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80286を386SXに換装できないか(月刊ASCII 1991年11月号6) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

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 386SXはアドレスバスが24bitでデータバスが16bitなので80286と置き換えることができそうですが,実際はどうでしょうか。また置き換えた場合,本体に影響を及ぼすことがあるのでしょうか(ピン配列も教えていただけますか)。僕は15歳の高校1年生ですが,ハンダ付けとか電子工作は得意なほうで、使っている機種はPC-286VSです.
 ここ数年のパーソナルコンピュータの進歩は以前にも増してめざましく,386SXや386DXを用いた製品が中核をなすようになりつつあります。さらに,MS-Windows3.0のような386以上のCPUでの動作を前提にしたソフトの出現がこうした386以上の製品の普及をさらに加速していくことでしょう.とはいえ,386を用いた製品はまだまだ高価で,そう簡単に買い替えたりすることはできないと思います.となれば,80286マシンのユーザーがなんとかして自分の持っているマシンのCPUを386にできないものかと考えるのは当然のことでしょう.幸いなことに386SXという386DXの低コスト版のCPUがアドレスバス24bit外部データバス16bitという80286と同じ仕様を持っています。これなら置き換えができるのではないかと誰もが思うところです.
 結論から先に言えば,80286を386SXに置き換えることは可能です。実際サードパーティからPC-9801シリーズ用に80286を386SXに置き換える製品が発売されています*1.PC-9801ユーザーであればこの製品を用いれば286から386SXに置き換えることが可能でしょう.しかし,しろうとが386SXのチップを購入して自力で80286から386SXに置き換えることは困難を極めると言わざるを得ません.
 それでは386SXに置き換える場合の問題点について述べましょう。まず第一はパッケージの形状の違いです.386SXの形状は一般に写真1のようなQFP(Quad Flat Package)と呼ばれるタイプで100本のピンがありますが,80286はPGA(Pin Grid Array)もしくはLCC(Leaded Chip Carrier)と呼ばれる写真2のタイプのものでピン数は68本です(図2)つまり,80286をソケットから外し,単純にそこへ386SXを取り付けることはできないわけです.当然のことながらLSIのピンに対する信号線の割り付けも異なります.そのため,386SXから出ているピンを80286のソケットへ接続するためのピンの変換器が必要となります。自作で,ケーブルを1本1本配線してもよいのですが,LSIのピンの間隔はQFPで0.5~0.8mm,PGAで1/10インチ,LCCでは1/20インチ(約1.27mm)と非常に狭く,ハンダ付けは困難を極めます。また,自作で配線の引き回しを行なった場合,CPUと外部回路との信号のやりとりに悪影響を及ぼすことも考えられます。
 第二に80286と386SXではLSIのピンに出ている信号が一部異なります(表1).このため、なんらかの回路を付加して,386SXから出ている信号から80286と同じ機能の信号を作る必要があります。アドレスバスとバイト選択のための信号は一部名前が異なりますが,80286におけるA0は386SXにおけるBLEに相当するのでそれを使えば差し支えないでしょうし,386SXのバスの動作モードを決めるNAや80286のコンデンサを付けるCAPは相互に関係しませんから簡単な処理ですむでしょう.コプロセッサ用の信号もコプロセッサを使わなければ関係ありません.
 しかし,バスのコントロール用信号と一部割り込みに関する信号については事はそう簡単ではありません。386SXと80286のそれぞれのコントロール信号の組み合わせを,1対1で対応させなければならないからです(表2).
 さらに信号の時間的な変化(タイミング)も合わせてやらなければなりません。ということは信号変換の回路が規模の大きなものになり,自作は難しくなります。さらに自作するにしても,タイミングの問題などから,汎用のロジックICで組むことはかなり難しくなりそうです。実際にはPLD(プログラマブルジック・デバイス)*2を用いないと無理かもしれません。こうなってくると,もはやしろうとが工作してできる改造の域を超えていると思われます.
 以上のように80286を386SXに置き換える際に問題となる点について簡単に説明してみましたが,まだほかにも問題が発生するかもしれません。いずれにせよ自力で置き換えをしようとするならば,マイコン・システムが設計できるくらいの知識と技術が必要になるのではないでしょうか.
 さて,仮に置き換えができたとして,パーソナルコンピュータ本体に悪影響があるかどうかですが,これは正しく信号の変換(タイミング)が行なわれ,また正しく接続が行なわれているかぎり,ハードウェア的には問題はないでしょう.しかし、ソフトウェア的には実行速度の変化から若干影響が出るかもしれません。たとえばソフトウェアがタイミングをとるためにウェイトを入れているような場合などにです.
 PC-286VSユーザーとのことで、初めに紹介したPC-9801シリーズ用の80286を386SXと置き換える製品は使えないと思います.また以上述べたとおり,80286から386SXへの置き換えには高度な知識と技 術が必要とされるので,残念ですが改造はお勧めできません。
 コンピュータをどのような目的に使われるのか分からないのではっきりしたお答えはできないのですが,PC-286VS日本語ワープロやプログラミングの目的で使をうならメモリやHDDを増設することで当分役に立つはずです.MS-Windows3.0については,まだアプリケーションが揃っていない状況ですから,そう急いでマシンを買い替える必要はないと思います.
 それでも,現在お使いのマシンで,どうしても386以上のCPUを使いたいという場合は,CPUを乗せ換えるのではなく,京都マイコンなどから発売されている拡張スロットを利用するCPUボードを利用するしかないでしょう   (柴田)

注)
*1 エービーエム(株)の「386SXGT-MARKII」対応機種はPC-9801VX/UX/RX/EX,PC-98XLのみで,エプソン製品には対応していないということです.価格は9万8000円
*2 ユーザーが論理機能を書き込むことができるロジックIC.
参考・引用文献
「特集*CPUボードの先進的設計法」,トランジス夕技術,1989年11月号,CQ出版社
80286 High Performance Microprocessor with Memory Management & Protection Data Sheet,Intel 386SX Microprocessor Data Sheet,Intel

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 たまにあるアスキーのこういう硬派記事が好きだった。それに「MS-Windows3.0については,まだアプリケーションが揃っていない状況ですから,そう急いでマシンを買い替える必要はないと思います.」にASCIIの良心を感じる。


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