SSブログ

未来コンピュータ(月刊ASCII 1992年5月号11) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

この号は前号の続編である「2002 未来コンピュータ」の特集をスクラップする。
ASCII1992(05)f01未来コンピュータ_扉_W520.jpg
 10年後のコンピュータを考えるとき、現在の技術基盤をそのまま引きずっていくのか,それとも,どこかで変革が起こるのかが気になる.1台のコンピュータには,半導体,電池,液晶またはCRT,入力装置,光や磁気の技術,そして,ユーザーに接するソフトウェア技術などなど,さまざまな最新技術が使われている。これらの関連ファクターが時期を等しく進化してこそ,従来の考え方を覆すような機器が誕生するのだ.
 技術はどこまで進むのだろう?今回は,コンピュータのハードウェアの最新技術を紹介しながら,将来,10年後を展望しようという試みである.CPU,駆動源,記憶メディアが,2002年にはどのようになっているのか?

 10年先を予想するのも難しかったと思う。
すべては高速化を目指す
編集部

 コンピュータの心臓部は、いうまでもなく「CPU」だ.パーソナルコンピュータでは,マイクロプロセッサである.半導体の登場により,シリコンベースの集積回路が作られ,単純な四則演算のみの電卓からその歴史は始まる.
 関数演算,そしてプログラム,ソフトウェアが高度な計算を要求するようになると,それに伴ってCPUの計算能力も向上してきた.現在,パーソナルコンピュータ用のCPUとして普及しているインテル社の80x86シリーズをはじめ,モトローラ社の680x0シリーズ,縮小命令技術を用いたRISCチップ,また,炊飯器や自動車などに組み込まれるマイコンチップなど,現代の電気製品のほとんどにはCPUが使われている.携帯コンピュータの次世代のCPUを考えるとき,キーになるのは「高速化・高密度集積・低電力駆動」である.計算が速くなければ役に立たないし、携帯するためには,より小さく,より長時間使いたい.


ASCII1992(05)f02未来コンピュータ_68040_W208.jpg
ASCII1992(05)f02未来コンピュータ_Alpha_W352.jpg
ASCII1992(05)f02未来コンピュータ_日立のチップ_W298.jpg
ASCII1992(05)f02未来コンピュータ_ニューロン回路_W440.jpg
ASCII1992(05)f02未来コンピュータ_Y-MP4E_W365.jpg
ASCII1992(05)f02未来コンピュータ_富士通GaAs_W520.jpg
ASCII1992(05)f02未来コンピュータ_CPUの高速化_W300.jpg
 高速化に限界はないのだろうか?パーソナルコンピュータ用のCPUで,1992年現在,最も高速で汎用性があるのは80486や68040で,30~50MIPS(MIPSは1秒間に10万回の命令を実行する速度)の計算能力を誇る.
 1ランク上のワークステーションになると,モトローラ社の88000や,ヒューレット・パッカード社のPA-RISC,サン社のSPARC,ミップス・コンピュータ社のR3000などRISC勢が強く,100MIPS程度の計算が行なえる.最近の開発状況を見てもRISCが主流で,最高500MIPSの性能を持つRISCチップが,1年以内に市場に投入されるという.
 さらに高速化は進み,4月には日立製作所が,8mm角の1チップで,1000MIPS=1GIPSの演算能力を持つチップを開発したと発表している.まだ研究段階にすぎないのだが,すでに,クレイ社のスーパーコンピュータY-MP4Eを凌駕する性能だ.
 CPUの高性能化はとどまるところをしらない。1971年,世界初のCPU「4004」が登場した.当時の4004の性能は0.07MIPS,それからの20年間でMIPS値は3桁も上がっている.CPUの高速化は美しい対数グラフで表わせるこのグラフをそのまま延長すれば,2002年は1000~5000MIPSの時代になる.
 また,シリコンの信号伝達速度の限界を打ち破るために,ガリウム・ヒ素を用いた半導体,液体ヘリウム温度で動作するジョセフソン素子,高温超伝導体を用いたトランジスタなどの研究が,各メーカーの研究室レベルで積極的に行なわれている.
 これらの超高速動作チップの演算能力は,現状のシリコンベースCPUの限界より1~2桁上になる.


ASCII1992(05)f03未来コンピュータ_広島大学メモリ_W376.jpg
ASCII1992(05)f03未来コンピュータ_ETL-JC1_W376.jpg
ASCII1992(05)f03未来コンピュータ_ニオブ系ジョセフソン素子_W469.jpg
速度の予想は大体当たってた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/MIPS の表を編集引用する。
1999年 Intel Pentium III(600 MHz)が 2,054 MIPS
2000年 AMD Athlon 1.2 GHz)が 3,561 MIPS
2003年 AMD Athlon XP 2500+(1.83 GHz)が 7,527 MIPS
2003年 Pentium 4 Extreme Edition(3.2 GHz)が 9,726 MIPS
高集積には限界がある
 現在,実用レベルのCPUはすべてシリコンベースである.円盤状のシリコンディスクに複雑な回路を焼き込み,それを30~50個にカットして1チップとしている.最新のCPUでは,1チップに100万個以上のトランジスタが集積されている.
 CPUの回路(1000万個以上のトランジスタと,周辺回路)は,数平方mのフィルムに描かれたパターンを,写真技術を応用して,わずか1cm四方のCPUに焼き込んでいる。現在は,この露出に可視光よりも波長の短い紫外線を用いており,チップ上の配線幅も0.3ミクロン程度になりつつある.ここで限界が生じた.
 回路間の空隙があまりにも小さくなると、量子論的影響が働き,トンネル効果によって電子が配線から染み出してしまうのだ。材質や駆動電圧によっても違いはあるが,高速動作を犠牲にしない3ボルトの駆動電圧で,この限界が0.1~0.08ミクロンこれ以上は小さくできない。

 これは外れていた。限界を超え今や5nm(0.005μm)のプロセスルールでAMD Ryzen 7000(Zen 4)が製造されている(https://www.pc-koubou.jp/magazine/71682)。ただ2002年前後なら2001年のプロセスノードは0.18μm、2004年で0.13μm(https://ascii.jp/elem/000/000/867/867649/3/)でまだ上記の限界には達していなかった。
立体的配線の3次元回路チップ
 小さくできないならば,立体的に積み上げようという考えで注目されるのが「3次元回路チップ」である.従来のCPUのほとんどが平面的な回路構成をとっている.そのため,チップ内の各素子間の配線が長くなってしまい,そこを信号が伝達する時間だけロスが生じていた.
 ならば,チップ内部の信号伝達距離をできるだけ短くしようというのが立体配線による3次元回路チップだ.大規模なビルディングにたとえてみれば,各フロアをエレベータで接続するだけではなく,フロア内部の各部屋,各机ごとに上下階との連絡通路があるようなものだ.
 電子の移動距離が短いと,移動時間が短縮されるだけでなく,信号の減衰も減り、消費電力を抑えることにもなる.
 ところが,従来の平面回路のままでも,次世代のシリコンチップの消費電力は膨大なものだ.1チップで30~50ワット,3ボルト駆動ならば10アンペア以上もの大電流が必要になる.これだけの電流を流すとチップ内部では摂氏500~1000度の熱が発生し,回路を瞬間的に破壊する.構造上,熱を逃がしやすい平面回路ならばなんとかなるかもしれない.しかし,立体回路内部の熱は逃げ道がない.
 徹底的な低消費電力化を図るか,専用の冷却装置を付けるか,それとも、高集積をあきらめるか,となる.携帯コンピュータのCPUとしては,3次元チップの実現性はやや危うい.

 10年後(2002年)にはできなかった。さらに20年後の2022年にはインテルがMeteor LakeというCPUでFoverosという3D積層技術を開発した。
ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第682回
Meteor Lakeの性能向上に大きく貢献した3D積層技術Foverosの正体 インテル CPUロードマップ
2023年には
インテルの新世代CPU 「Core Ultra」特集 第3回
結局「Meteor Lake」って何がスゴイの?技術的ポイントを解説
CPUの技術革新はすんなり行かなかった。
新しい機能を求めて
 そこで,従来とはまったく異なる発想が求められる.その回答のひとつが,生物の信号処理の方法に学ぶ「ニューロチップ」や「バイオチップ」の考え方だ.
 学習と思考能力は,コンピュータをただの計算機から脱却させ,より人間に近い存在にするためには不可欠な機能である。ニューロ技術を応用して,人間なみの画像認識や音声認識ができるようになれば,人間がコンピュータを操作する助けになるだろう.また,タンパク質や人工的な有機物質を用いて計算素子を作ることができれば,電気エネルギーに頼らずともコンピュータを動かすことができるようになる.
 各コンピュータメーカーでも将来性のある技術として,生物の神経細胞の研究が行なわれている.たとえば,日本電気では,体長1~5mm程度の微細な生き物である「線虫」を,三洋電機は「ナメクジ」を,三菱|電機は「アメフラシ」の神経系を研究しているという.さらには,有機物質の電気的な特性を利用した各種センサーが実用レベルになりつつああるし,入力電気信号によって出力電気信号をスイッチングすることので|きる人工タンパク質も開発されている.
 バイオ以外にも研究が盛んな分野はある.それは,光の高速伝達特性,低エネルギー特性を利用する光チップである.ある半導体に光を入射すると,半導体内部には光と電子の両方の特性を持つポラリトンという粒子が生まれる.ポラリトンは,電子のように電気的に制御可能で,光のように高速伝達する粒子であり,半導体内部を高速で移動したあと,入射方向と反対側から再び光になって出てくる.
 このポラリトンの動向は,半導体にかける電圧によって左右される.1989年には,日立製作所がガリウム・ヒ素半導体の内部にポラリトンを導入したスイッチ回路の試作に成功した.ポラリトン素子の演算性能は高く,もし,CPUとして実現できるなら,現在のスーパーコンピュータの1万倍以上,10TIPS(=10000GIPS)の世界に突入する.
 2002年,コンピュータのCPUはどうなっているだろうか?夢を追い求めれば生物機能素子や光コンピュータが登場していてもおかしくない未来である.シリコンベースでの開発が延長されるとしても,現状の100倍近い演算性能をパーソナルレベルで利用できることになる.


ASCII1992(05)f04未来コンピュータ_東芝シナプス_W281.jpg
ASCII1992(05)f04未来コンピュータ_三菱ニューロ_W247.jpg
ASCII1992(05)f04未来コンピュータ_ポラリトン粒子_W520.jpg
 結局記事にあるような「従来とはまったく異なる発想」は実際には使われなかった。シリコンを使って技術革新を進めるという地道な努力が成功した。発想を変えることが悪いとは言わないが、まだ努力の余地があるのに他に目を向けても成功しない。努力を続けることが大事だという歴史の教訓であると思う。
駆動源は電池が使われるのか?
編集部

 現在,携帯可能な電子機器のほとんどが,その駆動源に電池を採用している。ノートパソコンのバッテリとしては,ニッカド(ニッケル・カドミウム)電池やニッケル水素電池,コンピュータのタイマICを動かすのにリチウム電池,時計やカメラの露出計には水銀電池やアルカリ電池,ヘッドホンステレオにはマンガン電池という具合だ。中には,電卓のように太陽電池を使うものもある.
 太陽電池は,無尽蔵に存在する光エネルギーを,直接,電気エネルギーに変える変換装置であり,厳密な意味での電池ではない.しかし,すべての電子機器が電気エネルギーによって動いている,といっても過言ではない。10年後のコンピュータも,おそらく電池という形で電気を利用しているはずだ.


ASCII1992(05)f05未来コンピュータ_三洋ニッケル水素電池_W520.jpg
ASCII1992(05)f05未来コンピュータ_コンパックニッケル水素バッテリ_W344.jpg
ASCII1992(05)f05未来コンピュータ_ソニーリチウムイオン電池_W458.jpg
現在はリチウムイオン電池一色になったが過去には他の選択肢もあった。
1次電池と2次電池
 ニッカド電池やアルカリ電池などを大きく分けると2つのグループに分類できる.電池内部に化学的に蓄積されたエネルギーを1回しか取り出せない一次電池と,化学物質の可逆反応を利用し,充電によって何度もエネルギーを取り出せる2次電池である.
 携帯コンピュータには,太陽電池が有効に働かない暗闇でも,使わなければならない場面が必ずある.このような場合は,いったん2次電池に蓄積された電気を利用することになる.また,一次電池には,どこでも互換性のある電池が入手できなければならないという流通や普及の問題がある.将来の携帯コンピュータを考えるなら「2次電池」こそが重要なファクターだ.

ニッカド電池に代わるもの
 1992年現在,市場に出回っている携帯コンピュータの80%程度がニッカド電池を利用している。ほかにもビデオカメラのバッテリなど,短時間/大出力の用途に「ニッカド電池」が多く使われている.ニッカド電池は,いまや2次電池のスタンダードになっているのだ.
 これに代わるものとして,ようやく製品が出回り始めたのが、「ニッケル水素電池」である.ニッケル水素電池は,ニッカド電池と比べても、単位重量当たりの電気蓄積量(エネルギー密度)や,一定時間当たりの出力(出力密度),充電回数(サイクル寿命)はさほど変わらない.最近のニッケル水素電池では,水素吸収金属など構造の改良により,同体積のニッカド電池の1.8倍ほどの電気蓄積が可能になった.しかし,コストも同様にかかってしまう.ニッケル水素電池は,高性能というよりも、カドミウムの代わりに水素を用いるという環境への影響の低さから使われ始めているようだ。
 また,携帯電話機などのバッテリとして「リチウムイオン電池」が注目されている.現状の開発状況を見ても、ニッカド電池と同じ重量で約1.6倍の電気が蓄積でき,放置したときに自己放電してしまうロスも少ない。単三型のパッケージに封入しても,ニッカド電池やニッケル水素電池などの約2倍(3ボルト程度)の電圧が取り出せ,繰り返し充電して使える回数も1.5倍ほどになる.ただし,過充電には極端に弱いため,過去の製品の中には,最悪、端子からリチウムが析出して発火するものもあった.
 現在,過充電防止の回路設計や,材質の見直しなどにより安全性を確保した製品が開発されつつある。3年後には,携帯コンピュータの20%がリチウムイオン電池を採用するというデータもあり,将来の2次電池として有望視されている。


ASCII1992(05)f06未来コンピュータ_ニッカド電池とニッケル水素電池の性能比_W473.jpg
 予測は当たっていた。リチウムイオン電池が主流となった。記事にあるようにリチウムイオン電池は発火する事故が続いていた。危険だから安全対策をして利用している。それでも事故は無くならないが。
2002年,電気は光から取り出す
 さて,近未来ではなく遠未来ともいえる10年後,電池はどのようなものになっているのだろうか?
 太陽電池の光/電気変換効率も年々向上している。最近のアモルファス太陽電池では,太陽光線のエネルギーの10%近くを電気として取り出すことができるという。具体的に数値で示せば,フィルム状の太陽電池シート1g当たり0.5ワットの電力を取り出せるという.これだけの出力があれば,携帯コンピュータを常時動かすだけの駆動源として十分な性能だ.
 また太陽電池以外でも,光エネルギーを有効に利用しようという研究は盛んだ。神奈川大学工学部では,光エネルギーを分子のひずみとして蓄積し,熱エネルギーとして取り出すことができるプラスチックを開発した.また,電子技術総合研究所では,有機分子を膜状に多層構造にしたLB膜(Langmuir-Blodgett film)で,タンパク質様の太陽電池を作り出そうとしている.
 植物細胞の光合成の過程で発生する電子を人為的にかすめ取り,電気として利用しようという研究もある.2枚のガラス板で,藻類細胞の葉緑素をサンドイッチする.ガラス板に導電物質をコーティングしておくとそこに電気が流れるのだ.現在の出力はまだまだ実用に適さないが,将来は分からない.
 さらには,光を当てることで電気を取り出すのではなく,水を酸素と水素に分解するという半導体もある.光で直接分解するほうが,太陽電池→電気電気分解よりも効率がいいのだ.携帯コンピュータでこの技術を利用するのは難しいが,水素もクリーンなエネルギー源である。
 地球資源や環境を考えても、光や水素の利用は最も将来性がある。現在は研究段階にある技術でも,どこかでブレイクスルーが起こる可能性はある.将来の地図は光利用一色になるかもしれない.


ASCII1992(05)f06未来コンピュータ_ほくさんソーラーカー_W520.jpg
今から10年後の記憶メディアは何か?
鹿野 司

 この問いにドラスティックに答えるなら,「ソリッドに収束する」となる.
 ソリッドとは固体,つまり、シリコンメモリのことだ.既存の記憶メディアである,磁気メディア(フロッピーディスクやハードディスク),光磁気ディスク,光ディスクは、CDがアナログレコードを駆逐したように消えていくだろう.
 シリコンメモリの優位点はいくつかある.モーターのような機械部分を排除し,すべての処理を電気的に行なうことで,信頼性/耐久性を向上させる.また,2次元にしか情報を書き込めない光メディアよりも、体積当たりの記憶情報量を高密度にすることができる.


ASCII1992(05)f07未来コンピュータ_インテルフラッシュメモリ_W461.jpg
この予測は当たっていた。
より小さく、より大容量に
 携帯用の電子機器の記憶メディアを考れば耐久性もさることながら,そのメディアにどれだけの情報が記憶できるか,も問題になる.
 現在のシリコンメモリの状況を見てみよう.量産チップのほとんどは1MbitDRAMだが,ノートパソコンなどでは4MbitDRAMも採用されている.1年前には試作レベルだった16MbitDRAMもようやく量産ラインに乗ろうとしており,ついには,64MbitDRAMも開発されるようになった.
 2000年ごろには,シリコン素子の配線回路の線幅は0.1ミクロン以下になり,チップ1個当たりのトランジスタ数は10億個になるといわれている.4mm四方程度のシリコンチップが1Gbit(125Mbytes)もの容量になる時代だ.もちろん,そこに至るためには越えなければならない技術的なハードルもある.また、研究開発の現場はかなり楽観的だが,経済的に見合わないということで,開発を断念するメーカーもあるという.
 過去30年間のシリコンメモリの高集積化は2年ごとに倍々ペースで進んできた.このまま将来もペースダウンがないのなら,2000年には,まさにGbitの時代がやってくるはずだ.
 たとえば,光ディスクや光磁気ディスクには,最小記憶面積に限界がある.可視光の波長は0.77~0.38ミクロンだが,実際に使われる半導体レーザの波長は,これよりも長い赤外線だからだ.光を使う限り,1bitの情報を記録するには1ミクロン程度の記録面積が必要になる.これは,コンマ1ミクロンを単位に考えるシリコンメモリに比べて,10倍も巨大な面積である.技術的には,より短波長の青色レーザを作り出すことも可能だ.また,光の波長より細い光ファイバから量子効果によって光を染み出させる光STMのような技術を使えば,さらに微細記録もできるだろう.
 しかし,そのためには記録メディアを極限までファインにしなくてはならない。こうなると,パーソナルユースのメンテナンスにおいて,現実性が乏しい.磁気メディアにも同様の問題がある.


ASCII1992(05)f07未来コンピュータ_日立DRAM_W502.jpg
この予測は2002年のアスキーをスクラップして検証しようと思う。
大量生産によりコストも下がる
 シリコンメモリが抱える,現時点での最大の問題は,コストが高いということだ.しかし,たとえギガチップであろうとも、大量生産によるコストダウンは,ほかの記憶メディアよりも効果的だ.
 というのも、ギガチップにはコンピュータ用の外部記憶機器以外にも、|従来とは根本的に異なる巨大なマーケットが存在するからだ。たとえば,音楽用CDを置き換える可能性を考えてみよう.現在の12cmCDに書き込まれている情報は,ステレオ2ch×16bit×44.1kHz=1.4Mbit/秒である.これが最長74分録音できるので,音楽というアナログデータを単純にデジタルに置き換えれば,CD1枚に,およそ6Gbit(750Mbytes)の情報が記録できることになる.
 しかも、データを圧縮しないで6Gbitである。たとえば既存のCDよりも若干の音質低下はあるものの、実用上ほとんど問題がないというPASC方式(フィリップス社と松下電器の共同開発による,デジタルコンパクトカセット用)によってデータを圧縮すれば,情報量がCDの1/4になるし,ATRAC方式(ソニーの2.5インチ光磁気ディスク用)では,音楽情報を1/5に圧縮できる.
 つまり、音楽ならば,1枚のCDを1個のギガチップで置き換えることができるわけだ.音楽という需要だけに限っても,コンピュータ市場の100~1000倍の需要が見込める。1個のギガチップ当たりのコストは現在のCD1枚の原価、つまり数百円のオーダーに近づくはずだ。このチップをクレジットカードほどの薄さ大きさを持ったカードに実装したミュージックカードは,再生機構が単純で、また,カードにCPUやアンプを仕込めば,カード1枚で音楽再生が可能になる.音楽|プレーヤという機器の概念も怪しくなるのだ。これだけのメリットを思|えば、既存の記録メディアが生き残る可能性がきわめて乏しいことが分かるだろう.
では、3年後は?
 10年という長期間には、記憶メディアに関するパラダイム変化が起こるかもしれない.現在、物質の極小単位である原子を加工して記憶メディアを作ろうとしたり、脳細胞のような生物/タンパク質を利用した記憶組織の研究も行なわれている.これらは、いつ実用になるのだろうか……?10年後の予測は、現状の技術開発スパンを延長して考えるのが妥当だ.少なくとも、確信を持って推測できるのは、2~3年後の世界かもしれない。
 1992年現在、磁気メディアや光メディアの状況はまだまだ元気がある.多くのノートパソコンが内蔵するようになったハードディスクも,2.5インチの次はカードサイズの面積で40Mbytes程度の容量を誇る1.8インチHDDが登場する.光磁気メディアも3.5インチが立ち上がったばかりで、次世代の2.5インチ光磁気ディスクの仕様も発表された.
 しかし、シリコンメモリも負けてはいない。シリコンと磁気メディアのコストは,これから5~7年のうちに逆転するといわれている.ギガチップの応用範囲は広い。無圧縮でもハイビジョン程度の静止画を10枚以上記録でき,写真フィルムさえをも置き換える可能性があるのだ.


ASCII1992(05)f07未来コンピュータ_日本電子原子レベル加工_W382.jpg
ASCII1992(05)f07未来コンピュータ_日立世界最小文字_W381.jpg
ASCII1992(05)f07未来コンピュータ_磁気メディア技術革新_W487.jpg
 予測通り、シリコンメモリの技術は凄まじいものだった。mp3プレイヤーの登場から、SDカードの容量がMからGへと増大した。128Gとから256GとかのSDカードを使っている未来など当時は想像できなかった。いったいそこに何を保存するのか、その「何を」が想像できなかった。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:パソコン・インターネット