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近未来商品解剖学 超小型GPS(月刊ASCII 1991年9月号8) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

一般に使えるGPSが出たのはこの頃だった。
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 その昔,陸が見えない大洋を渡る船は「天文航法」というもので位置を測っていた.これは,時計と暦,六分儀を使った方法で、簡単にいうと太陽が最も高くなる(南中時の)角度を測って緯度を知り,その時刻で経度を知るというものだ。17~18世紀に海外覇権を争ったヨーロッパの国々ではこの測位技術にみがきをかけ,正確な天文暦の作成を競ったという。今でも標準時として有名なグリニッジ天文台も,暦を作るためチャールズII世が国運をかけて設置したともいうし,正確な時刻を刻む時計には懸賞金がかけられた。
 大戦後には,最先端の電波技術を使って航空機の測位システムが開発され,やがて人工衛星の時代がやってきた。衛星の実用での最初の目的も,航法や測位の精度向上であったという。人間は位置を知るために大きな労力をはたいてきたわけだ。
 そして,GPSの登場である.GlobalPositioningSystemの略で、「汎地球測位システム」などと訳されている.地球上ならどこでも精密な位置を出せるように考えられたシステムだ。始まりは、軍事目的からで,軍艦や戦闘機の正確な位置を即時に割り出すために考えられた.開発したのは米国の国防総省いわゆるペンタゴンで,日本でも研究所レベルでは'85年頃から話題となり,地震予知のための地殻変動や測量用としてプロが使い始めた。
 いったいどうやって位置を出すのかというと,専用の人工衛星から発射される電波を使う。従来はサテナビという米海軍が開発したシステムを利用していたが,GPSはそれを発展させたものだ。
 ここで紹介するPYXISは,GPSによる携帯型の測位マシンである。ボタンを押せば、即座に現在の経度と緯度が表示される.590gという従来マシンの半分の重さで,かつ電池で駆動するので,海や山といった地図を相手にする場所で威力を発揮する(写真1)。価格も15万8000円と従来機の半額以下となり,海や山,ドライブのお供として個人で利用してもらおうという製品である.'87年にMotorolaが発売した受信器は500万円したというが,それが今や15万円で手に入るわけである。


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複数点との距離から3次元位置を出す
 現在動作している「GPS衛星」は15個である。図1のように,6つの円形軌道にそれぞれ4個ずつの衛星が回り,合計24個にする計画だ。

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 軌道は地上約2万kmで,ひとつの衛星が1周するのに約12時間かかる.今はやりの衛星放送用の衛星は高度約3万6000km,静止衛星だから24時間で1周するわけで,GPS衛星はそれよりも低い軌道を高速で回っていることになる.
 衛星の重量は約850kgで太陽パネルを持ち、その幅は約6mある。軌道の補正や精度の調整のため,世界に分布した5つの基地からコントロールされている.では,衛星は何を積んでいるのかというと、ずばり「原子時計」である。そして,準マイクロ波を使い,自分たちの軌道情報とともに,非常に正確な「時報」を送信している.軌道データは50bpsで,時刻は約1Mbpsという速度で,精度は0.1マイクロ秒(1000万分の1秒)という数字だ.
 PYXISのようなGPSの受信装置は,受信した時報と本当の時刻とのズレを計算し,衛星との距離を計算する.電波が地上に到達するまでにかかった時間に電波の速度をかけるのである.
 さて、ひとつの衛星との距離が分かっても自分の位置は分からない.そこで複数の衛星からの距離を測って,自分の位置を計算することになる.
 幾何学で考えれば分かるが,空中のある1点から等距離の点の集合というと.それは球面である。2つの球面の交点の集合は円となる。さらにもうひとつ加わって、3つの球面の交わりで1点に絞られる(図2).結局4つの衛星からの信号を同時に受信して、経度,緯度,高度,時刻という4つの「解」を求めることができるのである.


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 さらにおまけとして,移動している場合はドップラー効果によって移動速度と,その方向も瞬間的に測定する.
 現在,GPS衛星からは,C/AコードとPコードという2種類の信号が発信されている。このうちPコードのほうは軍事用として一般には公開されておらず,民間が使えるのはC/Aコードのほうだ。これを使うと,誤差は±30mで測定できるという.緯度に直すと約1秒にあたる。これは,C/Aコードそのものの精度のためで,高価な受信機でも,1点での観測ではこれ以上の精度は出ないという.
 ただし、冒頭で述べたように,GPS計画はまだ進行中であり,現在の衛星の数では24時間どこででも計測できるまでには足りない(18個は必要).

PYXISのしくみ
 PYXISは,こういった高度な計測と計算をどう処理しているのだろうか.
 実物を見ると上の白い部分がアンテナで,下の四角い部分がコンピュータだと思ってしまうが,そうではない。白くて丸い部分にはもちろんアンテナも入っているが,電波を受信して位置を計算するところまでが入っている(写真2).


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 アンテナの中の基板には,GPSのために開発したという専用のDSP(デジタルシグナルプロセッサ)と,CPU(Z80),32Kbytesのメモリ,そしてプログラムを収めた64KbytesのROMが入っている.ここで,受信した4つの電波を並列処理してデジタル信号に変換し,計算して結果を出してしまう(図3).

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 結果は白いケーブルを使って液晶の付いた四角い操作部に送られ、各種演算を行なって表示される.補正が必要なのは,GPSが地球をきれいな楕円体であると仮定して設計されているためだ。地域ごとに,その楕円体との差を計算し,地図や海図と合うような経緯度を表示する必要があるからである。ちなみに,この楕円体による座標系は「WGS-84」と呼ばれ,長半径637万8137m,逆偏平率298.25…というものだ.
 さて、高度のほうも、この楕円体の表面を0として計算している.そのため,通常使われている「海抜何m」という数字より大きなものとなる。通常の平均海水面と楕円体との差は地域によって細かく異なるため,PYXISでは換算はしない。登山やグライダーで利用される場合は,地図上の基準点でその差を知っておく必要がある.

近未来パソコンに内蔵してほしい
 さて,どんな感じなのかと、編集部で電源を入れてみた。残念ながら電波は部屋の中までは届かないようで、衛星がとらえらえない(そんなときのため,アンテナ部を取り外して外に設置できるよう,延長ケーブルが付属している)。
 そこで,屋上に出て計測してみたすると,北緯35度39分26.8秒,東経139度43分04.2秒という.そんな数字を急にいわれても,合っているのかどうか分からない。立ち止まったまま受信していると,0.1秒の桁がちらちら変化し,たまに1秒の桁が変わる。確かに誤差は1秒以下のようだ。さっそく1万分の1の地形図で,当ビルの経緯度を計算してみたら,当然のようだが,1秒の単位で合っていた.PYXISが普及したら,経緯度のマス目が細かく入った地図が必要とされるかもしれない.
 PYXISには,これ以外に,観測点を記憶したり,設定した目的までの距離や方位を出すといった機能もある.ビルの谷間では計測できなかったし、衛星の数がまだ足りないので位置が悪いと計測できない時間帯もある。そんなときには,高度を計算せず,3個の衛星で経緯度と時刻のみを計測するので,1日のうちでまったく位置が出せないのは1時間ほどである.
 速度の精度は0.56km/hというから,かなり正確な速度計にもなるし,表示は1秒間隔だが,狂いのない時計としても利用できる.

 今回,PYXISとともに,汎用の部品としてアンテナ部がOEMで発売されるという。インターフェイスはRS-232Cというからコンピュータと簡単に繋がる。パイオニアがすでに車載専用としてCD-ROMの地図と合体した製品を出しているが,今後,このユニットを使った製品が出てくるだろう.できれば,ソニーからGPS内蔵のパームトップやノートパソコンを出してほしい。電源を入れれば,今地図上のどこにいるのかが表示されるというのは、方向音痴にはありがたいのだが.
 参考文献『新訂版GPS』(社)日本測量協会


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GPSは今ではカーナビで当たり前に使えかなり正確に位置を教えてくれる。凄い時代になったものだ。

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