコンピュータメーカーや、国内の文具/カメラ/電子機器メーカーなどから依頼を受け、先進的なイメージを生み続けている.ところが,ほとんどのコンピュータメーカーが持ち込む企画は,2~3年後を対象としたマシンであるという.
 具体的に物を作るとなると,社会状況や技術動向の正確な予測が成立しない10年後というのは,近未来ではなく,遠未来ではないのだろうか?10年後のコンピュータを考えるのは,編集部にとってもデザインチームにとっても初めての経験である。編集部のアイデアを下地にいくつかのラフスケッチがアイデックから提出され,さらなる検討が加えられた後,最終的なモックアップモデルが誕生した。

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2002年のパーソナルコンピューティング
鹿野 司

 現在のパーソナルコンピュータは,10年前に夢物語に過ぎなかったものの多くを実現してきた,しかし,2002年のコンピュータは、現在のさらに1000倍の処理能力を持つと考えられる。このあり余る未来コンピュータの能力を,どのような場面に振り向ければよいのだろうか。また,これから10年の間には,社会背景も予想できないほどの変化が生じ,コンピュータの役割さえも変化していくはずだ.
パーソナルコンピューティング思想の誕生
◆Memex
 パーソナルコンピューティングの概念の起源を考えてみると,ヴァネバー・ブッシュ(Vannevar Bush)が1945年に発表した論文「思考のおもむくままに」(As we may think)の中の,情報の管理検索システム「Memex」にまで遡ることができる.
 もっとも,ブッシュ自身はMemexを,コンピュータと関連して考えてはいなかった。彼には,世界に情報が氾濫し、人間が対処し切れなくなっているという認識があり,この状態を解決できるのは、個人使用を目的とする機械化されたファイリングシステム(=図書館)であるとした.Memexの基本は、記録媒体にマイクロフィルムを採用,フィルム上に記録された情報をスクリーンに投影し、関連する情報を好きなようにリンクさせて連想的に情報を検索したり、欄外に書き込みができるものであった。さらに彼は,音声タイプライタのアイデアや,視聴覚信号を電気信号に変換して脳と直結させるような装置もイメージしている.

◆NLS
 Memexのコンセプトに計り知れない影響を受けた人間の一人が,ダグラス・エンゲルバート(Douglas Engerbert)である。彼は1968年の秋季合同コンピュータ会議で,「NLS(oN-Line System)」という機器のデモンストレーションを行なっている。これはレーダースクリーンを対話型ディスプレイとし,木製のポインティングデバイスで指示するマルチウィンドウ,電子メール機能を備えたもので,現在のマルチメディアワークステーションの祖先といっていいだろう.現在,ポインティングデバイスの主流となっているマウスも,ここにその原型を見いだすことができる.NLSは、70年代以降「Augment」と名を変え,文章をネットワークで結ぶハイパーテキスト機能を中心に発展,研究されていく.
◆Dynabook
 さて,エンゲルバートがブッシュの論文に大きな影響を受けたのと同様に,NLSのデモに強く影響を受けた人間もいる.Macintoshの原型となった「Alto」を作り出し,オブジェクト指向プログラミングの概念を広めたアラン・ケイ(Alan Kei)がその人だ。彼は1970年代半ば,ノートサイズの個人用ダイナミックメディアとして理想のパーソナルコンピュータ「Dynabook」をイメージしている.Dynabookは,すべての人が個人所有できる携帯型の装置で,子供にでも使えるような容易な操作系や,高精細ディスプレイ,視聴覚入出力機能などを備え,ネットワークにも接続して使えるものと考えられた.このDynabookのイメージこそが、現在のパーソナルコンピュータの向かう方向を決定しているのである.
◆Xanadu
 ところで,アラン・ケイとは別の流れとして,テッド・ネルソン(Theodor Nelson)は,1965年に「Hypertext」を提唱している。ハイパーテキスト(ハイパーメディア)とは,a:画面に表示された地図のある場所を指すと,その土地の文化や産業の概要が表示され,b:その概要の中にある「市場」という文字を指すと,こんどは市場風景が現われ,c:その風景に映っている一羽の鳥を指すと,その種類や生態学的データなどの説明文が現われ,d:その文の中の「さえずり」という文字から,その鳥の声や姿がビデオ表示される……というように情報を際限なくたどっていけるシステムのことだ。ハイパーテキストのイメージは,MemexやNLSにも見られるが,ネルソンが1967年に名付け、現在も進行中の「Xanadu計画」では,地球規模の情報をハイパーテキストとして統合するのが目的だ。
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コンピューティングは,目的である
 振り返ってみると,パーソナルコンピューティングの概念は,驚くほど昔から存在していたことが分かる.私たちは,その古い理想,思想,哲学を,カタチにしようとしているだけかもしれない。それだけでいいのだろうか?
 人類は物語を創りあげたときから,月へ行きたいという夢をくり返し語り継いできた。あるものは夜露が空に返る力を使い,あるものは鳥に引かせて月に届こうとした。この夢の想像力は自由奔放で留まるところを知らない.一方,科学,工学の力によって月に向かおうと考えたとき,そこには予想もしなかった無数の困難が現われる.月に行くにはロケットが必要だ,ロケットをまっすぐ飛ばすにはどうすればいいか、燃料はどうする,どのような軌道で飛ぶか,空気のない世界で人を生かしつづけるには...次々と生まれてくる現実の問題との苦闘の中で,当初の思惑は少しずつ修正を受けることになるだろう.月へ行きたいという意志はそのままに、プロセスや目的,哲学が変化していく。ひとつのものに到達するのは,そういうことなのだ。パーソナルコンピューティングも同じようなものかもしれない.

◆脳によるコンピューティング
 ブッシュが「思考のおもむくままに」の中で語ったのは,脳の内部に流れる電流(脳波や神経インパルス)を直接利用して,機器をコントロールするということだ.現在,これに近いインターフェイスは,SQUID(超伝導量子干渉計)による脳磁図計測と脳の磁気刺激によって,徐々にリアリティを持ちはじめている(コラム1参照)。
 これは,脳の深部から出てくる磁場をキャッチし,磁気刺激によって脳のニューロンに誘導起電力を流すという,夢のあるテクノロジーである。外部から脳の内部に電流を流し,手指を動かすことができるのならば,バーチャルリアリティ上での反力をこの方法で感じさせることができるかもしれない。さらに,人体の各部を動かすときの脳磁場がキャッチできるなら,タイピング動作のイメージだけでコンピュータ入力が可能になるだろう.

◆ホログラムを応用した映像出力
 未来の立体映像表示装置として「ホログラム」を考える人は多いはずだ。しかし,ホログラムの魅力は立体映像の表示だけではない.たとえば,30インチの立体ディスプレイに,人間の全身像を映すとせいぜい身長30センチの人形のような像しか投影できない。そこで,ロングに引いたりバストアップにしたりと,カットの切り替えを行なうと,人物の大きさが極端に変わることになる.今まで人形サイズだったのが,突然,実物大の生首として映し出されるとき,これを違和感なく眺めることが可能だろうか?このように,必ずしも三次元映像のほうが二次元映像よりリアリティがあるというわけではない.平面表示には,立体表示をできないがゆえに,かえって仮想的なリアリティを創り出すという側面がある.しかし,ホログラムは未来のコンピュータとまったく無縁というわけではない。ニューラルネットの光インターコネクションや,バーチャルリアリティのヘッドマウンテッドディスプレイ用としての可能性は大いにある(コラム2参照)。
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◆電脳都市は人間に冷たくなるか?
 先人たちの考えたパーソナルコンピューティングのイメージは,人間の知的能力の増幅を目指すということに共通していた.しかし,現在のコンピューティングの状況は,彼らが理想を描いていた時代とは,若干のズレが生じてきているようにも思える.
 東京大学助教授の坂村健は,電脳都市,インテリジェントオブジェクト,超分散システムなどというキーワードでTRONコンピューティングを提示している.これは,コンピュータを単に人間の知的活動の拡大装置として見るのではなく,人間活動のすべてに関わるものとして見るべきだと主張するものだ。電化製品だけでなく,家の窓から壁,床,家具などあらゆるモノにコンピュータを組み込み,それらが連動して作業を行なうという世界は,従来のコンピューティングの思想では考えられなかった概念といえる。
 ところが,すべてを電脳化することによって,人間的な喜びが削られてしまうかもしれない。たとえば,ある住宅に,観葉植物に自動的に水を与えるシステムがあるとする.しかし,コンピュータは常に全自動で水を供給することはないだろう.なぜなら,私たちには「植物に水をやりたい」という気持ちがあるからだ。

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◆便利さと効率を超えたよろこび
 コンピュータ制御の自動化によって奪われる人間の喜びについて具体的に考えてみよう.現在の電子メディアの代表的なものにCD-ROMを使った国語辞典がある.国語辞典は意味の分からない言葉を調べるためのものだ。ならば,目的の言葉をできるだけ早く探し出せたほうがいい。パラパラとページをめくっていく手間など,なくしたほうがありがたいわけだ。その意味ではCD-ROM辞書は非常に便利なものといえる.しかし,人間と辞書との関わり合いを,検索スピードだけに限定していいのだろうか?
 ちょっと確認したいことがあって卓上の辞書をひく場合,始めはある目的をもって調べ始めても,検索の途中で目についた別の項目を読んだり,そこから興味を引かれて別のページを読んだりすることが結構ある.この横道にそれる行為は意外に楽しいものだ。個人的な喜びとは,実はそういうところにある。従来のソフトウェアは,喜びのためというより,仕事の効率に重点を置いてつくられてきた.しかし,これからのコンピューティングには,無駄と思われる部分も取り込んでいく必要がある.
 ハイパーテキストもまた,どんな知識にでも自在にアクセスできるがゆえに,逆に何が未知なのか分からなくなってしまうのでは,という危険性をはらんでいる.人間の創造性は,知識に学び,次にそれを疑うということが非常に重要なのだ。ハイパーテキストも,何が分からないかを見つけ出す手段として使う必要がある.
 つまり,コンピュータの役割は,単に人間の「知的活動」の拡大だけにとどまらない,とどまれないことを意味している。コンピュータは,人間活動の広く全体に「何か」をするものになりつつあるわけだ。その目指すべきコンピューティングとは「あらゆる個人のために,居心地の良い世界をつくり出すこと」に集約されるだろう.

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◆人間の感性が大切だ
 日本の中から立ち上がりつつあるオリジナルな思想についても、少し紹介しておこう。これは「感性情報処理」というもので,従来はシンボルしか扱わなかった人工知能の分野を拡大し,感性という部分にまで広げようという試みだ(コラム3参照)。従来のパターン認識では,手書きの[A]という文字を認識して[A]というシンボル情報に置き換えるだけであった.しかしこれでは,手書きの文字に含まれる,上手下手,力強い,かわいい,やさしい,ユーモラスといったさまざまな情報を捨て去ってしまっている.身近な例では,パソコン通信でよく見かけるフェイスマーク[(^_^)]など,今のコンピュータ画面からは失われてしまった人間の感情という情報を,何とか表現しようとしている苦肉の策ではないだろうか.
 しかしここにも,コンピュータにどこまで感性を身につけさせたらよいか,という問題がある。あまりにもユーザーフレンドリーになりすぎると,コンピュータと人とが一緒になって小さく閉じてしまうかもしれない.
 また,人間が本来欲していたアソビやムダの部分を回復する手段としては,感性情報処理のほかにバーチャルリアリティも考えられる.VRは視覚/聴覚/触覚などの多チャンネルの感覚を利用して,シンボル以上の情報が扱え,またリアリティの内部に没入するわけだから,使用者の行動や視線によって得られる情報が異なってくる。つまりVRの世界は,受け取る側の個性によって,まったく別の情報を受け取ることができ,物語性の高いものにすることができるわけだ(コラム4参照)。

ASCII1992(07)f14未来コンピュータ写真10_W500.jpg ◆万人へのコンピュータ
 これからのコンピュータは,あらゆる人間の,あらゆる活動に関わっていく。この人間のあらゆる活動の中で,知的活動はどれくらいの部分を占めるのだろうか.実のところ,知的活動などというものは,人間が生きていく中のごく限られた一部分にしか過ぎないし,それほど重要な部分でもないのかもしれない。本も読まず,手紙も書かないからワープロも不要,楽器だって演奏しないし,ゲームにも興味がない.そのような人たちに,従来のイメージのパーソナルコンピュータが意味をなすだろうか.
 しかし、これからの未来は,さまざまな道具や都市そのものという形で,すべての人間にコンピュータが関係していく。未来のパーソナルコンピュータは,あらゆる人に対応するために、決してひとつの形にはなりえないのだ。

 2002年は遠未来である。まだその世界は確定していない.ものを使う人間も,創る人間も,自分がなぜそれを好むのか,本当にいちばん心地よいということは何なのか?これらの疑問を常に問い直しつづけることが,未来を快適な世界にする、唯一の方法ではないだろうか.


コラム1 脳磁気工学
 九州大学工学部,電子工学科の上野照剛教授の研究室では、脳の磁気刺激と脳磁図計測の研究が行なわれている.生体活動は基本的にイオン電流を伴う,さらに電場あるところ磁場もあり,磁気情報を使うことで体内を直接調べることが可能なのだ。特に脳磁図は,脳波では分からない詳細な情報が得られるため,脳の解明,医療診断などの大きな手段となりうる.しかし,この生体磁気は非常に微弱で,地磁気の強さが0.3×10-4テスラ,都市の磁気ノイズが0.2×10-6テスラに対し,心臓磁場は0.2×10-10,脳磁場は10×10-12テスラ程度しかない。これだけの弱い磁場を測定するには,SQUID(超伝導量子干渉素子)と呼ばれるセンサを使うしかない.上野教授が実用化した国産初の生体磁気計測システムでは,脳波も同時に測定でき,脳磁場の存在も確認できている。
 また,上野教授は脳に外部から1テスラの強磁場を0.1~0.3秒ほどかけ,誘導起電力によって脳内に電流を流し,手足の指を一本一本動かすことにも成功した.この磁気刺激装置はコイルが8の字型をしているところがミソで,これによる逆直パルス磁場を使えば,脳の運動野を3~5mmの分解能で刺激でき,しかも標的で流れる渦電流の向きも自由に制御できる.これにより,頭頂部を右半球から左半球へ流れる渦電流は右足の小指が反応し,左から右に流れる電流は左足の小指が反応するといった特性も明らかになった.さらに,磁気刺激に関しては脳腫瘍や脳血栓などの脳神経関連疾患,脊髄損傷などの診断方法として,大分医科大学で臨床応用も始まっている。将来的には,脳血管障害で失われた脳組織周辺を磁気刺激し,機能を一部回復できる可能性もあるという.


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コラム2 リアルタイム・ホログラム
 1991年シチズン時計((株)株)は,物体を撮像/電送し,相手側で再生するというリアルタイム・ホログラムを世界ではじめて発表した。従来のホログラムでは,物体をレーザーで撮影してフィルムに焼き付けて現像,再びフィルムにレーザーを当て物体像を再生させるため,リアルタイム表示は不可能であった。フィルムをCCDカメラと液晶ディスプレイに置き換えることで,ホログラム情報の電気的伝送も可能になったのだ。もっともこれは,高解像度の液晶を使ってのホログラム再生が可能かどうかを実証するために作ったもので,本来の目的は立体テレビではなく,光コンピューティングにあるという.次世代コンピュータとして,ニューラルネットワークが注目されているが,ニューロンの数が10万~100万にもなると配線が非常に複雑になる.そこで,原理的に光を自由に分岐できるホログラムを配線に使う光インターコネクションが考えられている.
 たとえば,100万画素の液晶パネルを1マイクロ秒で書き換えれば,1テラbit/秒,1000万画素なら10テラbit/秒の処理能力を,ほとんど電力を使わず実行できることになる.また,シチズンでは液晶ホログラフィをVR用HMDに応用することも考えている.VRとシチズンの関係は意外に古く,1988年に発表されたNASAのHMD第一号機は実はシチズン製であった。その延長に液晶ホログラフィを使い,目の焦点を遠方に合わせていても網膜に焦点の合う映像を作ることができるHMDを検討中だ。ホログラフィに適した液晶ディスプレイは,画素ピッチが細かいほうがよく,現在,画素ピッチ1.5μm以下の超高密度の液晶パネルに挑戦しているという.

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コラム3 感性情報処理
 この4月から文部省の重点領域研究として「感性情報処理の情報学,心理学的研究」が大阪大学基礎工学部の辻三郎教授を中心にスタートした.人間の行なう情報処理には,イメージ的,直感的で,感性としか呼べない部分がある.感性情報処理とは,コンピュータが扱うべき情報を,論理の世界から感性の世界へ発展させようとするものだ。つまり,美しいとか快いといった形容詞で表現される,情報の感性的側面をコンピュータに理解させようというのだ。
 もっとも、感性という言葉の意味する領域は非常に広いため,主として画像や音響のメディアに限定して,感性情報をどう記述し,どう再生し,どのようにそのデータベースを作るかが研究の対象になる.具体的には,音楽をコンピュータに聞かせ,それがどんな感じの音楽なのかを表現させたり、逆にコンピュータによる演奏に情感を込めさせるにはどうするか,などの研究が考えられている。知識の世界から感性の世界に入り,感性科学という新しい分野を築き上げようという試みであり,美学や心理学で個別的に行なわれてきた研究と情報科学の理論,ハード/ソフトウェアを結合させる学際的な研究が進められる。ところで,これとは別に,通産省のプロジェクトとして「新情報処理技術開発計画」が1992年度から10年計画で始まっているこれも,情報処理で扱うデータをシンボルの世界だけでなく人間が活躍するリアルワールドに求めるものだ。「脱シンボル」というキーワードが,これからのコンピューティングの指針となるのではないだろうか。日本主導のプロジェクトがこのような思想を採用するのは,日本人が本性的に視聴覚的感覚的嗜好性が強いことと密接な関係があるかもしれない。日本文化に根差した独自のコンピュータを創る試みが,同時多発的に始まっているのだ。


コラム4 フォースディスプレイ
 バーチャルリアリティ(VR)は,これまでのコンピュータのマンマシンインターフェイスとは、根本的に異なった思想をもつ技術である.VRで重要項目を,ひとことで言えば,HMDなどのディスプレイを使った没入感のある世界の構築と現実と仮想現実のインタラクションになる.一方,VRには,視覚聴覚だけでなく幅広い感覚を再現しようとする理念もある.VR世界の中の物体を手で操作する場合,手袋状の入力装置でインタラクションは可能だとしても物体の手応えがないと極めて扱いにくくなる.人間の動作には触覚が重要なのだが,本格的な力感覚のフィードバック装置は,大掛かりな装置になりがちだ。
 筑波大学構造工学系講師の岩田洋夫は,そのような実時間のCGに,力覚表示デバイスを組み合わせる研究のひとつとしてデスクトップ仮想空間操作システムを試作した.これは9自由度のマスターマニピュレータで,手の動きに追従する6自由度のマニピュレータの上に,指の動きに追従するアクチュエータを搭載したものである.つまり,これを装着して手を動かすと,指先が仮想物体に触れたとき指の部分に抵抗が現われ,仮想物体を指でつまむとその抵抗を感じることができるようになっている.小型でローコストな装置であるため,適当なアプリケーションさえ見つかれば,このようなフォースディスプレイはすぐにも実用化できそうだ.フォースディスプレイは,VR技術の中でも,CAD/CAMや手術シミュレーションなど,手を直接使う応用分野に広く普及していくだろう.

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Digi-Ana Valley(月刊ASCII 1992年7月号6) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

「Digi-Ana Valley」をスクラップする。
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あおり文をスクラップする。
 一曲のピアノソナタでも、それを聴く人の胸の内はさまざまだ。昔好きだった子のことを思い出していたりもする。ところが,期待していた音が聴けなかったりするとどうだろう。LPがCDに取って代わられて久しいが、最近,ノイズと一緒に消えていった音を指摘する声が,熱心な音楽ファンの間で高まっている。手軽にそこそこの音質が得られるCDは優れた普及メディアだが,その反面、手のかかるアナログオーディオの愉しみは失われた.しかし、それを救った技術は,これもまたデジタル技術だった…….

CDの音質向上に関する都市伝説は色々あった。覚えているものは、「冷やす」、「切れ目を入れる」、「色を塗る」だ。到底信じられるものではなかった。その後パソコンにリッピングしてからはパソコン側のDACの性能で音質に差が出るというのは納得できる話だが。CD自体に手を加えるのは違うと思った。この連載ではCDプレーヤ側の問題のようだと予想するがどうだったのか。記事を読んだ記憶が残ってない。

黎明期のフォークロア
デジタル・オーディオの黎明期(CDプレーヤが出回り始めたころ)には,さまざまな神話や民間伝承が生まれた.「CDプレーヤはデジタルなので,3万9800円のでも30万円のでも音は同じはずだ」とかいうものだ。学校の音楽の先生が「CDプレーヤは,聴いているうちにどんどんピッチが上がってきて,交響曲のフィナーレ近くになると半音近く上がってる」なんていうことを生徒に向かって堂々と説いていたりしたものだ。
 その種のフォークロアは現在ではさすがに死に絶えたようだが,電卓のようにCDプレーヤがどこにでもころがっているという存在になった今,その音質に新たな疑問が投げかけられている.

「本当に「気のせい」なのか
 ハイティーン時代,音楽を意識的に聴き始めたころ,とても感動して今でもある種の思い入れがあるというレコードを誰でも持っているのではないだろうか.少なくとも音楽ファンなら1枚や2枚はそういうレコードがあるはずだ. ある日、思い入れの強いレコード(LP)がCDで再発売されているのをレコード屋で見かける。昔チープなシステムコンポーネントで聴いたあの曲を,今持ってるJBLのスピーカを始めとする当時のシステムに比べればずいぶん高級なオーディオで改めて聴き直してみようと思う.で,そのCDを買って帰る。軽いわくわく感を感じながらPLAYボタンを押す.
 ところが聴き終わって、多くの場合、複雑な心境になってしまう.昔聴いたときには聴こえなかった音が聴こえるとかいうようなことはあるにしても,それほどの感激はなく,それどころかむしろLPよりも情報量の減少した音になっているような気さえするのだ。LPのようなスクラッチノイズやほこりによるノイズはもちろん一切ないわけだが,なんだか知らないが,この全体にサンドペーパーをかけたような甘い印象はいったい何なんだ?あの感動が2倍にも3倍にもなって蘇るだろうという期待は見事に裏切られる……しかし,それにしてもヘンだ.

20kHzの壁は本当か?
 人間の耳が聴ける音は20Hzから20kHzだというのはよく知られている.しかし自然音や楽器の音には50k~70kHzといった超高域の音響成分が含まれており、録音が優秀なアナログレコード(LP)にはそれが収録されていて,その超高域成分が楽器の音のツヤとか切れ味,ホールトーンなどに微妙な影響を与えているといいうことは音楽ファンの間ではかなり前から囁かれていた.言い換えれば,そうした超高域まで再生可能というのが高級オーディオの存在理由だった(今でもそうかもしれない)。
 ところが,CDプレーヤは通常デジタルフィルターを使って20kHz以上の信号を急峻にカットしている.というのは,コンパクトディスクのフォーマットでは,そうしないとA/D変換時に発生した「折り返しノイズ」が可聴帯域内に入ってきてしまう恐れがあるからだ.そこで,20kHzまではフラットで,そこから上を鋭くカットするフィルターほど優秀とされてきたわけだ。人間の耳が聴ける音は20Hzから20kHzなんだから,そのレンジだけキチンと再生できれば何も問題はない,という思想である.
 がしかし、くどいようだが何かが失われているとしか思えないのだ。ノイズやワウフラッターがなくなってクリアな音にはなったものの,少なくとも聴感上は、明らかにたとえばティンパニの切れ込み感や低弦の空気感などが消えてしまってる!誰が何と言おうと(昔使ってたオーディオシステムがおチープすぎて「歪み」を一種の「迫力」というふうに勘違いしてたんじゃないの?と突っ込まれると,一瞬ひるんじゃったりするわけだが的に),いま再び黎明期の迷信とは別の次元で「やっぱりCD音悪い説」が浮上してくると思うのだ。
 もうかなり前から,音楽ファンの友人どうしで「だからさー,DC(直流)から70kHzぐらいまで伸びてるCD-2とかい う規格をつくるしかないよ」というような会話をしていたものだ。
 メーカーにもそういう思いを抱いている人はいたらしく,なんと20kHz以上のレンジを再生しちゃおうというCDプレーヤが現われた.パイオニアのPD-T09だ(写真1).


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20kHz以上をデジタルマジック
 「ちょっと待ってよ。CDは44.1kHz,16bitのサンプリングというフォーマットであって,CDプレーヤによっては8倍オーバーサンプリング,20bitなんてのもあるけど,それは一種の再生時のトリックで,だいいち元の音楽情報以上の情報を後処理で復元なんて原理的にできるわけないじゃん」そのとおり.あなたは正義の人だ(コラム1参照)。

column 1
CDのフォーマットはどうなっておるのか
 音楽信号をデジタル化する場合,1秒間に読む標本化の数(サンプリング周波数)は,情報理論によると再現を希望する信号波形の最高の周波数の2倍以上であることが必要とされている.つまり,再生周波数の上限を20kHzとすると,サンプリング周波数を40kHz以上にしなければならない。
 波形の高さを読む精度は,2進数のけた数(量子数)で決まる.量子数が16bitなら,音の強弱の範囲は
 216=65536
で,65536段階に区切って読める.最小の0から最大の65536までだから,ダイナミックレンジは
 20log216=96dB
ということになる.
 人間の可聴帯域は単純な聴力テストでは20Hz~20kHzなので,20kHzまで再生できればHi-Fi再生として十分であろう.ダイナミックレンジに関しては,実際の音楽のダイナミックレンジは110dB以上あるが,これをカバーしようとすると18bit以上の量子化が必要で,これを商品化するのは困難。アナログオーディオ機器のダイナミックレンジが70dB程度であることから,96dB程度が適当.
 というような判断で,現在のCDのフォーマットが決められている.


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 では、この結構なお値段のPD-T09はいったいどうやって「CDには入ってない」20kHz以上を再生するのか.
 PD-T09では「レガート・リンク・コンバージョン方式」と呼ばれるDAコンバート・システムを採用している。このシステムの考え方はこうだ。自然界の音や楽器の音には,人間の可聴限界と言われる20kHz以上の成分も豊富に含まれている.その成分が,人間の脳の状態や聴感上の音質に大きく影響を与えていると「いうことは最近の研究で分かってきている(コラム2参照)。


column 2
人間の耳は20kHzまでしか聴こえないのか?
 人間は単純な聴力テストでは20kHz程度までしか聴こえないが,それは鼓膜と蝸牛管との間にある耳小骨がハイカットフィルターの役割をして,高い周波数が蝸牛管に伝わらないためだ。蝸牛管の内部には70k~90kHzの音を感じ取る繊毛があり,人間の聴覚自体は90kHz程度まで検知する能力を持っている。したがって,人間は耳で検知できない超高域周波数成分も,骨伝導や皮膚伝導で聴いていると考えられる.
 超高周波音は,単純な発振音では認識できないが,それよりはるかに複雑な音楽信号になると話は別なのだ.
 さらに,20kHz以上の超高周波成分には、脳のα波を増長し,音楽の聴き心地をよくする作用があるということが最近の研究で分かってきている.アナログレコードがCDよりも心地よく聴こえるのは、30k~50kHzといった超高域まで出ているからだとも考えられる.


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 20kHz以上のレンジをカットした音楽は,一見元気のよい印象はあるものの,聴き疲れのする,丸いくせにギスギスした刺激的な印象がある.20kHz以上を制限しない音は,鋭くも繊細で柔らかく、聴き疲れしない.原音が20kHz以上を含んでいるのだから当然だ。
 では、CDには入っていない20kHz以上の信号をどうやって取り出すのかDSP(Digital Signal Processor)を使ってデジタル演算によって復元するのである。もちろん完全に復元することは不可能だ(無から有を作り出すことはできない)。しかし,音楽信号にはある一定の法則性があり,20kHzまでの信号をもとに,失われたレンジの信号を推定することはできる.
 パイオニアは,音楽信号の持つ大原則として「周波数スペクトラムの1/f特性」に注目した.これは,どんな音楽でも周波数に反比例して楽器の出力レベルが減少していくという傾向のこと(コラム3参照)。この原則に従って補間関数を割り出せば,それを使ってデジタル演算処理である程度まで20kHz以上の信号を復元できる。逆に、普通のCDプレーヤでは,20kHzまではこの1/f特性に忠実に再生されるが,20kHz以上が急峻に減衰している.これで「自然」な音になるわけがないのだ.


column 3
周波数スペクトラムの1/f特性って何じゃらほい
 パイオニアの測定データによると,フラメンコギターの周波数スペクトラムはAのようになっている。全体の分布は1/fの傾きを持っている。この原音に対して従来のCDプレーヤでは、出力波形がBのように20kHz以上が急激に減衰する.T09のレガート・リンク・コンバージョン・システムでは原音に近い周波数スペクトラムになっている.

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 補間関数と一口に言うが,最適な関数を見つけるのは簡単な作業ではない。パイオニアは試聴を繰り返し,数十種類の関数の中から物理データ的にも聴感上もライブサウンドに最も近いものを選び出したと言う.
 さて,この関数を使って行なうデジタル演算処理とはどのようにして行なうのか.CDには22.7μsecごとにサンプリングされた音楽信号データが記録されているが,これを自然音や楽器の音に近い滑らかな関数曲線で結んでいくのだ(コラム4参照)。これをやるにはもちろん高速演算処理のできるDSPが必要だが,パイオニアはT09専用のDSPを自社開発している.


column 4
“作って”でも原音を再生する
 パイオニアのPD-T09は非直線補間などを行なって,カットされた20kHz以上の成分を作り出すという手品のようなことをやっている.非直線補間とは,簡単に言うと,たとえば15kHzの信号から第2次高調波,つまり30kHzの成分を作り出すというようなこと。こんなことができるのは、いうまでもなくDSPの機能による.ここで使われる補間関数は,もちろん企業秘密.
 一方,もともとCDは20kHz以上の信号は記録時にカットされているんだから,それを忠実に再生すべきだというメーカーもある.しかし,原音は20kHz以上の成分を含んでいるわけだから,CDに入っている音がもうすでに歪んでいるのだ。それを忠実に再生しても,いわゆるデジタルくさい音にしかならない。
 こうなると,Hi-Fi(高忠実度再生)ということに対する思想の相違としか言いようがない。


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column 5
レガート・リンク・コンバージョン・システムの周波数特性
 Aが従来のシャープロールオフ型のもの,BがT09に代表されるスローロールオフ型のもの。遮断特性の違いに注目していただきたい。Aは20Hz~20kHzの周波数特性は良いが.周波数制限によりリンギングが発生し,インパルス特性,波形再現性が悪い。BはAに比べて波形再現性が格段に優れ,20kHz以上の成分が再生可能なことを示している.

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20kHz以上を含む
T09の音を聴く
 さて,何だかんだ言っても実際の音を聴いてみなければ話にならない。そこで私は,「たのしいプログラミング」担当の編集部でもけっこう音にはうるさいオビナタ氏を誘い,お気に入りのCDを持って目黒にあるパイオニアの本社を訪ね、試聴室でT09の音を聴いてみた(写真2). ASCII1992(07)e05Digi-Ana写真2a_W500.jpg ASCII1992(07)e05Digi-Ana写真2b_W444.jpg ASCII1992(07)e05Digi-Ana写真2c_W430.jpg
 最初に聴いたのはラサール・クワルテットのベートーヴェンの後期ストリングス・クワルテット集のCD(写真3).音が出始めた瞬間、その少しもギスギスせずに繊細に切れ込む音に驚かされた.弦楽四重奏の場合,平凡なCDプレーヤだと,甘くなるか刺激的でうるさい音になるのが常だが,シャープでしかも流麗,とても立体的な響きで再生される.
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 次に聴いたのはヘルベルト・フォン・カラヤンとベルリン・フィルハーモニーほかによるワーグナーのパルジファルだ(写真4)。これにはもっと驚かされた.冒頭部から微細な強弱の付けられたストリングスの周到なフレージングが,もう本当に楽器がビリビリと空気を震わせているのが見えるような迫力なのだ。凄いの一言。高校生時代,ドイツ・グラモフォンの輸入盤で初めて聴いたときの,あの感じが蘇った.オーケストラがクレッシェンドしていくにつれて,聴いている私の頭の中にアドレナリンがドヒャッと分泌されていくのが分かる。これだけ興奮すると、普通は聴き疲れするのだが,この場合それがないのもまた驚きだ。
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 いずれにしても,LPに比べてCDでは何かが足りないという聴感上の不満を解消して余りあるサウンドがT09では得られるということがはっきり分かった.
 ところがその後,応対してくれたパイオニアのオーディオビジュアル事業部の鈴木氏と川口氏から聞いた話はもっと驚異的だった.


CDというのは、
本当にデジタルなのか?

 T09は、普通のCDプレーヤと逆に再生面を上にして(レーベル面を下にして)ディスクをセットする(写真5)。パイオニアではこれを「ターンテーブル方式」と呼んでいるが,何のことはないアナログプレーヤと同じスタイルなのだ。デジタル回路のみならずアナログ部や電源もゴージャスな設計だが,メカ部も相当ヘビーデューティな設計になっている。これは,回転による不要震動やディスクのソリによるうねり動作を抑えるためだという.

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 しかし,これもよく考えてみると妙な話だ。CDというのは,ポリカーボネイト上にアルミニウム蒸着された深さ0.1μmのピットをレーザーのピックアップがトレースできればいいので,誤り訂正機能の範囲内でリードができている限り,不要震動があろうがディスクにソリがあろうが,それによる「音質劣化」はありえないのではないか?誤り訂正符号による訂正範囲を超える事態というのは,ディスクにキズがあるとか,サーボや同期信号が乱れたという場合で,それだと確かにその瞬間ドロップアウトする.が,それはオッケーかダメかであって,メカ部のプロセスで音が「悪くなる」とか「良くなる」なんていうアナログ的なことがあっていいのだろうか.
 この点について,パイオニアの両氏に聞いてみたところ,ディスクを下から全面で支えて,上からスピンドルモーターで軽く押さえてドライブするこの方式だと,音場が広がり,重量感のある低域が得られるという.とにかく,音が変わるのは明らかで,ドライブメカとピックアップ部にやたら凝った時期があったそうだ。
 その後,私とオビナタさんはさらにもっとアンビリーバボーな話を聞いたのだ。


シートの“色”で音が変わる!
 T09のターンテーブルには,アナログプレーヤと同様ゴム製のシートが載せられている(写真6).標準でグレーのシートが付いているのだが,なんとこのシートの色を変えると音が変わるというのだ!

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「そんなバカな…」と思い,冗談半分に,
「オレンジとかイエローとか暖色だと明るい音になるとか…」
というと,川口氏は
「そうです」
と平然として答える。 「じゃ,ブルーとか寒色系だとクールな音になるんですか?」
「まぁ、そうですね」
「ブラックにするとどうなります?」
「締まった感じの音になります」
これには私もオビナタさんも呆然としてしまった。では,それも実際に聴いてみましょうということになり,シートを変えていろいろと試聴した。
 結果は,正直言って短時間の比較ではその違いはよく分からなかった,と言うしかない.しかし,再生中に川口さんに「いま黒いシートに変えましたが,低音が少し強くなりましたね手数料」と言われた瞬間、ドキッとした。ホントにそう聞こえたのだ。ウッドベースの響きが少しハードな感じに変わって…なんだかアタマの中がグルグルしてきた。
 パイオニアでは,工場見学に来た人などに対してブラインドテストを行ない,シートの色を変えることによって音が変わったと答える人が多数派を占めることを確認しているという.
 それにしても,なぜ?当然,尋ねたくなるではないか。すると川口さんは,「はっきりした理由はまだ分からないんですが,ディスクのポリカーボネイト自体は透明で,いくらかレーザーがディスクを貫通してるんです.そこで,シートに当たって乱反射するんですが,色によってスペクトルが違うので,そのせいではないかと.それがピックアップに影響を与えて…」
 という.これじゃ完全にアナログの世界ではないか。私とオビナタさんは顔を見合わせた.
 このカラーシートは,パイオニアでは販売はしていない。音が変わるのは事実だがその理由が理論的に解明できていないからだそうだ。理由の説明できないものを,メーカーとして売ることはできないというわけだ。

デジ・アナの峡谷には何があるのか
 帰りのタクシーの中で,私とオビナタさんはアタマの中をグルグルさせながら,さっきの試聴室でのすばらしくもフシギな体験について語り合った。私は「ぼく,あれ買いますよ。36万のやつ」と二度も口走ってしまった。納得のいくまで自宅で聴いてみたいという強い強い欲望にかられたのだ。
 同時に,私はデジタルとアナログの水流が轟音をたてて両側から流れ落ちる大峡谷に虹がかかっているというような光景をイマジンしていた.
 従来デジタル方式というと,アナログ方式に比べてグラフィックでもサウンドでも,ドットやサンプリングのジャギー(ギザギザ)をイメージされることが多かった。が、デジタルも高解像度化と複雑な演算処理の高速化が極限的に進むと,もうそんな牧歌的なイメージは通用しなくなる.すでにそういう時代がやってきている.    (河村)


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ASCII1992(07)e08Digi-Ana写真2_W445.jpg
参考文献:
中島平太郎・小川博司共著『コンパクトディスク読本(改訂版)』
季刊「SOUNDTOPS」第29号P.196「柴崎功/DSP-DACの魅力と将来性」
次回予告
 マランツのオーディオコンピュータ「AX-1000」。2台のDSPを使って,リスニングルームの音響特性を考慮に入れてウィーン・ゾフィエンザールやアムステルダム・コンセルトヘボゥのアコースティクを実現する驚異のマシンをご紹介します。



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安心館,PS/55Z,CONTURA他(月刊ASCII 1992年7月号5) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

ASCII EXPRESSから安心館,PS/55Z,CONTURAをお願い致します。

安心館は職場で使っていた。FDDインターフェイス接続なので複数のマシンのところに持って行きシステムドライをバックアップしていた。
ASCII1992(07)d18安心館写真1_W362.jpg
ASCII1992(07)d18安心館写真2_W258.jpg
ASCII1992(07)d19安心館写真3画面1_W414.jpg
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安心館のまとめ部分をスクラップする。
 さて,バックアップで注目されるのはデータの保管性と,作業の手間/時間であろう。バックアップ用カートリッジテープの保管性は,パソコンよりもシビアな環境を要求されるワークステーションでの実績があり,書き込まれたデータは光ディスクと同等の信頼性があり,磁気的防護が完全であれば,5~10年はデータの完全保持が可能である.
 バックアップ作業の手間と時間だが,手間は専用ユーティリティのおかげで,ほとんど自動化されており,問題はない(画面1).
 しかし、安心館へのデータ転送がHDDインターフェイスより遅いFDDインターフェイスを介して行なわれるため,ホストマシンに関わらずバックアップには時間がかかる.これも,HDDの内部の書き込み状況によって左右されるのだが,一例を図2にまとめたので参考にしてほしい。ちなみに,1Mbytes程度のファイルをバックアップする場合では,FDDと安心館で,それほど差がなかった(どちらも1分前後).
 HDDユーザーに欠かせないバックアップ作業といっても、やはり面倒なことはしたくないものだ。その点安心館の簡易操作はなじみやすい。しかし,バックアップに1時間近くもコンピュータを占有されるのでは,作業は必然的に一日の終わり,就寝前や帰宅前ということになる。それならば,バックアップ終了と同時に,安心館の電源がオフになるような機能もほしかった。   (池田)

 昼休みに安心館を利用していた。バックアップするのはシステムドライブでデータはフロッピーディスクに個別に保存していた。

コンパックのCONTURA
ASCII1992(07)d09CONTURA_W351.jpg
コンパックのCONTURAのスペックをスクラップする。
製品名 CONTURA 3/20
価格 29万8000円~
CPU 386SX (20MHz)
メモリ 標準 2 Mbytes 最大10Mbytes
表示 16階調CFLサイドライト液晶
   640×480ドット
FDD 3.5インチ x 1
HDD 40Mbytes~
バッテリ駆動時間 3時間
重量 2.8kg

製品名 CONTURA 3/25
価格 39万8000円~ CPU 386SX (25MHz) メモリ 標準 4 Mbytes 最大12Mbytes 表示 16階調CFLサイドライト液晶
   640×480ドット
FDD 3.5インチ×1
HDD 60Mbytes~
バッテリ駆動時間 3 時間
重量 2.8kg

製品名 LTE Lite/25c
価格 83万8000円~
CPU 386SL (25MHz)
メモリ 標準 4 Mbytes 最大20Mbytes
表示 TFTカラー液晶
   640×480ドット/16色
FDD 3.5インチ×1
HDD 84Mbytes~
バッテリ駆動時間 3時間
重量 3.1 kg

製品名 PORTABLE 486
価格 82万8000円~
CPU 486DX (33MHz)
メモリ 標準 4 Mbytes 最大 32Mbytes
表示 16階調 TFTモノクロ液晶
   640×480ドット
FDD 3.517×1
HDD 120Mbytes~



PS/55Z 30U SLCとPS/55note N51 SLC
ASCII1992(07)d09PS55Z_W412.jpg
PS/55Z 30U SLCとPS/55note N51 SLCのスペックをスクラップする。
製品名 PS/55Z 30U SLC
価格 54万円~
CPU 386SLC(20MHz)
メモリ 標準 2Mbytes 最大 14Mbytes
表示 XGA(VRAM 1Mbytes) カラーモニタ
   1024×768ドット/256色
   640×480ドット/6万5536色
FDD 3.5インチ×1
HDD オプション
スロット 3 (マイクロチャネル)

製品名 PS/55note N51 SLC
価格 49万8000円
CPU 386SLC (16MHz)
メモリ 標準 4 Mbytes 最大 12Mbytes
表示 16階調CFLサイドライト液晶
   640×480ドット
FDD 3.5インチ×1
HDD 80Mbytes
バッテリ駆動時間 2時間
重量 2.8kg



プロサイドのDOS/Vマシン
ASCII1992(07)d10JD1994SX_W300.jpg
プロサイドのDOS/Vマシンのスペックをスクラップする。
製品名 JD1994SX-20
価格 21万9000円
CPU 486SX (20MHz)
メモリ 標準 4 Mbytes 最大32Mbytes
表示 SVGA
   1024×768ドット/16色
   640×480ドット/256色
FDD 3.5インチ×1
HDD 40Mbytes
スロット 6 (ISA)

製品名 JD1994-50
価格 44万円 CPU 486DX (50MHz)
メモリ 標準 4 Mbytes 最大32Mbytes
表示 SVGA
   1024×768ドット/16色
   640×480ドット/256色
FDD 3.5インチ×1,5インチ×1
HDD 200Mbytes
スロット6 (ISA)

製品名 JD1991-ROCK25
価格 17万5000円
CPU 386SX (25MHz)
メモリ 標準 4 Mbytes 最大16Mbytes
表示 SVGA
   1024×768ドット/16色
   640×480ドット/256色
FDD 3.5インチ×1
HDD 40Mbytes
スロット 2 (ISA)

製品名 LD486DX-50VX
価格  54万8000円
CPU 486DX (50MHz)
メモリ 標準4 Mbytes 最大32Mbytes
表示 プラズマディスプレイ
   640×480ドット
FDD 3.5インチ×1
HDD 105Mbytes
スロット 2 (ISA)
重量 7.2kg



PCvision 4/33
ASCII1992(07)d11PCvision_W351.jpg
ASCII1992(07)d11PCvision画面1_W407.jpg
ASCII1992(07)d11PCvision写真5_W311.jpg
PCvidion 4/33のスペックをスクラップする。
製品名 PowerPremium 3/33, 4/33,4/50
価格  35万7000円~, 42万8000円~, 49万9000円~
CPU 386DX (33MHz), 486DX (33MHz), 486DX2 (内部50MHz)
メモリ 標準4 Mbytes 最大80Mbytes
表示 SVGA (アクセラレータ付き)
   1024×768ドット/16色
   800×600ドット / 3万2000色
FDD 3.5インチ×1
HDD オプション
スロット 6 (EISA)

製品名 PremiumExec 386SX/25C
価格  61万4000円
CPU 386SX (25MHz)
メモリ 標準 4 Mbytes 最大 8 Mbytes
表示 パッシブマトリックスカラー液晶
   640×480ドット/16色
FDD 3.5インチ×1
HDD 60Mbytes~ バッテリ駆動時間 3時間
重量 3.4kg


PCvision 4/33のまとめ部分をスクラップする。
 PCvision 4/33の魅力はなんといっても,一流メーカーの486-33MHzマシンとしては従来の半額以下という野心的な価格だ。IBMやコンパック,あるいは日本電気,東芝,富士通といったところの486-33MHzマシンは今でも100~200万円することを考えるとPCvisionの安さははっきりする。万一故障した場合のことなどを考えると,大きなメーカーで,ちゃんと日本法人のあるところなので安心できるといえる。


DynaBook V486 J-3100XS 081VT
ASCII1992(07)d12Dynabook_W435.jpg
ASCII1992(07)d12Dynabook画面2_W335.jpg
DynaBook V486 J-3100XS 081VTのまとめ部分をスクラップする。
 使用感はさすがに快適のひとことに尽きる。486マシンだけあって,Windowsを起動してもストレスを感じない。モノクロのノートパソコンでは,Windowsを動かすとマウスカーソルが見にくいという問題があるが,カラ一液晶が普及すればWindows環境を携帯するのは当たり前の風景になるだろう(画面2).ただ,ポインティングデバイスとしては背面にマウスをつなぐ以外にないので、電車の中などでWindowsを使う方は,キーボードでの操作に習熟しておく必要がある.筐体を変えたのだから,ついでにトラックボールを付けるか,せめてサムマウスのようなオプションを用意して欲しいものだ。
(中略)
 CPUパワーの差を考えれば,かなりがんばった価格だが,89万8000円という金額は個人がぽんと出すにはまだちょっと高いものがある。ノートパソコンにも486の速度を求める人は少なくないだろうから、ノーマル液晶の安価なバージョンの発売も期待したい。



FLORA 3010N
ASCII1992(07)d13FLORA写真7_W423.jpg
FLORA 3010Nのまとめ部分をスクラップする。
 3010Nは40MbytesHDD内蔵モデルのみで,価格は37万8000円。同機能の55noteが35万2000円だから,DOSとATOK7が付いてくることを考えれば割安だ。AX仕様のHDDつきノートとしては最も格安のマシンとなる。


PenTop modelIV
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ASCII1992(07)d14PenTop写真2_W503.jpg
ASCII1992(07)d14PenTop写真3_W438.jpg
PenTop modelIVのスペックをスクラップする。
製品名 PenTop modelV
価格 55万8000円(40Mbytes モデル)
CPU 386SL (25MHz)
メモリ 4 Mbytes (最大8Mbytes)
HDD 40M/80Mbytes × 1
FDD 720K/1.2M/1.4Mbytes × 1
表示 640×480ドット, VGA, 16階調
I/0  外部ディスプレイ, プリンタ
   RS-232C, ISA拡張バス
   タブレット, キーボード
スロット メモリ専用スロット
     ファクスモデムボード用スロット
     イーサネットボード用スロット
サイズ 本体 279(W)×216(D)×26.4(H)mm
    タブレット 279(W)×233(D)×14.8(H)mm
重量 本体 1.5kg
   タブレット 1 kg


PenTop modelIVのまとめ部分をスクラップする。
 このマシンが,本領を発揮するまでには,まださまざまな問題を解決しなければならない.しかし,PenTop modelVが,オフィスの中でのペントップコンピュータのあり方を問う,貴重なコンセプトマシンであることは間違いないだろう.


PRO NOTES 55とFMR-50CARD
ASCII1992(07)d15PRONOTE画面1_W434.jpg
ASCII1992(07)d15PRONOTE写真4_W387.jpg
ASCII1992(07)d16FMR-50CARD写真5_W367.jpg
ASCII1992(07)d16FMR-50CARD写真6_W323.jpg
PRO NOTES 55とFMR-50CARDのスペックをスクラップする。
製品名 Panacom PRO NOTE55
価格 29万8000円/39万8000円
製品名 FMR-50CARD
価格 27万8000円/39万8000円
CPU 386SX (16MHz)
ROM 256Kbytes
メモリ 2 Mbytes (最大10Mbytes)
表示 640×400ドット, 16階調
   FLバックライト白液晶
記憶 FDD × 1
   HDD ×1 ( 40Mbytes)
   ICメモリカード
スロット メモリ拡張スロット×1
     モデムスロット×1
電源 Ni-Cd電池
   Ni-MH電池 (オプション)
サイズ 297(W)×250(D)×28(H)mm
重量 約1.7kg (HDDモデル)


PRO NOTES 55とFMR-50CARDのまとめ部分をスクラップする。
 価格は,40MbytesモデルでPRO NOTE55,FMR-50CARDともに39万8000円と,98NS/Tと同じ価格となっている。処理速度では20MHzのSLを搭載する98NS/Tのほうが高速だが,そのコンパクトさと軽さは持ち運んで使う際に利点であり,アウトドアユーザーにはぴったりのマシンといえる。


Macintosh Quadra 950とMacintosh LC II
ASCII1992(07)d17MacQuadra写真1_W210.jpg
ASCII1992(07)d17MacQuadra写真2_W325.jpg
Macintosh Quadra 950とMacintosh LC IIのスペックをスクラップする。
製品名 Macintosh Quadra 950
モデル 8 MB/FD, 8 MB/HD230MB, 8 MB/HD400MB
価格 143万8000円, 167万8000円, 183万8000円
CPU MC68040 (33MHz)
メモリ 8 Mbytes (最大64Mbytes)
外部I/O ADB×2, シリアル×2, イーサネット
    SCSI×2,サウンド出力(ステレオ)
    サウンド入力(モノラル)
拡張スロット NuBus × 5, 040PDS × 1
FDD 800Kbytes/1.4Mbytes × 1
HDD ―― 230Mbytes 400Mbytes

製品名 Macintosh LC II
モデル 4 MB/FD, 4 MB/HD40MB, 4 MB/HD80MB
価格  25万8000円, 33万8000円, 37万8000円
CPU MC68030 (16MHz)
メモリ 4 Mbytes (最大10Mbytes) 外部I/O ADB,シリアル× 2, SCSI
    サウンド出力, サウンド入力
拡張スロット 030PDS×X 1
FDD 800Kbytes/1.4Mbytes × 1
HDD ―― 40Mbytes 80Mbytes


 Mac LCのピザボックスタイプの筐体が好きだった。
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PC-9801FS/FX,PC-486GR/GF,ODP(月刊ASCII 1992年7月号4) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

NEW MODEL IMPRESSIONからPC-9801FS/FX,PC-486GR/GF,OverDriveプロセッサをスクラップする。

PC-9801FS/FX
ASCII1992(07)d01PC-9801FS写真_W478.jpg
ASCII1992(07)d01PC-9801FS写真1_W327.jpg
ASCII1992(07)d02PC-9801FS写真2_W497.jpg
ASCII1992(07)d02PC-9801FS写真3_W500.jpg
ASCII1992(07)d03PC-9801FS写真4_W474.jpg

SPECをスクラップする。
製品名 PC-9801FS
価格 34万8000円 (FS/2, FS/U2)
   46万8000円 (FS/5, FS/U5)
   53万8000円 (FS/7, FS/U7)
CPU 386SX (20MHz)
メモリ 標準1.6Mbytes 最大14.6Mbytes
表示 640×400ドット
FDD 5インチ×2または3.5インチ×2
HDD なし  (FS/2, FS/U2)
   40Mbytes (FS/5, FS/U 5)
   100Mbytes (FS/7, FS/U7)
拡張スロット 標準拡張スロット×4
サイズ 380 (W) x 335 (D) x 150 (H) mm
重量 9.4kg (FS/2)
   10.4kg (FS/5, FS/7)
   Uシリーズは800g軽い

製品名 PC-9801FX
価格 27万8000円 (FX/2, FX/U2)
   39万8000円 (FX/5, FX/U5)
CPU 386SX (12MHz)
メモリ 標準1.6Mbytes 最大14.6Mbytes
表示 640×400ドット
FDD  5インチ×2または3.5インチ×2 (FX/2, FX/U2)
HDD なし
   40Mbytes (FX/5, FX/U5)
拡張スロット 標準拡張スロット×4
サイズ 380 (W) x 335 (D) x 150 (H) mm 重量 9.4kg (FX/2)
   10.4kg (FX/5)
   Uシリーズは800g軽い


ASCII1992(07)d02PC-9801FS-MME_W351.jpg
PC-9801FS/FXのまとめ部分をスクラップする。
 では,ベンチマークテストの結果を見てみよう.FSは,期待どおりDS比で約1.25倍ほど高速化されている.一方のFXは,かけ算命令以外は,DXとほとんど変わっていない。これも,予想どおりの結果である。
 画面表示の高速化など,CPU以外の点でも多少の改良があることも期待していたのだが,これははずれた.対抗するエプソンの新機種では画面表示関係で高速化が実現されていることや,Windows使用時にはビデオ処理の速度が使用感を大きく左右することを考えると,98シリーズでも画面表示などの周辺装置についてさらなる高速化を望みたい。
(中略)
 PC-9801FS/FXに上位機種のFAを含めたデスクトップの新シリーズは,より高機能なだけでなく,便利で使いやすい環境を追求したマシンになっている.価格面でもFSが34万8000円,FXが27万8000円(ともにFDDモデル)で,DS(35万8000円),DX(31万8000円)に比べ,高機能かつ低価格になっている。とはいえ、エプソンの新製品であるPC-486GFは,FSと同価格で機能はFA相当であり、これと比較されるとFSはつらい。日本電気純正であること,ファイルスロット用の周辺機器の充実などと天秤にかけることになる.



,PC-486GR/GF
ASCII1992(07)d04PC-486GR_W505.jpg
ASCII1992(07)d04PC-486GR写真2CPUボード_W500.jpg
ASCII1992(07)d04PC-486GR写真2メイン基板_W391.jpg
ASCII1992(07)d05PC-486GR写真3_W308.jpg
ASCII1992(07)d05PC-486GR写真4_W353.jpg
PC-486GR/GFのSPECをスクラップする。

製品名 PC-486GR 価格 45万8000円 (GR2/GR5)
   60万8000円(GR2E/GR5E)
   48万8000円 (GR3)
CPU 486SX (25MHz)
メモリ 標準 1.6Mbytes
    (ハイレゾモード時 1.5Mbytes)
    最大 14.6Mbytes
表示 標準 640×400ドット
       1120×750 ドット
オプション  640×480ドット
      1024×768ドット
FDD 3.5/5インチ×2
  (3.5インチ×1+5インチ×1:GR3)
HDD 100Mbytes (Eモデル)
拡張スロット 標準拡張スロット×3
       (ハイレゾボード装着時: 2 )
       上位互換32bit スロット×1
サイズ 389(W)×347(D)×150(H)mm
重量  8.7kg (GR2)

製品名 PC-486GF
価格 34万8000円 (GF2/GF5)
   49万8000円(GF2E/GF5E)
   37万3000円 (GF3)
CPU 486SX (16MHz)
メモリ 標準 1.6Mbytes 最大 14.6Mbytes
表示 標準 640×400ドット
   オプション 1120×750ドット,
   640×480ドット, 1024×768ドット
FDD 3.5/5インチ×2
  (3.5インチ×2+5インチ×1:GF3)
HDD 100Mbytes (Eモデル)
拡張スロット 標準拡張スロット×3
       上位互換32bit スロット×1
サイズ 389(W)×347(D)×150(H)mm
重量  8.5kg (GF2)


ASCII1992(07)d05PC-486GR画面1_W453.jpg
ASCII1992(07)d05PC-486GR画面2_W439.jpg

 PC-486GR3は24ドットフォントが美麗な高速DOSマシンとして気に入っていた。DOSマシンの最終形体だと思って自宅で使っていた。Windowsマシンとしては使っていなかった。
 以下スクラップする。
拡張性に優れた486マシン
 PC-486GR(以下GR)は,CPUに25MHzの486SXを搭載,1120×750ドットのハイレゾリューションモードを標準で備えるデスクトップマシンだ(写真1).PC-386GS(386DX,20MHz)の上位機となるだけでなく、PC-386G(386DX,33MHz)よりも高機能となるわけで,事実上のハイエンド機として位置付けることができる.
 一方のPC-486GF(以下GF)は,CPUにPC-9801FAと同じ16MHzの486SXを搭載している.PC-386GEの上位機であるとともに,486マシンとしては普及モデルということになる.標準ではハイレゾモードは備えていないが,GEと同様にオプションのハイレゾボード(PCHRLB2)を第4スロットに装着できる.
 GS/GEと同じ本体ケースを使用しているので,外観にはほとんど変化がない。正面に貼られていたシールがなくなって,機種名が直接刻印されていることが,わずかな相違点となっている.
 メインメモリはGR/GFともに1.6Mbytes(ハイレゾモードでは1.5Mbytesとなる)を標準搭載しているほか,CPUボード上のソケットにRAMモジュールを2枚まで装着可能なので,増設RAMボードを使用せずにメモリを合計9.6Mbytesまで(4MbytesRAMモジュール使用時)拡張可能だ(写真2).さらに増設RAMを使用すれば,最大14.6Mbytesまで増設できる。
 GS/GEと比較すると,CPUの変更による高速化だけでなく,画面の表示速度も改良されている.新ビデオASIC(特定用途向けIC)の採用によって,テキスト表示で約3倍,グラフィック表示では約2倍の高速化を実現したという.
 そのほか,内蔵FDDを他のPC-286/386の増設ドライブとして使用できるターミナルFDDモード,FM音源3和音のサウンド機能,動作中のCPUクロック切り替え(38610MHz相当,3865MHz相当の3段階)が可能な点など,GS/GEの便利な諸機能は,そのまま継承している.
 GR/GFのラインナップは,3.5インチFDDモデルGR/GF2,5インチFDDモデルGR/GF5,100MbytesHDDを内蔵したGR/GF2EとGR/GF5E,3.5インチモデルに5インチFDD1基を追加したGR/GF3の合計10モデルが用意される.5インチモデルには,本体前面に3.5インチFDDユニットを増設できる.また,FDDモデルにはオプションの100/200MbytesHDDのほか、従来のPC-386V/286Vシリーズ用のHDD(20/40/80Mbytes)も内蔵できる.

マシンをもっと快適にするオプション群
 GRとGFに共通するもうひとつの大きな特徴が,その優れた拡張性だ.
 Windowsアプリケーションを快適に利用するには,25MHzの486SXでも不十分なときがあるのが現実だ。今回、エプソンが多様なアップグレードオプションを用意したのも,このような不満への対応だろう.

●オーバードライブプロセッサ
 まず,ODPによってCPUそのものをさらに高速化できる。ODPについてはこの特集の別項に説明があるので詳しくはそちらを参照願いたいが,簡単にいえば487SX数値演算コプロセッサ用ソケットに装着することにより,CPUの内部クロックを2倍にするというチップだ。たとえば,GRに25MHz用のODPを装着すれば,内部クロックは2倍の50MHzになる.ODPにはコプロセッサの機能も内蔵されており,GR+ODPの能力は,やはりCPUの内部クロックが倍速化された25MHz(内部50MHz)の486DX2搭載マシンと同等になる.エプソンでは,内部クロックが50MHzのGR用(PCODP11,24万円),32MHzのGF用(PCODP12,20万円)を提供するが,487SXコプロセッサはサポートしないとのことだ。
●専用拡張ビデオボード
 画面表示の強化は,専用拡張ビデオボード(PCSKB)を第3スロットに装着することで実現される(写真3).GR/GFの第3スロットはコネクタの幅は従来バスと同じだが,各端子の幅が狭く2倍の端子数となっている.従来のスロットと互換性を持ち,従来機用のボードも装着できる.
専用拡張ビデオボードは,IBM PC/AT互換機用SVGAボードに用いられているグラフィックアクセラレータチップのS3(エス・キューブド)を搭載している.VRAMを512Kbytes搭載しているので,エプソン版Windowsに新たに添付されるディスプレイドライバを使用すれば,640×480ドット256色およびインターレースで1024×768ドット16色が表示可能となる(画面1).さらに512Kbytesの増設ビデオメモリ(PCKBZM)をボードに装着すれば,1024×768ドット256色表示も実現できる.  専用拡張ビデオボードに対応するディスプレイとしては,ハイレゾ表示可能なマルチスキャンタイプのCR-5500(16万8000円)が接続できる.
 GRが標準で装備しているハイレゾボードは98ハイレゾモード互換になるのに対して,専用拡張ビデオボードはノーマルモードから利用する.つまり,Windows3.0などの対応ソフトで使うわけだ。そのため,DOSウィンドウのマルチタスクも可能だ(画面2).
【ASCII1992(07)d05PC-486GR画面2_W439】  ビデオボードからは,98用(15pinD-sub)ディスプレイコネクタだけでなく,15pin ShrinkD-subのコネクタも出ているので,IBM PC用ディスプレイも接続が可能だ.なお,ハイレゾボードと専用拡張ビデオボードはWindowsドライバとディスプレイコネクタを切り替えることにより共存が可能である.専用拡張ビデオボードは7万9800円で提供されるが,表示スペックがほぼ同等なアイ・オー・データ機器のビデオボードGA-1024i(9万8000円)と比べると,32bitバスで接続されていることによる高速化のメリットは大きい。
 また、通常の外部拡張スロットに装着するタイプの拡張ビデオボード(PCHKB)も用意される.16bitバスでの接続であるため専用拡張ビデオボードよりは速度が落ちるものの、従来の機種でも1024×768ドットの画面を手軽に実現できる.価格は専用ボードと同じ7万9800円である。

●アウトラインフォントボード
 アウトラインフォントボード(PCOFB)は,従来のスケールフォントROMボード(OFP-3000)と違い,アウトラインフォントの展開を高速化するアクセラレータボードである.フォントがROMではなくHDDに置かれるので読み込み速度はやや遅いものの、32bitの内部拡張スロット(専用メモリスロット)に装着するため,トータルの表示速度は速くなり,Windows上で快適なWYSIWYG環境を実現できる.また,このボードは同じ内部拡張スロットを持つGSなどでも使用できる。フォントは明朝,ゴシックの2書体が標準で提供されるほか,HDDフォントであるため書体の拡張性は高く,日本語Windows3.1で採用される予定の日本語TrueTypeへの対応も考えているということだ.
●アップグレードCPUボード
 GS/GEのユーザーは,25MHzの486SXを搭載したアップグレードCPUボード(PCCPUB11)を購入して差し替えることにより,486マシンにグレードアップすることができる.GEは386SXマシンだが,CPUボードとマザーボードを接続するバスがGSと同じ32ビットバスであるため486CPUボードを搭載できる。もちろん,ODPも装着可能である.ただし,高速ASICによる表示の高速化や,拡張ビデオボードを装着するスロットは32bitバスではないので,すべてのスペックがGR/GFと同じになるわけではない。以上のオプションは7月発売予定ということだが,発売が待ち遠しいくらいの魅力を持った製品群だといえる.
高速化した処理速度と画面表示
 恒例のベンチマークテストを行なった(図1).GRは,GSと比較すると乗算以外の演算で約2~3倍,スクロールでは新ASICの効果もあって約4倍まで高速化されている.このASICの効果は、同じCPUを搭載したFAとGFを比較するとよりはっきりと分かる.演算はほぼ同性能である両機だが,画面表示性能になるとGFのほうが2~3倍高速になっている。これとは別に,Windowsのメモ帳を使いテキスト(約23Kbytes)のスクロールスピードを計測したが,GRは約36秒でGS(約115秒)比で約3倍という結果が出た.また,今回ODPはGR用のみ計測できたが,乗算命令がODP非装着時の約2倍など,ほぼ期待どおりの結果が出ているといってよいだろう。
 価格の面では,GRはPC-9801FAと同じ45万8000円(2FDDモデル)だが,CPUはより高速で,ハイレゾモードも標準装備している.一方GFは,CPUがFAと同等だが,34万8000円(2FDDモデル)でFAより10万円以上安い。どちらも,98系マシンとしてはコストパフォーマンスが高い。
 PC-486GR/GFは,エプソンが98互換機メーカーとしての力量を十二分に発揮したマシンといってもよいだろう。

 PC-9801VX2をメインマシンとして使っていたのでPC-486GRの高速化をはっきり体感でき満足だった。ただ、1年後に10万円安い後継機種が出てショックを受けた。それでも性能には満足して長くDOS環境を楽しんでいた。

OverDriveプロセッサの記事をスクラップする。
ASCII1992(07)d08OverDrive写真1_W488.jpg
職場のマシンでは使ったが、自宅のマシンの速度と体感的には差を感じられなかったので自宅マシンには入れなかった。
OverDriveプロセッサとは
 Windows3.0を使うようになると,386マシンでも役不足だと感じることが少なくないだろう.ソフトウェアの進化は,常により強力なCPUを要求してきた.今486マシンを買っても、1年後にはそれでもパワー不足という事態が起きる可能性はかなり高いといえる。しかし、自分のお金で買ったマシン,あるいはオフィスに導入したリースのマシンをそう簡単に取り替えるわけにはいかない次期マシンに買い替えるまでの間,せめてCPUパワーだけでも補完できないか,というのはユーザーの切なる望みだろう.
 OverDriveプロセッサ(以下ODPと略す)は,専用ソケットに装着することによって現在使われているCPUのパワーを大幅に引き上げる、いわば新種のCPUである。今回インテルが発表したのは486SXに対応するODPで16/20MHz版と25MHz版の2種類がある.

コプロセッサや486DX2との関係
 ODPは,基本的にメーカーが基盤上に用意した「ODP用ソケット」に装着して使うものだ(図1).したがって,本来ならば今後発売されるマシンにしかこのソケットは付かないことになるわけだが,今回発表された486SX用のODPは487SXのソケットを想定して作られているため,すでに発売されている486SXマシンでもODPチップを装着できる場合がある(図2)。利用できない場合としては、(1)消費電力が増えるために物理的に動作が不安定になる場合,(2)BIOSがCPU名をチェックしている場合,などが考えられるという.
ASCII1992(07)d07OverDrive図1_W500.jpg ASCII1992(07)d07OverDrive図2_W500.jpg  ユーザー側としては,メーカーが「ODP「対応」を謳っている場合であれば,ODPを購入して装着することができる。
 すでに486DXの載ったマシンを持っていある方は気をもむことになりそうだが、この6月には486DXと同じピン構成(168ピン)のODPも発売される.したがって,基盤上の486DXがCPUソケットに装着されていれば,それと差し替えることでODPチップを使える可能性がある.もちろんこの場合でも,メーカーがODP対応を謳っていなければ動作は保証されない。
 インテルとしては,今後発売されるマシンは486DXであってもODP用ソケットを用意してもらいたいということだ。こうすれば,危険なCPUの抜き取りを行なう必要はなくなる.

ODPの中身
 486SX用ODPは,ピン数などの外見は487SXと同じだが、中身は先日インテルが発表した486DX2とほぼ同じものだ(図3).内部処理はマザーボードのクロックの倍速で行なわれるため,最大で従来の倍の速度が期待できることになる.インテルによれば,平均70%の速度向上になるという。もちろん,486SXにはない浮動小数点演算機能もサポートされ,内部キャッシュは従来同様8Kbytesを搭載している。
ASCII1992(07)d07OverDrive図3_W500.jpg  実際にODPを装着して,どれくらい速度が向上するか,いくつかのベンチマークテストの結果をもとに判断してみよう。今回テストに用いたのは,PC-9801FA(486SX-16MHz),PC-H98S8(486SX-20MHz),PC-486GR(486SX-25MHz)の3機種で,FAとS8には16/20MHzバージョン,GRには25MHzバージョンを装着した。なお,FAとS8についてはまだ日本電気はOverDrive対応を表明していないため,結果は編集部で試験的に運用してみただけのものと考えていただきたい
 まず編集部標準ベンチマークテストだが,むずかしい結果になった.3機種とも足し算ではまったく効果がない一方,NOPは50~100%,かけ算は100%の速度向上が見られた.おそらく足し算に関しては,命令の読み込み(これはバスの速度に依存する)がCPUの処理に追い付かず,かけ算のほうはCPUが計算している間に命令を読み込む時間があった,と解釈できるが,NOPがこの中間になっているのはよく分からない.
 画面表示に関しては、スクロールにはほぼ効果がなく、文字出力は20~30%ほど高速化されている.画面表示が作業の大部分を占めるようなソフトは,思ったほど速くならないかもしれない.
 このほか,Dhrystone,Whetstone,Norton Utilities Advanced Edition(ソフトウェアジャパン)のSIによって,ODPによる速度変化を計測してみたが,Dhrystoneでは50~67%,SIでは100%近い高速化が認められた.利用するソフトウェアによってかなりばらつきは出そうだが,CPU関係で70%の高速化というインテルの発表はそうはずれてはいないようだ。また,浮動小数点演算の速度を測Whetstoneベンチマークではさすがに10倍以上の速度になっている.ODPを装着した場合の値が3機種とも同じになっているが,これは処理が1秒以内に終わってしまうため差を検出できなかったからである。
 ODPは,16/20MHz版が12万円,25MHz版が15万円となっている。現在一部メーカーの製品で行なわれているCPUボードやマザーボードの交換,あるいはサードパーティ製品によるアクセラレータボードなどを利用するよりかなり安く,また簡単にアップグレードを行なうことができる.これだけの投資で速度が倍近くになるというのは、あまりにも大きな差だ.386マシンにはODPは付けられないのだから,たとえ少々クロックが遅くても386より486マシンを選んだほうがいいし、同じ486マシンでも,メーカーがODPサポートを謳っているかどうかを厳重にチェックすべきだ。
 仮に70%の高速化を仮定すれば,20MHzの486SXマシンは486DX-34MHz,25MHzの486SXなら486DX-42.5MHzに相当することになる.となれば,あえてSXマシンを購入してODPを差す,という選択もありうる。すでに33MHzのマシンをお持ちの方は,33MHz版のODPを待つことになる.

 OverDrive Processor 響きのいい名前で憧れのような気持ちを持っていた。しかし、実際には体感できるほどの速度上昇が感じられず期待外れのだった。職場のマシンに導入していたおかげでポケットマネーから無駄な出費をせずに済んだ。


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パソコン出荷実績・米国ハイテク産業の動向他(月刊ASCII 1992年7月号3) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

ASCII EXPRESSをスクラップする。

「パーソナルコンピュータの平成3年出荷実績」
ASCII1992(07)b01パソコン出荷実績_W520.jpg
私は平成3年では8086と80286マシンを使っていた。これを見るともう80386時代に突入していたのか。
平成4年にPC-486GRを買ったから80386をスキップした。80286は要らなかった。V30を買っておけば良かったとずっと後悔していた。

「ビジネスショウ'92 TOKTYO」をスクラップする。
ペンコンピューティングに話題が集中
ビジネスショウ'92 TOKYO
 5月20日から23日までの4日間東京晴海の東京国際貿易センターの7館9会場を利用して,日本経営協会と東京商工会議所が主催する第74回ビジネスショウが開催された.今回のテーマは「オフィスイノベーションより人間らしく快適に」創造性豊かなオフィスを提案し、快適な空間としてのオフィスを創造するというものである.
 今回は,平成不況のあおりを受け,コンピュータ関連業界も景気がいいとはいえないものの、出展は海外からの11社を含め計336社,来場者も当初予想された40万人を上回る42万8100人に達したということだとはいえ,昨年の44万1200人と比べると低い数字になっている.
 全体の傾向としては,参考出品されたハードウェアに話題が集中.その反面,ソフトウェア関連は不況の影響をかなり受けているのか,ハードウェアに比べるとだいぶ地味な印象が残った。唯一の例外はMS-Windows上のアプリケーションといったところだ.展示会場では,文房具や個人向けの情報機器のユーザーインターフェイスとしてペンを考えるメーカーが増えたせいか,ペンコンピューティング関連に人気が集中した。7月に発売されるワコムの「PenTop」以外に,三洋電機,沖電気工業,キヤノン,日電など数多くの参考出品があり、最も注目を浴びていたといえる.パーソナルコンピュータ関連では,DOS/Vや日本語MS-Windowsで日本語を扱えることから,コンパックやデル,エイサーなどのIBM PC互換機が多数展示され,i486DX2(66MHz)搭載マシンも散見された.高速性といえば,エプソンはi486SX(20MHz)搭載のPC-486GRを,クロック周波数16MHzの日電のPC-9801FAと比較して処理速度の違いを比較して見せていた.ビジネスコンピューティングの分野では,大型,中型コンピュータを核にしたシステムのダウンサイジングとして,パーソナルコンピュータをベースにしたノベル社のNetWarev 3.1Jを利用したクライアント・サーバシステムを提唱するハードウェアメーカーが目立った。とはいえ,ビジネス分野で徐々に台数を伸ばしているUNIXワークステーション関連メーカーの出展は少なかった.今回,快適なオフィス空間がテーマだが,各社とも自社の最新のハードウェアやソフトウェアの展示が中心で,それらのコンポーネントを組み合わせ,オフィスの快適さを来場者に具体的に見せてくれたブースは少ない.展示スペースの広さや費用の問題もあるとは思うが,自社の提案を他社製品と組み合わせることで実際のモデルとして提示するなどの分かりやすい展示も必要ではないだろうか.

 ペンコンピューティングは客と対面する営業では使われ始めたと思うが、一般ユーザには支持されなかった。ポケットコンピュータというか電子手帳では利用されるが家庭用パソコンとかノートパソコンでは使われていなかった。iPadのようなタブレットも当時は無かった。以下写真をスクラップする。

三洋電機のペン・ベース・コンピュータMBC-P100(仮称)
ASCII1992(07)b02写真01三洋電機MBC-P100_W352.jpg

沖電気工業のペンコンピュータ「OKI Pen Computer」
ASCII1992(07)b02写真02沖電気PenComputer_W346.jpg

富士通「ポケットパッド」
ASCII1992(07)b02写真03富士通ポケットパッド_W474.jpg

エヌエス・カルコンプ「Display Pad(22073)」
ASCII1992(07)b02写真04エヌエス・カルコンプDisplayPad_W396.jpg

シャープの電子手帳「PV-F1」
ASCII1992(07)b02写真05シャープPV-F1_W355.jpg

IBMの「ペン入力システム」
ASCII1992(07)b03写真06IBMペン入力システム_W415.jpg

富士通の日本語ワープロ「OASYS Pocket2」
ASCII1992(07)b03写真07富士通OASYSPocket2_W314.jpg
いまだに単に「ワープロ」と呼ばないで「日本語ワープロ」と書いてある。日本で日本語ができないワープロがどれだけ店頭にあった、販売されていた、使われていたというのか。

ジャストシステム「Pen-DOS & ATOK for Pen」
ASCII1992(07)b03写真08ジャストシステムPenDOS-ATOKforPen_W402.jpg

ボーランド「QUATTRO PRO」
ASCII1992(07)b03写真09ボーランドQUATTRO-PRO_W383.jpg

オージス総研「SOMOSAN(仮称)」
ASCII1992(07)b03写真10オージス総研SOMOSAN_W287.jpg

ロータス日本語ワープロ「AmiPro/Windows R2.0J」
ASCII1992(07)b03写真11ロータスAmiPro/WindowsR20J_W380.jpg

日電「ネットワーク対応仮想現実実感システム」
ASCII1992(07)b03写真12日電ネットワーク対応仮想現実_W348.jpg

オムロン「PEXstation」
ASCII1992(07)b03写真13オムロンLUNAシリーズ_W321.jpg

毎日新聞社主催「第一回日本のマニュアル大賞」
ASCII1992(07)b03写真14第一回日本のマニュアル大賞_W399.jpg

丸紅エレクトロニクス「CREO」の光テープ
ASCII1992(07)b03写真15丸紅エレクトロニクスCREO_W292.jpg

「米国ハイテク産業の動向」をスクラップする。
PDAでSculleyの真価が問われる
 LAでの暴動騒ぎは日本でも派手にメディアに載ったらしく、筆者のところにも多くの人がわざわざ電話を掛けてきてくださった.でもご安心を.シリコンバレー周辺では,サンフランシスコとバークレーで若干騒ぎがあった程度で、特にサンタクララ,クバチーノ周辺では,幸い何も起こらなかった.
 暴動の当日は,筆者の隣の住人(この人はロッキードでレーザ通信などの研究をしている)の家でパーティーがあってここでも話題はその騒ぎのこと.スタンフォードで研究職にある隣の隣の人に言わせると「とても忙しくて騒ぎに参加する暇は皆無.(騒いでいるのは)よほど暇なのだろう」とのこと.不況とは言え,ハイテクヤッピーたちにとっては,まだまだこの手の暴動に参加する時間はなさそうだ.


  アメリカの暴動事件は複数あるのでどんな暴動だったか思い出せない。どんな暴動だったかwikiを見てみた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%BC%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%9A%B4%E5%8B%95
>直接のきっかけは1991年3月3日、ロドニー・キングという黒人男性がロサンゼルス市内を運転中にスピード違反容疑で停止を命じられたのち逃亡し[8]、現行犯逮捕された事件である[3]。

>このとき車を降りたキングが警官らの指示に従わなかったとして[8]、ロサンゼルス市警の警官4人が集団で激しい暴行を加えた。偶然撮影されたこのときの様子を全米のテレビネットワークが放送し、市警の対応に強い批判が起きた[2][8]。

>警官4人は暴行の容疑で起訴されるが、キングが仮釈放中だったことや飲酒運転の疑いがあったことなどから[8]、約1年後の1992年4月に無罪の評決を受けた[9]。この結果に対し、黒人社会を中心に広範囲で激しい抗議活動が起こり、一部が暴徒化して警察署・裁判所などが襲撃された[5]。

■Kaleidaの新社長やっと決定か?
 AppleとIBMのマルチメディア合弁企業「Kaleida」の新社長がやっと決定しそうだ。このポジションは,半年前からもめていたもので,最初に白羽の矢がたったMetaphar社のDavid LiddleはApple主導の運営に嫌気がさして新会社を作ってしまった.そこで話が回って来たのが,NatGoldhaberだ.彼は,Mac,PC,UNIXのネットワークで一世を風靡したTOPSを開発したCentram SystemWest社の設立者である.
 この会社は後にSunに買収され、現在はSitka社と名前を変えている(System7以後,過去の会社となりつつある)その後,ベンチャーキャピタリスト,Cole,Gilburne and Goldhaberのパートナーとして,各社で投資事業を行なっていた.また,John Sculleyの顧問役としてApple社のマルチメディア事業を助言していたとも言われており,もしかしたらこの人自身がKaleidaの言い出しっぺなのかもしれない.
 筆者は以前この人と会食する機会があったが,どちらかと言えば静かにものを考えるタイプの人.Apple社,IBM社ともにコメントを避けているが,これでやっともめにもめた人事も決着がつくかもしれない。

■Macクローン開発会社,先取り提訴
 UNIX上でMacソフトを動かすQuorum Latitudeを開発するQuorum Software Systems社は,Appleの著作権を侵害していないことを証明するよう地方裁判所へ提訴した.Latitudeは,MacアプリケーションをMotif,OpenLook,NeXTstepなどで動作可能にする製品.Macアプリがそのまま動作するわけではなくサードパーティがQuorum Latitudeが提供するライブラリと一緒にリビルドしなければならない.
 Quorum社によれば,Appleからの再三にわたる販売取り止めの申し入れがあったため,今回の提訴先取りに踏み切ったもよう.この中にはAppleのHeinen副社長からの「LatitudeがAppleのプルダウンメニューやカラーQuickDrawに関する特許を侵害している」という警告書も含まれている.Apple社から提訴される前に,裁判所から自分たちのソフトがAppleの著作権や特許に抵触していないという、言わば「おすみ付き」をいただこうという,あまり前例のない提訴だ.
 Quorumの今回の動きに同調するAppleのサードパーティも多い.Appleはやりすぎだというのが多くの見解.また,次期商品である「Quorum Equal」を潰すことがAppleの本当の狙いだとする意見もある.EqualではMacアプリケーションがそのままUNIX上で動作可能になると言われているからだ。ちなみに今回のQuorumの提訴も,Microsoft,HPのケースと同様,Vaughn Walker判事が審理にあたると見られている.

■今年のMacintoshの新製品群
 今月は,Apple社の「Worldwide Developers Conference」がサンノゼ市のコンベンションセンターで開かれてApple周辺の開発者はかなり盛り上がった.筆者は残念ながら参加できなかったが,今年以降のMacのラインアップやPowerPCにまつわるプレゼンテーションなどがあったもようで,例によってSculleyが,いろいろとぶちあげたらしい。ここではコンファレンスで発表されたAppleの新製品に関してまとめておく.
★PowerBookの新モデル
 PowerBookは最近のAppleの新製品の中でもかなりのヒット商品だ,どれも全然問題がないわけではないが,それでもいままでノートブックタイプがなかったMacだけに売り上げにはかなり貢献している.成功作か失敗作かと言われれば,成功作であることは間違いない.そのPowerBookに今年の後半あたりに新モデルが追加されそうだ.
 新モデルでは,16階調バックライト付きの画面で,8ビットのカラー出力端子が付く.140および170の上位機種あるいはそれらの後継になる.カラー出力ポートの不在などは,そもそもPowerBook発表の時から指摘されていたもので、ここにきてようやくAppleからの前向きな回答が得られたかたちだ。
 また,PowerBookカラーバージョンも、やっと来年には発表されそうだ。ただしDOS系のマシンでは,すでに各社ともノート型に必ずカラーバージョンを取り揃えている.そもそもノートブックを出すのが遅かったとはいえ,カラーノートに関してはDOS系マシンに比べて2年ほど遅れている計算になる.

  ★CD-ROM Mac
 PowerBookのアップグレードとともに,中位モデルにCD-ROMを標準で搭載したMacも今年秋頃には発表される.CD-ROMは、何も標準で搭載しなくてもMacの場合インストールが難しいわけではなく(これは今年の初めに行なわれたMacWorldEXPOでも証明済みのはず)現状の外部ユニットでも十分に間に合っているのだが、この製品はMPCをターゲットにした戦略製品、つまりは政治商品の色彩が濃い。
 まあ,CD-ROMの標準搭載で見てくれが多少良くなり、価格的にも安ければ問題はないのだが,「CD-ROM攻勢をかける時期に来た」とはちょっと大げさかもしれない.

★Classic IIカラー
 今年の秋にはもうひとつ新モデルが出てくるかもしれない.Classic IIカラーがそれだ.16MHz030搭載で,1500ドル程度の価格になる予定.カラーは結構だが,Classic IIのようなコンパクトモデルにカラーを搭載してもあまり意味がないかもしれない.カラー出力さえできれば内部にカラーモニタを付けなくても結構だとの意見も多い.MacがTOWNSのようになってしまったらみもふたもない.
■PDA=Sculley
 先月号でも述べたように,5月29日にシカゴで開催されるコンシューマエレクトロニクスショーでAppleが現在開発中のPDAを発表する(製品の詳細はレポートを参照のこと).
 PDAは「Personal DegitalAssistant」あるいは「Intelligent Assistant」,または開発コードネームで「Newton」と呼ばれているもので,コンピュータというよりはむしろコンシューマ製品として開発が進められているものだ.
 ペンあるいは手で入力し,アドレス帳,スケジュール管理,ホワイトボード,メールなどのアプレット(アプリケーション)を標準で搭載。サードパーティなどで開発されるアプレットはメモリカード(PCMCIA)で供給されるなど,どちらかと言えばシャープのWizardあるいはその手の電子手帳に近い.ただし,筆者はアドレス帳やスケジュール管理など一般的な意味での電子手帳の機能にはあまり興味を持っていないが、メールやホワイトボードなど大げさに言えばそのネットワーク機能に特に注目している.うまくいくと、特に会社内でのコミュニケーションの革新になるかもしれないからだ.
 機能的な問題はとにかく,PDAはApple初のコンシューマ製品と言うことで、ここシリコンバレーでも大きな話題になっている.「Appleにコンシューマ製品をハンドリングできるはずはない」とか「今後Appleがさらに大きく躍進するためにはぜひとも必要だ」「いやあれはSculleyの道楽」などと早くも賛否両論が渦巻いている.
 この中でも議論の中心はやはり,Appleでこの手のコンシューマタイプの製品がハンドリングできるかという点.日本的な感覚からいくと,コンピュータメーカーがコンシューマっぽい製品を作っても何もおかしくはない.日本メーカーはほとんどがもともとコンシューマ企業でもあり,それほど違和感はない.
 ところが,米国では若干様子が異なってくる.いくらPDAにはコンピュータとしてのエッセンスが入っているとは言え,Appleはあくまでコンピュータ企業であって,そもそもコンシューマ製品を開発したり販売するようにはできていないからだ。
 コンシューマにはコンシューマ企業が存在する.米国の企業のセグメント化は,ほとんど不文律の感じがあり,多くは企業ポリシーの違いに起因する点も大きい.その業種の中で最高の効率と利益をあげることが企業の最終目的なのだ。そのために企業は各専門分野に分かれる.なにせ限られたリソースのなかで最大限の利益をあげなければ株主から何を言われるか分からないし,社長の首でさえ簡単に飛んでしまう.組織もまたそのような目的を達成するためにオーガナイズされているのが普通で、ほかに回す余裕はまずないと言ってよい。
 販売チャネルひとつとってみても、新規に市場を開拓するためには膨大な資金と時間が必要となる.失敗すれば「いい勉強になった」だけではすまされないものがある.米国で、いままで自分がテリトリーとしてきた業種以外に手をのばすことはかなりリスキーなことだと考えられているのはこのためで,PDAにしてもその点が懸念されているのだ.ある程度の成功では決して株主総会を乗り切ることはできないし、やるからには新規参入分野でも旧分野以上の成績を残さないと失敗とされる.
 もうひとつは,この製品が「Sculleyにとって初めての製品」であること.現在のAppleの主力商品であるMacはそもそもSteven Jobsの継承にすぎず,マーケティングでいかに成功しようとSculleyの製品ではない.このところSculleyは,そのほとんどの業務をSpindlerに渡して,自らはCTO(Chief Technical Officer)という肩書きでAppleの将来製品を指導してきた.この,PDAはSculleyが自ら指導してきた初めての製品であり、本人も「PDAにAppleの将来がかかっている」とかなりの熱の入れよう。その意味でSculley自身が世に問われる初めての製品である.ちょっと加熱気味のPDA論議は,Sculleyその人に対する論議であると言ってもよい。
 もちろん,Sculleyとしてもかなり慎重にことを運んでいる.日本のシャープと提携して製造を一手にまかせるのも,Appleではこの手のコンシューマ製品の製造のノウハウはないことをSculley自身が十分に認識しているからだ.また,今度の発表から実際の販売開始(来年1月とされている)まで約半年の期間を設けているのも,販売チャネルの開拓や製品のプロモーションに十分に時間をかけて行ないたいからだという.いずれにせよ,Appleは21世紀に向かって変貌しようとしている.PDAはその最初の製品となるはずだ.
(ザイロンコーポレーション代表 脇山弘敏)

 日本と米国の企業文化の違いには気が付かなかった。日本の企業は特化せずなんでも作っていた。米国ではそうではないのか。不思議なものだ。株主が強いからか。

AppleのNewtonの記事をスクラップする。
AppleComputerが個人向け情報機器「Newton」を公開
 米Apple Computer社は5月29日米国Illinois州Chicagoで開催された夏期のCES(Consumer Electronics Show)に合わせて同地でイベントを開催、個人向け情報機器「Newton」を公開した.「Newton」は,同社がPDA(Personal Digital Assistants)と呼ぶ新しい商品系統のひとつに位置付けられる.また,新たに組織されたApple P.I.E.(Personal Interactive Electronics)事業部の最初の製品でもある.
 「Newton Intelligence」と呼ばれるコアテクノロジーは,単なるツール(道具)としてではなく,インテリジェントなアシスタントとして機能することを目的としたもの.Capture(テキスト,グラフィックを取り込む能力),Organize(アドレスやスケジュールなどの関連情報を連携して取り扱う能力)Communication(ファクシミリやMacなどとデータをやり取りする能力)の3つを基本コンセプトにしている.
 今回公開されたのは「Newton Intelligence」を利用した最初の製品となる電子手帳型のモデル。細かいスペックは明らかにされていないが,大きさはバイブルサイズのシステム手帳をやや縦長にした程度.厚さは1インチに満たない.CPUはAdvanced RISC Machines社のRISCチップ「ARM 610」を採用し,メモリは標準で2Mbytesを搭載,最大20Mbytesまで拡張できる.省電力設計CPUの採用により,内蔵バッリで長時間のオペレーションが可能.また,ICカードも利用できるという.
 上蓋を上方に開いて背面にまわすと,前面に3×5インチのLCDパネルが現われる.操作はすべて,ペンによって行なわれる.画面の手前側には数個のアイコンが並び、基本的なサービスはそのアイコンをクリック(ペンタッチ)することでポップアップするアイコン群から呼び出せる.
 LCDのワークスペースへのテキスト入力は手書き認識で,枠や基準線などの入力フィールドを必要としない完全なフリーハンドでの入力が可能.入力した文字はその場で認識(清書)され,テキストに変換される.さらに書き手のクセを学習し,高い認識率を得ている.グラフィックも,フリーハンドによる入力をQuickDrawのObjectのようなものに変換し、それを自由に保存や加工できる.また,単なる絵柄だけではなく地図のような意味をなすものも扱える.
 メモやスケジューラなどの各種機能はコマンドによらず,入力された手書きの言葉からNewtonが自動的に判断し,適当な処理が行なえる.たとえば“FAX to Bob"と入力されたら,NewtonはアドレスブックからBobのファクシミリ番号を調べてフォームを作成し,送信までしてくれる.また“Lunch with Ann Friday"と書けば,Lunchが通常は正午に行なわれること,Fridayが多分今週の金曜日であることを推測し,スケジューラに登録してもよいか確認を求めてくる,といった具合だ。会場のデモでは,Newtonの開発に当たったマーケティング担当のMichel Tchao氏とソフトウェアエンジニアのSteve Capper氏が登場.ピザのドウにペパロニやピクルスなどをドラッグしてトッピングしたイメージをPizza Deliveryにファクシミリオーダーしてみせた。
 通信機能は有線・無線の両方に対応でき,Newton同士ばかりでなく通常の電子メールの受信も可能という.
  なお,Apple社はNewton Intelligenceの普及のために各社にライセンスを供与し、独自のNewtonマシンの開発を推奨していくという.国内ではシャープがライセンスを受けて自社製品の開発にNewtonを利用するほか,Apple社との提携下でNewton関連製品の開発と生産を行なう.
 出荷は英語版が'93年1月の予定。価格は未定だが,1000ドル前後になるという.日本では,シャープのブランドでローカライズ版がリリースされる.


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 「Advanced RISC Machines社」 ARMはこの頃既に携帯端末に採用されるCPUを製造していたのか。大きい会社になったものだ。素人には全く想像できなかった。
 それにしてもAppleはやっぱり凄い。記事を読むとiPhone並みにヒットしてもいいと思うのにどうしたもんだか。ヒットした記憶がない。持っている知人もいなかった。

「Miscellaneous」をスクラップする。
Miscellaneous:behind the news
■Computer BowlはカルトQの世界
 5月1日にBostonで開催された第4回Computer Bowlで,西軍が320対240のスコアで「Computer Masters of the Universe」のタイトルを勝ち取った.Computer Bowlのトロフィーは,西軍が主催する第5回の試合が行なわれる来年の4月まで西海岸に置かれる.
 さて,このお祭りだが,主催はおなじみ米国計算機学会(ACM)Boston Computer Museum,AppleとDEC援,各コンピュータ関連企業が協賛.選手はAdobeのWarnockをはじめとする大物10人で,審査員はMicrosoft社のBill Gatesである.
 対戦の結果,西軍のMVPはJeff Kalb氏,東軍はDavid Nelson博士となった(テレビでも放送されたようだ)問題を10問ばかり見てみよう.
(1)IBMはかつてModel5150という機種を販売していたが一般には何と呼ばれていたか?
(2)最初のマイクロコンピュータゲームEncounterが登場したのは1975年だが,販売メディアは,フロッピーディスク,カセットテープ,紙テープのうちどれか?
(3)Mattelの不運なホームコンピュータの名前は?
(4)「Pocket Calculator?」という曲をレコーディングしたのは,Beatles,Kraftwerk,Tod Rungrenのうち誰?
(5)1979年のWestCoast Computer Faireに登場した最初のAppleクローンの名前は?
(6)Steve Wozniakが学位を受けたのは以下のうちどこ?Stanford, Berkeley, Colorado
(7)かつてApple社は,AppleIIの基板上のICのソケット挿入を確実にするためにある行動をユーザーに求めたが,それは何だったか? (8)John McAffeeの本「Computer Viruses」では,最初にコンピュータウイルスに感染したコンピュータは何?Xerox 530,PDP-11,IBM 360
(9)最初のリアルタイムコンピュータは以下のうちどれか.Whirlwind, Univac418, DEC PDP-8, IBM 701
(10)Jean Louis-Gasseeは,Macの現在のFinderのもとになったソフトを開発中に何と呼んでいたか?Searcher, Flounder, Seeker
 Apple社に関連した問題が多いようだが,みなさんはいくつ解けただろうか(答えは最後に).

■Ross Perotとは
 コンピュータ業界の立て役者Ross Perot氏が,無所属で大統領選挙に出るというが,パソコンユーザーが強力な支持基盤になりそうだ.Prodigyが加入者3万人を対象として行なった世論調査では,テキサス州出身の彼がだんとつの得票数を集めた.
 Prodigyの加入者は「もし今日選挙が行なわれるとしたら誰に投票するか?」との問いに対して,36%がRoss Perotと答えたという.2位はGeorge Bushで28%,民主党のBill Clintonは10%だった.この後,ロス暴動の影響か,Bush支持者もPerot氏へ流れ,カリフォルニア州での支持率は他者を抜いて1位となり、その後の全国調査でもついに1位となった.
 Perot氏は,'30年生まれで,軍役後,157年からIBMでData Processingのセールスマンとして働いた後,1962年に妻の貯金1000ドルを元手にElectronic Data Systems社をDallasで設立して、見事に成長させた.'79年には,イランで人質になったEDSの社員を私設特殊部隊を指揮して救出に成功し小説や映画の主人公となる.
 '84年にGeneral Motorsに25億ドルでEDSを売却.その一部をGM株1140万株として受け取り同社の重役となる.しかし,GM経営陣の非効率さを批判したため,GM会長のRoger Smithにけむたがれ,'86年12月に追放.EDS会長の座も失ったが,'87年のForbs長者番付では資産29億ドルで3位の座を占める.'88年にPerot Systems社を起こし,データ処理会社として成功を収め、現在はPerot Groupの総裁である.
 こうして見ると,裸一貫から,コンピュータで成り上がった人だから,パソ通ユーザーに親しみが持たれるのも分かる.Silicon Valleyでは,早くから「Perot氏を大統領に」という記事が出ていたようで,副大統領候補としてSteven Jobsはどうかという話まである.Perot氏は1億ドル近い資金を投入する模様で,Bush氏が集めた選挙資金が1000万ドルというからこの後どんな派手なことが起こるか目が離せない。

■Appleは負けない
 先月報じたように,MSのWindows 2.03とHPのNewWaveがMacのGUIをコピーしたとするAppleの申し立ての大部分は却下されたが,Appleは55億ドルの損害賠償をあくまでも追及する構えだ.しかし,アナリストらはこの著作権裁判のなりゆきに疑問を持ち始めている.
 判事が裁判における争点を事実上狭めたことをApple側も認めたが,Apple側弁護人は「Macのインターフェイスは著作権として保護されるべきで,GUIの外見を総合的にコピーしているMSとHPがライセンスの範囲を越えている事実を証明したい」と語っている.
 以前から被告側は,'85年に交わされたライセンス契約でカバーされているので著作権の侵害はないと主張しているのだが,Apple側弁護人は「1985年に供与されたライセンスにかかわらず,Appleは自社製品の総合的な外見が保護されるべきだと確信しており,裁判所が陪審にその判定を委ねることを期待している」と語る.Appleは、今後の裁判では裁定の再考をも求めるつもりらしい。
 コンピュータ特許を扱っている弁護士は,この裁定が上告後も支持されれば,将来GUIの裁判が非常に厄介になると語る.「多くの人々が著作権保護の限界を見極めようとしてこの裁判に関心を寄せている」という.
 そんな中,米国議会のOffice of Technology Assessmentは,ソフトウェアの著作権保護問題に関して,詩や小説といった創作物と別に扱うべきかどうかを討議している.
 OTAはこの問題に2年ほど前から取り組んでいるが,いまだにこの2種類の作品をうまく扱う解決策を見いだせずにいる.今週,OTAは議会に対して,経済性もライフスパンもまったく異なる「ソフトウェア」と「文学作品」に同じ基準を当てはめようとして,裁判所が苦労していることを伝えた.著作権は作者の死後50年間維持されるが,コンピュータのソフトはそのはるか以前に時代遅れになってしまう。映画は50年経っても見続けられるが,ソフトウェアが利用されるのはほんの数年間だ.
 OTAは、プログラムを記述している言語で著作権を制限するか,ソフトウェアに著作権の概念を当てはめることをやめて別の法律を施行する提案もしている.

■デジタル文学賞
 Disktop Publishing Associationは,優秀な電子出版物の刊行を促進するため「Digital Quill賞」を発表した.
 対象となるのは,コンピュータで読めるデジタルのテキストで,コンピュータで作成されたもの.ASCIIコードのプレーンなテキストから,マシンに依存するような複雑なハイパーテキストの出版物にいたるまでが賞の対象になっている.
 標準的な刊行物(フィクション,ノンフィクションの雑誌やニュースレターなど)やオリジナルフィクション(最低5万語以上のもの)ノンフィクション(3万5000語以上)短編物(1000語以上),ノンフィクション記事(1500語以上),そしてソフトなども対象に含まれている。
 それぞれの分野から上位3位までを選考する.提出はディスクかモデム経由で,6月30日まで受け付けている.

■ソフトウェアトランスレータとは
 噂によると,AppleはAT&TのBell研究所が開発した,「任意のコンピュータ機種のソフトウェアを他機種でも使用できるように翻訳する技術」を取り入れる予定という.Bell研との話し合いを行なったAppleの役員は,さまざまな調査を行なった中でもこの技術には非常に印象付けられたと語っている.
 この技術は「FlashPort」と呼ばれるものだが,昨年結ばれたIBMとの提携によって開発中のPowerPCチップを搭載した次世代パソコンのため,AppleはソフトメーカーにMac用に書かれたソフトを新型マシンで動作するように翻訳してもらうため使用するつもりらしい。
 FlashPortは最近AT&TからスピンオフしたEcho Logicと呼ばれる会社が提供しており,AppleはPowerPC発表時には100タイトル程度のソフトが手に入るようにしたいのだという。
 Appleによれば,PowerPC用に翻訳されたソフトは,少なくともMac同様の機能を実現するが,拡張機能は利用できない.もちろんこれらの拡張機能を使用するためには,PowerPCマシン専用のプログラムを書かなければならない.Mac用ソフトをそのまま走らせる方法も開発中だというが,Macをエミュレートする方法では翻訳処理を受けたソフトよりも実行速度が遅くなるのは否めない。結局GUIが同じだけの違うマシンということか.
 さて,Computer Bowlの答えは以下のとおり。(1)1981年に発表されたIBM PC. (2)紙テープ (3)Intellivision (4)Kraftwerk, (5)Orange, (6)Berkeley, (7)コンピュータを30センチの高さから平面上に落とす, (8)Xerox 530, (9)Whirlwind,(10)Flounder(「もがくあがく」または「ひらめ」の意味).


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 昔あったカルトクイズという分野懐かしい。もちろん私は全く歯が立たなかった。

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パソコン、その他ハード、ソフト等(月刊ASCII 1992年7月号2) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

ASCII EXPRESS をスクラップする。

アークブレインがi486(50MHz)搭載のPC互換機を発売
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486-50LJの価格は72万8000円

富士通がTFTカラー液晶搭載のノート型などを発売
ASCII1992(07)b04富士通がTFTカラー液晶搭載のノート型マシンなどを発売_W520.jpg
FMR-60HE2の価格は40万5000円

東芝が「SPARC LT」
ASCII1992(07)b05東芝が「SPARC LT」の新機種を発売_W520.jpg
AS1000/E25の価格は138万円

日電が「R4000」搭載のWSなどを発売
ASCII1992(07)b05日電が「R4000」搭載のWSなどを発売.jpg
価格は460万円から

日本サンがSuperSPARCチップ搭載のWSを発売
ASCII1992(07)b05日本サンがSuperSPARCチップ搭載のWSを発売_W520.jpg
Model 30の価格は439万円

ソニー,ラップトップWSを発表
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パーソナルメディア,BTRONの新モデルを発売
ASCII1992(07)b08パーソナルメディア,BTRONの新モデルを発売_W512.jpg
標準モデルの価格は48万8000円
まだTRONコンピュータは死んでいない。

NCRが汎用の超並列処理コンピュータを発売
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価格はパラレル・オラクルが4億円

シャープ,X68000用5インチFDDを発売
ASCII1992(07)b06シャープ,X68000用5インチFDDを発売_W515.jpg
価格は9万9800円

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ASCII1992(07)b06ティアック,Mac用MOドライブ_W514.jpg
価格は12万8000円

ランドコンピュータ,データ共有型HDなどを発売
ASCII1992(07)b06ランドコンピュータ,データ共有型HDD_W519.jpg

光通信,MOドライブを発売
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メルコ,PC-9801FS/FX対応の内部増設RAMボードを発売
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メルコ,PC-9800対応のフラッシュメモリカードを発売
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結局1-2-3はDOSソフトから脱却できなかった。

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