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未来コンピュータその4(月刊ASCII 1992年7月号10) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

「未来コンピュータ」の坂村健と西和彦の対談をスクラップする。
月刊アスキー創刊15周年記念スペシャル・トーク
坂村健&西和彦
未来が見えるチャンネルにチューニングせよ

 IBM PCやPC-9801,Macintoshといった16bitのパーソナルコンピュータが登場したのが約10年前。その結果として1992年現在の基礎的なコンピューティング環境というものがあると考えていいだろう。発生してからある程度成熟するまでの時間を10年と考えれば、今後10年間でパーソナルコンピュータとその周辺の環境は大きく変わることが予想される。そのあたりを、東京大学助教授の坂村健氏と,アスキ一社長の西和彦氏に話し合ってもらった。
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西和彦
株式会社アスキー社長。1977年にアスキーを設立して雑誌「月刊アスキー」を創刊。最近はCPU設計会社のVMT社をはじめ、社長を兼任するGCT社とIBMが共同開発したPS/55を使ったテレビ電話システムを発表するなど,マルチメディア事業に力を注ぐ.
坂村健
東京大学理学部情報科学科助教授.CPU,キーボード,OSを包括する独自のオープンアーキテクチャ「TRON」を提唱する“電脳建築家”.著書に「電脳都市」「TRONからの発想」(共に岩波書店刊)などがある.


デジタルAVの入ったWS,PCが登場する
坂村 コンピュータをEDPマシン*1として捉える見方と,家電として捉える見方と2つあって,それによって違ってくると思うんです。でも中身はほとんど同じものなんですけどね。
西 そうですね。
坂村 EDPマシンとして見た場合のコンピュータはそう簡単に変わらないと思う.
*1: Electrical Data Processingの略。いわゆる科学技術計算やオフィスでの金銭計算などをするコンピュータ.
 なぜかというと,UNIXだって普及するのに20年かかってるんですよ。独自技術でやろうとすると,すごく時間がかかる。米国の某社みたいに独自技術にこだわりすぎて,ついに最後まで立ち上がらなかったという例もあるくらいですからね。家電の場合はもっとサイクルが速いから,10年でドラマチックに変わるだろうなという気はしますね。でも、未来のパソコンはテレビだとか,家電だとか言われてますが,いまある情報機器を見てると,難しいですよ。10年で本当に普通の人が使えるものが出てくるのかなと思いますね。西さん,どうお考えですか.
西 10年後というと2002年でしょ.だいたい5年ごとにエポックメイキングな新製品が出てきてるんです.今から15年前に8ビットのパソコンが出たでしょ。10年前にIBM PCが出て,5年前にMacintoshが本格普及して,Sunが出ました。5年ごとに変わるわけです。だから'95年から'97年に何が出るのかということですね。そして2002年は何かという話になります。コンピュータにはいろんなものが入ってくるけれども,いちばんコンピュータの見てくれを変えるのは,音声と画像のデジタル化だと思うんです.デジタル・オーディオとデジタルビデオがパソコンにどうやって入ってくるかという問題.だから,2002年ごろには,デジタル・オーディオとデジタル・ビデオがたっぷり入ったワークステーションが出てくる.で,それが結局パソコンになると思う.形がどうなるかは別にしてね。
坂村 そのとおりだと思うんですが,過程が少し違うんじゃないかと思う。つまりワークステーションからパソコンへというふうに進むと西さんはおっしゃったけど,ぼくはね、意外とワークステーションは盛り上がらないと思う.
西 ワークステーションというのはね,UNIXのコンピュータにディスプレイというお面を被ってるわけですね。そのお面がはずれて,ワークステーションはサーバーになっちゃうと思う.Windowsからワークステーションにアクセスし始めたら,ワークステーションがディスプレイを持つのは意味がなくなるから.すべてのWindowsがX夕ーミナルになればいいわけでしょ?ワークステーションはフロントエンドとバックエンドに2分化すると思う.
坂村 それはそうだと思うけど,ただワークステーションのユーザーはコンパイラが動いてシステム開発ができればいいという人もけっこういるんです.XターミナルなんかでもCしかやんないとか,emacsとかせいぜいTeXぐらいにしか使わないとか,X Windowもいらないという極端な人もいるんですね。そういう意味で,高度なグラフィックとかデジタルオーディオとかはホームユースというかプロフェッショナルじゃないエンドユーザーのほうが要求が厳しいと思う。だから,いままではワークステーションからパソコンに降りてきたけど,今後はそういう過程が飛 んじゃうような気がする.


デジタル・ビデオディスク=CD-ROMの付いたパソコン
西 家庭用パソコンに関して言うと,CD-ROMが付いたパソコンは,デジタル・ビデオディスクとも言えるわけですね,ソフトに絵が入っていれば.FM TOWNSのことをデジタルビデオディスクプレーヤとも言えるわけです.言い換えるなら,インタラクティブ・デジタル・ビデオディスク・プレーヤでもいいわけです.ラジオの放送があって,ラジカセができて,ウォークマンができて,CDが出ました。テレビ放送があって,ビデオデッキが普及して,ビデオソフトのマーケットができて,次はデジタル・ビデオディスクじゃないかと思う.デジタル・ビデオディスクというのは何かと言ったら,光ディスクの付いたパソコンだと思う。それが'95年あたりからにわかに本格化すると思います.CD-Iに関しては,インタラクティブ機能はあくまで付加価値であって,標準的にはデジタル・ディスク・プレーヤになると思う.
編集部 ソースは何ですか?
西 映画。2時間半の映画が入るデジタル・ビデオディスク.
坂村 なんでワークステーションがダメだと言ったかというとね、ワークステーションは必ずネットワーク環境で使いますよね。デジタルのネットワークはね,重いんです.画像圧縮の技術にかかってるんですが,日本全国を動画像が行き交うようなインフラを作るのは5年じゃ無理かもしれない。
西 20年?
坂村 うーん……そう,20年は最低かかりますよね。ネットワークは重要だけど,必須じゃない。そういう意味で,スタンドアロンのデジタル・ビデオディスクのような形で家庭に入ってくるのが先だと思う.


パーソナライズド・テレビジョンのコンセプト
編集部 ホーム・コンピューティングに話を戻すと,たとえばBSチューナー付きのビデオとかのリモコンというのは,ボタンが40個以上あるんです.パソコン顔負けなんですね。そこで,先ほどからテレビがプラットフォームになるみたいな話も出てますが,もっと家庭のコンピュータについて話していただけますか。
西 AV機器についてはソニーとか松下が考えることなんでしょうけど,いまBSのチャンネルがWOWOWとNHKの1と2,ハイビジョンのテスト放送で4チャンネル,それとCS*2が6チャンネルでしょ,それで10チャンネル.次の衛星が上がるとさらに4チャンネル増えて,14チャンネルになるわけね。
*2:通信衛星を使った放送サービス.
地上放送のチャンネルが6個あるから全部で20になって,UHFが4局ある.するとね,計24チャンネルになるけれども,それをホントに選ぶのかっていう気がするんです.テレビに必要なのは,多チャンネル化ではなくて,1チャンネルでいいんですよ.
坂村 そうかしら?
西 でもその1チャンネルはね,自分が見たいものが出てくる自分だけのチャンネルがほしいわけ.ぼくは,それをパーソナライズド・テレビジョンと呼びたい。パソコンみたいなもんですよ.on demand(要求に応じて,要求があり次第)というか,ネットワークを通してデータベースから探してくるんじゃなくて,24チャンネルの中から自分のほしいチャンネルを選んで切り替えてくれるテレビのコントローラーじゃないかと思う.テレビガイドみたいなテレビ情報誌に載ってる情報を文字多重放送で流して,コンピュータが自分の好みを知っててチャンネルを切り替えてくれる的なもの。放送をインテリジェンスで選択するというものです。
坂村 いま西さんが言ったようなことは,やろうと思えば今の技術でもできるんだよね。
西 できる.
坂村 いまの話を聞いてて思ったんだけど,やろうと思えばできるという類のことっていっぱいあるんだよね。
西 やってないだけ.
坂村 そう.だから,そういうアイデアはずいぶん前からあるのに、どうしてやってないのっていうことを今後の10年かけて片端からつぶしていくべきなのかもしれない。
西 いままでの総点検というか….
坂村 やればもっと面白くなるというようなことは,いっぱいあるんですよね。でも実際にやるとなると,電波法だとか難しい問題が出てくるんだな。たとえばプロ野球中継が延びたせいで留守番録画がうまくいかなかったなんていうことね。あんなのは,テレビ局が多重放送を使ってちょっと信号を送ってくれれば簡単に解決できることですよね。なのに、やらない。法律と標準化の問題があるんですね。その辺,西さんどうです?
西 それは時間の問題だと思います。標準とか国の方針とかを決める人たちが,どんどん若い世代に移行してきてますから.ぼくらと同世代の人たちがいずれ課長補佐になって,政策立案をするようになるんですが,彼らは通産省でも郵政省でもものすごいクリエイティブなんです.
坂村 じゃあ、わりと未来は明るいと考えてるわけだ。
西 ぼくらの世代が第一線に立つころには,政府のポリシーというのは驚くべき変革をとげて,ものすごく前向きになると思う.
坂村 そうなるといいねぇ.
西 それはね,実際につきあってて感じますね。彼らはものすごく優秀でアグレッシブですよ.


インタラクティブ・テレビジョンによるコミュニケーション
編集部 デジタルビデオディスクなどの家電的なスタイルのものが出てくる一方で,いまあるパーソナルコンピュータの延長みたいなものもありうると思うんです。それはどうなんでしょうか.
西 それはね,インタラクティブ・テレビジョンというのが出てくると思うんですね。インタラクティブ・テレビジョンの前段階として,テレビ電話があると思う.テレビ電話が普及して,テレビに対して話をするとか,キーボードから打ち込むとかいうことに慣れてきたときに,話す対象がコンピュータになると思う.インタラクティブ・テレビジョンというのは,パソコン通信です。でもそれはドキュメント+音+映像のパソコン通信なんです.
坂村 そうなってきますね。ぼくが第1ステップとしてやってほしいのは,電話が全部ISDNになったときに公衆電話にテレビカメラをつけて,たとえば今から六本木に行こうっていったときに,六本木の公衆電話に電話するわけ.すると六本木の街角が見えるとかね…….
西 たとえば,富士山の頂上に電話して…….
坂村 そうそう,オホーツクの流氷が見たいとかね。
西 だからね,さっき言ったけど,パーソナライズド・テレビジョンは1チャンネルしかいらないと.
坂村 うん.
西 2番目。2チャンネル目はね,自分が見たい場所の景色が見られるチャンネル,でね,テレビは2チャンネルあったらいいと.
坂村 1チャンネル増えたね(笑)。
西 1チャンネル目のテレビのことをもう少し詳しく言い直すと,過去のいかなる映像も見られるチャンネル.過去のあらゆるテレビ番組,あらゆるビデオが見られるチャンネル。2チャンネル目は,現在のあらゆる場所の風景が見られるチャンネル。つまりテレビ電話。もし3チャンネル目があるとすれば,未来が見られるチャンネル(笑)ディスプレイは水晶玉みたいな形になってると(笑).
坂村 わはははは.
編集部 そうなると,やっぱりデジタルの高速通信が必要になるんじゃないですか.
西 インタラクティブ・テレビジョンに関してはそうだね.
坂村 ISDNがくまなく張り巡らされないと.
編集部 やはり20年.
坂村 そうですね,10年じゃ無理でしょ.
西 パーソナライズド・テレビジョンが10年,インタラクティブ・テレビジョンは20年.もうちょっとかかるかもしれない。でもね,ぼくらが生きているうちには実現するでしょうね。
坂村 そりゃそうですよ.


思考やクリエイティブな行為をサポートするコンピュータはどうなる
編集部 坂村さんもおっしゃってると思うんですが,もっとこう知的なことというか,創造的な行為というか,そういうものをサポートする機械としてはどうですか.
坂村 思考を助けたりすることですね。それはね,AIとは違うんですよね。人間に取って代わるということではなくて、電卓の代わりというか,アイデアプロセッサをもっと使いやすくしたようなものが出てくると思いますよ.
編集部 そういうものは家庭には入ってこないでしょうか.
坂村 そういうシンキング・エイドみたいなものが家庭に入ってくるとしても,いまのパソコンの延長ではないね。MS-DOSとかMS-Windowsの延長では,そういうものは考えにくい。ポイントは結局マン・マシン・インターフェイスが悪すぎるということ.よく使われてるワープロなんかでも,結局清書機械になってるでしょ。そうじゃないものを考えないと…….
西 そう.電子レポート用紙になってる.
編集部 10年後でも,やっぱり人は書くことによってものを考えるということをやってるんでしょうか.
坂村 それはいろんな選択ができるんじゃないですか.
西 あのね、ノートの取り方を見てると,人間って2種類あるね。言葉でノート取る人と,グラフィックでノート取る人と2通りある。まったく別の人種ですね。だいたいエンジニアリング系はグラフィックですね。で、文科系の人は間違いなく言葉で取ってる。発想のトレーニングの仕方が違うんじゃないかな.
坂村 だから,選択できるって言ったのは,キーボード打ちたい人はそうすればいいし,電子ペンみたいなの使いたければそうすればいいし,どちらでもチョイスできるのが10年後じゃないかな.
西 いまのペン・コンピュータのペンはね,マウスの代わりのペンだと思う。ペン・コンピュータも必ず技術的に成熟すると思うけれども,すごく時間かかると思う.いまのところ,ぼくはアンチ・ペン・コンピュータ派なんです.ペン・コンピュータをたっぷり研究した結論なんですが,コンピュータが分かってくれるような文字を書くのはまっぴら御免だっていうんです.
坂村 (笑)
西 ペン・コンピュータを使ってるとね,人間どうなるかというと,コンピュータが分かるような文字を書き始めるんですよ。人がものを考えてるときは,まぁ何GIPSか知らないけれども,そのGIPSのうちの5%でも10%でも字を書くために使いたくないわけ.
坂村 分かります.
西 思考のスピードが落ちますよ。だからペン・コンピュータで文章を書くのは、ものすごい苦痛ですよ.
坂村 でも,それは人によるんじゃないかな(笑)。
西 ペンコンピュータを,メモ帳みたいなイメージで考えるならいけるでしょう.無線LANかなんか付けてさ,メッセージがピッと入ってくるとかね,そういうコミュニケーション・マシンとしては十分ありえると思う。編集部来週,AppleがPDA(Personal Digital Assistance)を発表するという噂がありますが,注目したいですね。


知的営為をアシストするもの
編集部 ぼくらも,最近あんまり頭の中だけで考えなくなって,ディスプレイ上で考えるというか,エディタの中で考えるという感じになってきてるんですが,IBM PCとかが登場して10年かけてワード・プロセッシングなどもこなれてきたわけです。あと10年で,もう一段階進むんじゃないかと思うんですが…….
坂村 まず10年たつと,キーボードに対してアレルギーのある人はいなくなるでしょうね。いまは過渡期だからね。いま本格的に文字認識をやろうとすると,すごく高いものについちゃうけど,10年たてば選択可能になると思うよ.アナログ的な思考する人もいれば,デジタル的な思考をする人もいるからね.
西 音声だと思う。音声認識ね。ぼくはね,
坂村 でもね、一日中しゃべってると疲れるよ(笑)ぼくは黙って仕事したいなぁ(笑)。
西 だからね、テキスト入力はキーボードで,編集は音声でやるんですよ。そこ右とか(笑),下とか,改行とかカットとか言ってね。音声認識でクイックアクションさせたら,すごい便利ですよ。
坂村 便利なときもあるかもしれないですね。
西 音声はね,次の時代にすごく明るいと思う.人間は光よりも音声の認識のほうが0.0何秒くらい速いんですよ。クルマのCD-ROMを使ったナビゲーション・システムってあるでしょ。あれは音声でやるべきだね。「そこ右」とか(笑)。「どこ?」って聞いたら,「ここは246の三軒茶屋」とか声で答えるようになるべきですよ。
坂村 たしかにクルマの場合はそのほうがいいね。
西 あんなグラフィックの地図つくるより,声で言ってくれるほうがずっといい。ヒューマン・マシン・インターフェイスの研究を,もっと身を入れてやるべきですよね。
編集部 秘書に向かって言うような感じでコンピュータに指示できればいいですね。これ何とかしといて,とかね.
西 何とかは無理かもしれないけど,ファイルの「オープン」とか,「クローズ」とか、「メニュー」って言ったらメニューが出るとか、「ダメ」って言うとアンドゥになるとかね。
坂村 何でも音声認識にするわけにもいかないだろうけど…….
編集部 雑談はキーボードでやるとか(笑).
西 週に1,2回テレビ会議をアメリカと日本の間でやるんですが,テレビ会議に出てる者どうしがコードレス電話でヒソヒソ話をするんですね(笑)。向こうに3人いて,こちらに3人,そのうちの2人が電話でヒソヒソ(笑)。というのが最近のテレビ会議です,うちのね(笑).
編集部 企業内BBSみたいなもので,会社の経費を大幅に節約したとかいうケースもあるみたいですが,ああいうシステムについては…….
西 企業内BBSというのが,どういう切り口で流行るかというと,日本の大部屋制だと非常に効率が悪いんですよね。人に邪魔されなかったり,電話がかかってこなかったら,仕事の能率ってものすごく上がるんです.
坂村 そうですね。
西 オンラインのノン・リアルタイムのコミュニケーションが流行ると思う.
編集部 時間の節約にもなるので,潜在的なニーズは相当ありそうですね。
西 オンライン,リアルタイムは犠牲が大きいですよ。ぼくもね,暇なときは日曜日でも電話に出ますが,ホントに休みたい日曜日には,電話出ないもんね。人間にとって一番大切なことは、自分の自由な時間だと思う.
坂村 いま西さんの言ったことは,要するに電子メールだね。
西 それもマルチメディアの電子メールね。
坂村 オンラインでやると,くたびれますもんね。
西 ほとんどの仕事はオフラインで片付くんですよ。効率上がりますよ。
編集部 ボイスメールとか…….
西 そう,ボイスもテキストもビデオも全部。だから,メールが来るでしょ,そのメールにポストイットみたいな感じで音声とかビデオとかが付いてるわけ.音声オブジェクトとか、ビデオ・オブジェクトみたいな形で付いてて、それをクリックしたら再生するわけ.「よろしくね」とか言ったりしてね。お願いしますアイコンとかね。
坂村 ぼくらも音声に関してはやってますけどね,圧縮してね。でも体に悪いっていうね。
編集部 どうしてですか?
坂村 突然,機械からこの声で,「読んどけよ」とか言われるから(笑).
西 いや、それはいいことですよ。そういうマルチメディアのコミュニケーションは、効率がすごくいい
坂村 電子メールをもっと普通の人に使ってほしいな。ぼくらはあたりまえに使ってるけど,普通の人は使ってないでしょ。インフラができてないから.
西 普通の人が,電子メールを使うようになる環境ができてくると思う。まずファクシミリが変わると思う.ファイルサーバーとファクシミリが一緒になると思うのね,イメージとしてはね。ワイヤレス留守番電話ってあるでしょ.あれをパソコンに置き換えると,子機が無線LANノートパソコン,親機が無線LANファイルサーバーになる。無線LANファイルサーバー兼プリンタ兼ファクシミリね。会社で,部とか課単位で1台親機があって,社員がみんな子機を持ってるわけ。そんなイメージ。


パーソナルコンピュータの仕事は,情報をインテリジェントにチューニングすること
編集部 印刷業界はいますごく人手不足で,編集の仕事も年末とかお盆とかには大騒ぎすることになるわけですが,郵便なんかも人手をすごく使っていて原始的ですよね。
西 郵便というのばね,手紙をデリバリーするものから物をデリバリーするものに変わると思う。つまり,情報はネットワークで流れて,情報でないものを郵便でやりとりするようになる.
坂村 そうなりつつありますよね。物流は残りますけど,デジタル・ファクシミリが普及すれば,高い品質でどこにでも送れますからね。でも,新聞や月刊アスキーをオンラインで送るとなると,さっきのインフラの話になるけど,大変ですよ。月刊アスキーを書店売りをやめて読者の家に送るとなるとヘビーですよ。テキストだけじゃなくて,カラー写真もあるわけだから.
西 そうはならないと思う。それは,テレビが出てきて新聞がなくなったかという話なんですよ.
坂村 そうね。
西 なくならない。電話が出てきて手紙がなくなったかというと,なくならなかった.電子メディアが出てきて,出版がなくなるかというと,なくならないと思う.
坂村 ただね、そういう時代になると,出版物はいまよりずっと奇麗なものにならないとダメだね。紙に印刷して持ってくるに値するものでないと.電子メールで送ればすんじゃうようなのじゃ価値がないね。
編集部 家庭で奇麗に印刷できれば,すべて電子的でいいわけでしょう.
坂村 うん、そうだけどね。
編集部 もっとも,そうなると全部を受け取る必要があるかという問題はありますけどね。
西 そこで,さっき言ったパーソナライズドというコンセプトが出てくると思う。セレクションはローカルでやるということね。
坂村 そうね,さっきのテレビの話と同じだね。
編集部 月刊アスキーも,読者によって,ここは読む必要ないというページもあるかもしれないから(笑)。
西 月刊アスキーは厚さが5センチになってもいいわけ.その中に自分の読みたいページがあるならね。新聞なんか完全にパーソナライズド・メディアだと思う.読みたいところだけ読んでるでしょ.
坂村 そうだね。あんなの毎日全部読む人いないよね。
西 テレビはダメなんですよ。チャンネルは選べても,選ぶための情報もなかったりするしね。だからパーソナライズド・ラジオ,まずこれからくると思う。有線放送ってあるでしょ。あれ440チャンネルあるわけ,440チャンネルあるということは,ほとんどパーソナライズド・ラジオの世界ですよ.
編集部 いまのテレビとかラジオは,みんなに受けようとして番組を作って,その結果誰もその内容に満足していないですね.
坂村 そうそう.
西 だから,こんな感じです。自分の好きな音楽や自分の好きな映画を常にやってるチャンネル.どうするかというと,メモリがあって,自分の欲しい番組をためてるんですよ。でね、そのパーソナライズド・テレビジョンのプラスαとして,インタラクティブな機能を持たせるというのがね,コンピュータ一家に一台ということの一番いいシナリオじゃないかと思う.
坂村 でも、そうなったときに,みんな何見るのかな(笑).結局,自主性がないとパーソナライズできないでしょ.
西 あのね、自主性じゃなくてね,テイストなんですよ.たとえば,食べ物の好みに自主性なんていらないですね.
坂村 ああ、でも普通の人ってさぁ,結局最後に何やっていいのか分からなくなると思うんですよ.TRONハウスでも似たような話があったんです。照明の組み合わせのパターンが16万通りくらいあるんですね。でも16万通りとか言われても、困っちゃうんですよ。だから,将来コンサルタントみたいなのが出てくると思う.たとえば,西和彦が勧める24時間とか(笑)。
西 それいいね。
坂村 そういうのがどんどん出てきて,ソフトウェアじゃなくて,ユースウェアとでもいうのかな,そういうふうな商売が出てくるんじゃないかと思うんだよね。
西 それがパーソナそれ,すごくいい発想だと思うね。ル化してゆくコンピュータの文化というものだと思う.
編集部 画一性を崩すというか,そのユーザー向けに柔軟に対応するというのがパーソナルコンピュータの本来の存在意味ですからね。
西 そう.
坂村 チューニングというのは、ますます重要になってくると思う.
西 あ、チューニングっていい言葉ですね.


日本の独自技術について
西 ここで坂村先生に伺いたいんですけど,コンピュー夕というのは1946年にアメリカで発明されたもので,だからコンピュータはアメリカの機械ですね.で,アメリカに対抗する日本オリジナルなものはTRONだけですね。それで2002年に,日本のテクノロジーはどれぐらいのオリジナリティをもって,どれぐらい世界に貢献できているのか,これを聞きたい.
坂村 難しい質問だなぁ(笑)。ぼくはもちろんオリジナルをやり続けるつもりでいますが,いまの日本の産業界を見てると,どうなっちゃうのかなと思うこともあります。よく言われることですが,松下電器なんかも最初はRCAやフフィリップスと技術提携してましたね。でも,松下が大きくなったのは,そういう外国企業との提携をやめてからなんですね。やっぱりね,日本が生き延びたいなら,独自技術をやらないと絶対だめだと思う。オリジナルをやらない限り産業としてはビッグになりません。そうしないと,ロイヤリティは上がるし,ミノルタやセガの例を見ても分かるように特許料も大変です。だからソフトから何から全部オリジナルでやらないと,産業としては成立しませんよ.
西 それは言えるでしょうね.そうねぇ,
坂村 特に生活に密着したような部分で,何をしてもいちいちロイヤリティがかかってくるようなことじゃ,ダメだと思うな。もっと,オープンにしないと.
西 もうひとつ。日本のコンピュータ教育の展望というか,10年後の日本の大学のコンピュータ・サイエンス学科というのはどんな感じですかね。スタンフォードとか,MITとかに追い付いてますか.
坂村 AT&Tとかに恨みがあるわけじゃないけど,UNIXベースのことをやっている以上,アーキテクチャなどでオリジナリティは出にくいね。
西 UNIXをやる限りUNIXを超えられない…….
坂村 超えるためによく知ってもらいたいなんてヘンなこと言ってる人がいるけど,そういう教育自身を変えないとだめだと思う。それをやってると,アプリケーションのエンジニアは育っても基礎技術のエンジニアは育たないですね。インテルの石の使い方が分かっても、自分たちでオリジナルの石を作れるかというと,できない.コンパチをやってると,エンジニアリング技術は上がりますが,新しいアーキテクチャを作るということはできなくなる.
西 なるほど.
坂村 世間的にはアメリカの規格というのは当面リーダーであり続けるだろうけど、やっぱりいろんなものがあるから面白いのであって,標準化するところを間違ってるんですよ.データ交換の標準化なら大賛成です.インターフェイスも標準化したほうがいいでしょう。でも,OSとかCPUとかはいろんなものがあったほうがいいし,それができるようになってきている.だいいち,そこにエネルギーを注がないと,差が出なくなっちゃう。そうなると,つまんないよね。いろんなものがあったほうがいいし,そのためにぼくの活動があるし,オリジナルをやる人が育ってほしい.
編集部 ただ昔は日本は研究におカネを使わないとか言われてましたが,いまはもう毎日食べてるお米の売り上げより研究費のほうが大きいとか聞いてます.そうなってくると,案外10年後ぐらいに日本がオリジナリティを持ってやってる可能性もあるんじゃないですかね.
坂村 いや、ぜんぜん諦めてはいませんよ。
西 さんも言ったように,世代交替もしてるからね。ただ,今のパソコンの世界からは出てこないことですからね.FM TOWNSなんかも,あそこまでやっておきながら,なぜOSがMS-DOSなのかな。惜しいと思うよ(笑)。
西 デジタル・オーディオとデジタル・ビデオ…….
編集部 ぜんぜん別のことを……(笑).
西 では最後にね,古くて新しい問題ですが,コンピュータに意識を持たせるというようなことね,人工知能やってる人は諦めちゃったけど,どう思われますか。ぼくらはコンピュータはしょせん道具というふうに捉えてて,普段そういうことは考えませんが.
坂村 はっきり言いますが,シリコンで作るのは無理でしょうね。非ノイマン・アーキテクチャであろうが,何を持ってきても絶対にできないと思う。唯一可能性があるのは、ぼくは非常に嫌いなんだけど,遺伝子工学とか生命化学を応用したようなものになる可能性がきわめて高いね。そういう技術とマイクロチップをくっつけたりすると,ヘンなものが出てくる可能性はあると思いますね。ただ,そういうことはやっちゃいけないと思うし、ぼくの趣味としては大嫌いだし,話すのもイヤだけどね(笑)。
('92.5.19)

撮影協力:割烹たちばな

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なんかちょっと違ったよなという発言が多いが検証は後回しにする。

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