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宇宙の旅第8話銀河テレビ衝突(月刊ASCII 1991年9月号8) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

「パソコンで体験する天文学 宇宙の旅」の第4回、第8話銀河テレビ衝突をスクラップする。

銀河テレビ衝突
京都市立芸術大学 助教授
藤原 隆男


銀河系の運命は?
 松本零士の「1000年女王」という物語をご存じだろうか?周期1000年の楕円軌道を持つ第10惑星「ラーメタル」が,1999年に地球に接近し、地球はラーメタルの潮汐力で壊滅的な被害を受ける。やがて1000年女王が地球に送り込まれて…….というものだ。10年ほど前にアニメーション化されているが,そのラストシーンが印象的だった。大きな銀河が銀河系の目の前まで近づき,いまにも衝突しようとしているのだ。至近距離から見る銀河の美しさとともに,その設定の現実性にはハッとさせられたものだ。
 なにを隠そう,わが銀河系には実際に,この映画のラストシーンと同じような運命が待ち受けている。1000年女王のストーリーのように、1999年というわけではないのだが……。

銀河の衝突
奇妙な銀河

 銀河は,直径10万光年程度の大きさで,1000億個ほどの星と,大量のガスが詰まったものである.こんなに星の数が多いとぶつからないかと心配にもなるが,星々の大きさが十分小さいため,星同士が衝突することはめったにない(注7).

注7 銀河の中の星の密度は、円盤の平面に集中しており,また中心にいくほど高く、周縁部では低い。銀河系の太陽付近の星の平均密度は,1辺が1パーセク(3.262光年=30兆8567億7600万km)の立方空間に約0.13個となる.これでは、1つの恒星をパチンコ玉にたとえてみても、おおよそ2000~3000kmは離れている計算になる.

 それでは,銀河と銀河の場合はどうだろう。銀河の多くは集団を作っている.集団のサイズは1000万光年程度,その中の銀河の個数は多いもので数千個といったところだ。
 個数の多い集団は銀河団,100個以下の貧弱なものは銀河群とよばれる.単純に数字だけを見れば,銀河団では,直径1000万光年の球状の空間に,直径10万光年の銀河が100個も詰まっていることになる。実際には,こんなに詰まっていることはないが,この密度では,ぶつからないほうがおかしい。銀河集団の中では,銀河同士が衝突したり,異常接近したりという事件が頻繁に起こっているのだ。
 銀河の衝突を証明するのは,銀河団の中にある,ゆがんだ銀河や,尻尾が生えたような奇妙な形をした銀河の存在である。これらは,銀河同士が接近遭遇,あるいは衝突した結果だと考えられてる.また、実際に衝突している最中の銀河も数多く見つかっている(写真2).


ASCII1991(10)f05宇宙写真2_W457.jpg
潮汐作用
 銀河が遭遇すると何が起こるか考えてみよう.図3は,天体Aがもう一方の天体Bから受ける力を表わしたものだ。これは、地球が月から受けている力と同じで,地球では潮の満ち引きを起こすため「潮汐力」とよばれる.
 2つの銀河が遭遇すると,接近している間は,互いに相手の銀河から潮汐力を受けることになる(注8).
 ところで,円盤銀河の中の星々も銀河の中心のまわりを回っている。この回転方向と,遭遇する銀河の位置がくせものである.遭遇のときに銀河が受ける影響は,銀河の回転方向によって違ってくるのだ。
 いちばん影響が大きいのは,相手の銀河が回転と同じ向きに通過していく場合だ(図4)。このとき,銀河の中の星々は,相手の銀河が通過しきるまで潮汐力を受け続けることになり,星が銀河を回る軌道は大きく乱されてしまう。各々の星の秩序だった運動が崩れるため,結果として,銀河は変形してしまう.

ASCII1991(10)f05宇宙図3-4_W520.jpg
注8 潮汐力の大きさは相手の質量に比例し,天体間の距離の3乗に反比例する.銀河が遭遇するときは,軽い銀河のほうがより大きな潮汐力を受ける.また,潮汐力は相手が遠ざかると急に弱くなる.

 逆に、相手の銀河の通過方向が銀河回転と反対のときは,星から見れば相手の銀河がさっと通り過ぎることになるので,星の軌道の乱れが小さく,銀河もあまり変形しない.
 変形した銀河が,なぜ,そのような形になってしまったのかは,数値実験によって詳しく調べることが可能だ。相手の銀河の質量や,通過する位置,方向,速度をいろいろ変えることによって,計算結果が,実際の変形銀河の形になるように、何度も計算を繰り返せばいい.
 さらに,銀河同士が遭遇することの影響は,変形だけではない。銀河の中にあるガス雲の運動も大きく乱されるので,ガス雲同士があちこちでぶつかり,そのとき星が一気にどっと生まれることになる.一般に,変形している銀河は明るくて色が青いという傾向があるが,これは生まれたての若い星が多く含まれるためである(注9).


注9 重い量は,青白い色で明るく輝き寿命は短い(数千万年).一方,軽い星は,赤っぽい色で暗く長命だ。星が一度にたくさん生まれると、重い量が多く生まれるという.銀河も,しばらくは全体に明るく青く見えるが,重い星は銀河を1周することなく燃え尽きるため,銀河もすぐに暗くなってしまう.

 なお,複数の銀河が正面衝突したとしても,その中の星同士は,スルリと通り抜けてしまう.衝突する星はごくまれで,よほど運が悪かったというべきだろう.

衝突する銀河 NASA」で検索すると沢山の写真を見ることができる。

力学的摩擦
 ときには,銀河の遭遇が,その銀河に決定的な影響を与えることもある。それは「銀河の合併」である.
 そのプロセスは摩擦力によって説明できる。銀河の遭遇では,相手の銀河を変形させるが,その相手の変形が自分の銀河全体の運動にブレーキをかけることになってしまう。この効果は、ふつうの摩擦作用に似ているので力学的摩擦ともいう.単純に遭遇によって相手の銀河の内部運動(つまり星の運動)を乱し,エネルギーを与えるので,その分こちらの銀河の運動エネルギーが吸いとられると理解してもらってもいい。
 さて,銀河がすれ違ったときに摩擦が働くとどうなるか?ブレーキが効きすぎた場合には,銀河同士が離れられなくなって,あたかも連星のように,互いに相手のまわりを運動するようになる.
 回転して互いに影響を与えながらも、摩擦は働き続け,軌道運動のエネルギーはどんどん減ってしまう。そして、ついには銀河がひとつに合併してしまうことになる.
 密集した銀河団の中心には,巨大な楕円銀河が鎮座していることが多いこれは,中心部で銀河の合併が進んだ結果と考えられている.このように,銀河が合併によってどんどん太ることを「銀河の共食い現象」と呼んでいる.
 南半球へ行くと見える「マゼラン星雲」冒険航海で有名なマゼランが,世界一周のあと,ヨーロッパにその存在を伝えたので彼の名前がついている(もっとも,マゼランは生きて帰れなかったので伝えたのは部下である)。実は,このマゼラン星雲も銀河系に捕まってしまった子分なのである。
 大小2つのマゼラン星雲は,銀河系のまわりを数億年の周期で,楕円軌道を描きながら回っている.そして,銀河系からの摩擦を受け続けている.数値実験によれば,マゼラン雲の軌道はしだいに小さくなり、約20億年後にはバラバラに壊れ,銀河系に合併吸収される運命になる.


 観測技術の進歩によりマゼラン雲の挙動について定説が変わっていった。
最初は天の川銀河の内部にあるのか外にあるのかで議論があった。
ハーバード大学天文台で写真乾板から変光星を探していたヘンリエッタ・スワン・リービットが沢山の変光星を見つけ変光星のリストを作った。ケフェイド変光星が「変光周期が長い星ほど絶対等級が明るいという性質」があるため変光星の距離が求められる。マゼラン雲のケフェイド変光星が皆同じ明るさであるので同じ位置にあり、その距離は天の川銀河の外にあることが分かった。
 その後ハッブルがマゼラン雲は天の川銀河の周りを回ると衛星銀河だとしたことが定説となっていた。

「星好きの三大願望」-マゼラン雲は偶然通りかった銀河
以下引用
「ローランド・バンダーマレルらのグループが,ハッブル宇宙望遠鏡を用いて4年間にわたってマゼラン雲内の25か所の場所の移動速度を測定すると,その移動速度が秒速480キロメートルと算出されたのです。この速度は,あらかじめ行れていた推算値よりも数割以上も大きいもので,両銀河が天の川銀河に重力的に束縛されていない可能性を示唆しているのです。
 そこで,マゼラン雲というのはハッブル以来の定説であった「天の川銀河をまわる伴銀河」ではなく別の銀河であって,どこかから天の川銀河の近くにやってきた銀河が,今たまたま近くにあるというだけで,やがて数十億年後には天の川銀河の引力を振り切ってかなたに去ってゆき,その後 天の川銀河とマゼラン雲は再び出会うことは無いのだ,と理解されるようになりつつあるのです。」

天の川銀河の周りを回ってくれないのかと残念に思った。
と思っていたらなんと20億年後に天の川銀河と衝突するという説が発表された。
銀河系と大マゼラン雲、20億年後に「大衝突」 英研究

今後も観測精度の向上からまた違う説が登場するかもしれない。
銀河系の将来
 マゼラン星雲以外にも,銀河系に接近中の大きな銀河がある。相手の正体は,秋の夜空に肉眼でも見えるアンドロメダ座の大星雲「M31」だ(写真3).M31は,銀河系との距離220万光年,大きな渦巻き銀河で,質量は銀河系よりも大きい。かつて,銀河系とM31は宇宙の膨張に乗って離れていった.しかし,お互いの重力で引き合った結果、現在は秒速100kmほどの速度で近づいている(注10).

注10 宇宙は百数十億年前に始まり、現在も膨張を続けている。宇宙にある銀河は,宇宙膨張に乗って互いの間隔が開きつつあるが,局所的には、互いの重力で引き合って銀河集団を形作る場合もある。銀河系も,M31やマゼラン星雲など,いくつかの小銀河とともに小さな銀河群の一員である.

 重力によって加速されることを考慮して計算すると,最接近は約30億年後となる。そのころ,地球からは見事な渦巻き銀河が見えるはずだ。遠い将来、人類がまだいるのか定かではないが,激しい変形を受けて,太陽系が銀河系から放り出されることのないよう,祈りたい.


アンドロメダ銀河
は美しい。
それに比べ天の川銀河の想像図は2本腕の棒状渦巻銀河で思ったほど美しくない。
アンドロメダ銀河が天の川銀河と衝突するらしい。
アンドロメダ銀河と天の川銀河が衝突…40億年後の夜空はこう見える

まったくどうなることやら。どの説が正解なのか。

プログラムの実行
 ここで紹介するのは,銀河衝突のシミュレーションプログラムである.渦状腕の場合と同様に,テスト粒子法を用いることにしよう。この方法では,変形による銀河の重力パターンの変化(力学的摩擦の効果)を無視している.
 プログラムには2つのメニューがある.(1)銀河の遭遇と,(2)リング銀河の形成だ。
 まず,(1)を選ぶと,ぶつける銀河(摂動銀河)の位置をカーソルキーを使って決めることになる。つぎに摂動銀河の質量を入力する(画面4a).質量は,ぶつけられる銀河(主銀河)を1として答えてほしい。さらに,摂動銀河と主銀河の回転方向を,それぞれR(右まわり)/L(左まわり)のどちらかに決めよう。摂動銀河と主銀河の星は色で区別している.また,計算を簡単にするため,銀河の回転面も銀河の軌道も同じ平面上にあるとしている。さて,銀河テレビ(ディスプレイ?)衝突の始まりだ(画面4b~d).質量や通過位置によって,尻尾(テール)が出たり,銀河をつなぐ橋(ブリッジ)のようなものが見えたりする。また質量が小さいと,潮汐作用で引き延ばされバラバラになることもある。試してもらいたい。


ASCII1991(10)f06宇宙画面4_W377.jpg
 (2)はリング銀河ができるシミュレーションである.摂動銀河の位置と質量,視点の位置(真上/斜め/真横)を指定すると計算が始まる(画面5a~c).ここでは,摂動銀河のまわりの星を表示しないことにする.リング銀河は,摂動銀河が主銀河の中心近くを,回転面とほぼ垂直な方向に通過するときにできる.形が車輪に似ていることから「車輪銀河」とも呼ばれ、実際に,きれいなリング状の銀河がいくつか発見されている.
 (1)と(2)のどちらの場合も,画面に時間が表示されるが,これは計算で使っている時間で,時間1は,実際に1000~2000万年を表わしている。銀河の回転面の関係,銀河の位置関係,銀河をぶつけるときの向き/速度など。銀河の遭遇実験ではパラメータは盛りだくさんだ。プログラム中のパラメータを変えて,奇妙な銀河を作ってみるのもいいだろう.


ASCII1991(10)f07宇宙画面5_W390.jpg

今ではこういったシミュレーションは超高精度でできるようになった。星の数が数百万以上でシミュレーションする。

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