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宇宙の旅第11話星の色(月刊ASCII 1991年12月号6) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

「パソコンで体験する天文学」の「第11話 星の色」をスクラップする。

星の色
東京都立大学 理学部
岡田 理佳

しのぶれど……
 色のつく物といったら,なにを思い浮かべるだろうか?色鉛筆,色紙などの「色」は物の色,一般的な「色」の意味だ.しかし,声色,色めく,色男といえば,物の状態や様子を表わす言葉として使われる。たとえば平兼盛は,百人一首の中で,“忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の間ふまで”と詠っている。この場合の色は「顔色」のことだ。恋しいと思う気持ちを隠してきたのに,『あんた,なに考えてるの?ちょっとへんよ!』と人に聞かれるほど,とうとう顔色にまで出てしまった……と.

 ところで,都会の夜空にもいくつかの星が見えるが,星の色はほとんど問題にされない。しかし,星にも赤や黄や青といった色の違いがある.
 では、この星の色はどうして違うのだろうか?人間の顔色が,赤くなったり,青くなったりするのとは違い,星の色にはなにかありそうだ(注3).とりあえず,中世のお話から始めよう.

注3:宇宙空間における太陽の色は白だ。朝焼けやタ焼けのとき、太陽が赤く見えるのは地球の大気の影響で、太陽が赤く色を変えるわけではない.
錬金術の教え
 ときは中世,ヨーロッパでは,錬金術師たちが「金(きん)」を合成しようと悪戦苦闘していた.彼らは,さまざまな金属を炉で融かし,混ぜ合わせる比率や温度を変化させることで,いつかは「金」が生まれると信じていた.
 錬金術には,炉をどれだけ熱すると,どの金属が融ける,という知識が必要である.しかし当時には,まだ温度計というものはなく,温度を直接「測る」ことができなかった。錬金術師たちは,さまざまな経験を積んだ後,炉の「色」が金属の温度を表わしていることに気が付いた。つまり、温度が高くなるにつれ,炉の色が赤からオレンジ色,オレンジ色から黄色と変化することを知ったのだ。残念ながら錬金術の夢は破れてしまったが「夢破れて色温度(いろおんど)残る」.

色はいろいろ
 そもそも色とはなんだろうか?人は経験的にりんごは赤,みかんはオレンジ,レモンは黄色と知っているが,これらが暗闇の中に置かれていたとしたら,その色どころか物も見えない。色を知るには、その物を照らす光が必要で,その物が光を反射しなければならないのだ.光があたっていても,それをすべて吸収してしまうような物があったら,それは黒く見えるだろう(注4).人は,その物の色を見ているのではなく,物が反射する光の違いを見ているのだ。
注4:黒も色であるというならば,それでも構わないが,とにかく,このように光を吸収してしまうような仮想の物体を,物理では「黒体」と呼んでいる。
 人間の目に見える光(可視光)の波長範囲は,およそ380~780ナノメートルである.もし,単一の波長の光が目に入るとしたら,「長い波長」の光ほど赤く,「短い波長」の光ほど青く見える.
 人間が色を感じるしくみは,日頃お世話になっているコンピュータのカラーディスプレイやカラーテレビでの色の表現方法で理解できるだろう。これらディスプレイの画面は,基本的に赤(R),緑(G),青(B)の3色を用い,その色を組み合わせて多彩な色を表現している.
 実は、人間の目にも同じようなしくみが働いている。人間の目には,この3色(RGB)に対応する3種類の視細胞(赤錘体,緑錘体,青錘体)があり、各々の視細胞は,図4のように,赤の波長域にピークを持つX感度,緑の波長域にピークを持つY感度,青の波長域にピークを持つZ感度を持っている。目に入ったある光は(図5a),3種類の視細胞がそれぞれ分担して感じることになる.感度曲線(図5b)に応じて反応する,赤錘体,緑錘体,青錘体の各々からは,光の強さに対応する刺激信号が発せられる(図5c).人間の目の網膜は,それぞれの刺激値の比率や組み合わせを計算して,色を感じているのだ。


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 これから分かるとおり,異なる視感度曲線を持つ生物が見る色は,人間の見る色とは異なっているハズだ。霊長類以外のほとんどのほ乳動物には視細胞が1種類しかなく,犬や猫は色を見分けられないという.
星は黒い?
 色は、光を出す(あるいは反射する)物体と,それを見る人の視感度で決定される。星の場合も例外ではなく,色はその星が出す光のスペクトル(注5)によって決定される。このスペクトルは,星の温度と深い関係にある。まず,一般的な光のスペクトルと温度の関係を,簡単なモデルを用いて説明しよう.
注5:ある光の中に含まれる,各波長の光の強さの関係は「スペクトル」という言葉で言い表わされている.
 ある物体の外側の表面が,すべての波長にわたって光を吸収し,いっさい反射(放射)をしない,すなわち黒体であると考えてみよう.そして,この黒体は,中が空洞であるとする。この物体を温めると、物体の内面からは,物体の熱エネルギーに対応する光が放射される.
 外側の表面は黒体なのだから、物体の外には光(電磁波)としてのエネルギーは出ていかない.しかし,物体の内面は黒体ではない.光の放射とともに吸収をも行なうので、時間がたてば物体とその空洞内は等しい温度になるだろう(熱平衡状態).熱平衡状態にある物体の内面では,熱エネルギーから変換された光の放射と,内面でのエネルギー吸収量が釣り合っていることになる.
 物体の空洞内を想像してみよう.熱エネルギーから変換された光が放射されているのだから、当然,なにかの色が見えている。このような黒体内の熱平衡状態での放射を「黒体放射」という.
 星もこの黒体の状態にだいたい一致する。星の内部は空洞ではないが,光の放射と吸収がひんぱんに行なわれ、星全体でみると全体的放射と吸収が釣り合った状態にあるからだ。その証拠に,太陽表面から出た光はたったの8分で地球に到着するのに,太陽の中心から出た光が表面に達するまでには,1000万年もかかる.太陽の中では大量の物質が光を吸収するため、ほとんどの光が太陽の中に閉じ込 められていることになる.
 私たちにとってはまぶしい太陽も,その内部のエネルギーに比べれば真っ黒に等しいということだろうか.
星の色
 黒体の放射スペクトルについては,19世紀末,ドイツの理論物理学者プランクによって厳密に求められ,黒体放射のスペクトルと温度の関係が,さらに,後に星のスペクトルと温度の関係が明らかにされた。黒体放射のスペクトルを,特にプランクの名をとり「プランク分布」と呼ぶ.プランク分布は,温度が高くなるにつれ強度も大きくなるが,同時にピークの位置も波長の短いほうにずれていく.可視光域で考えると,温度が上がるとピークは,長い波長の赤から,オレンジ,黄,緑,短い波長の青へと変化していくことになる.
 星の色がどう見えるかは,もう分かるだろう.星の温度を決め,プランクの分布関数によって星の光スペクトルを求め,これと人の視感度曲線を計算すると,人間の目で見た「星の色」が再現される.

星のスペクトル分類
 夜空に見える星の本格的な分類が行なわれたのは,19世紀末になってからである。1860年,イタリアのセッキは,特徴的な吸収線の有無やスペクトルなどにより,約4000個の星を4つのタイプに分類した.その後,1890年には,北半球の空の8等よりも明るい星1万351個が分類された.ここでは,星のスペクトルを単純なものから,A,B,Cの順でQまで(Jを除く)16タイプに整理している.
 さらに,星の明るさと色を基本にした「ヘルツシュプルングーラッセル図」が作られ,星の色は温度の順に整理された.O-B-A-F-G-K-Mと定められた星のスペクトル型がそれである(注6).それぞれのタイプの星の温度は,表1のようになっている.

注6:B-A-F-G-K-Mの順番を覚えるには,「Oh,Beautiful A Fine Girl, Kiss Me」とでもすればいい……

ASCII1991(12)f01宇宙注表1_W189.jpg
プログラムの実行
 このプログラムは星の温度を与えてやり,その温度を持つ星が,どのような色に見えるかをシミュレートするものだ。星の表面温度は,有名な明るい「星の名前」で指定するのと,0,B,A…などの「星のスペクトル型」で指定する方法を用意した.また,スペクトル型の指定では,任意の表面温度を入力できるようになっている.
 星の表面温度が与えられると,星が画面上に描き出される。画面の右上には,その星のプランク分布(白)と人間の視感度関数(赤,緑,青)が描かれ,右下には,プランク分布と視感度関数を合成したものが表示される.
 最後に,グラフで赤,緑,青の線で囲まれたそれぞれの領域の面積を計算し、RGBの各階調に変換したものが,星の色として画面左に表示される.

 最後に,どんな温度を入力しても緑色の星はできない。緑色の波長はおおよそ530ナノメートル前後で,そのあたりにプランク分布のピークがあるのは表面温度が約5600度(G型)の星だ。どうして緑にならないのか画面を見ながら考えてみてほしい。


ASCII1991(12)f06宇宙画面2_W381.jpg

注:7絶対温度[kT]の黒体中で放射される波長を[λ]として,その波長での光の強度[B]をプランク分布の式で表わすと……,
B = 2hc 2 λ 5 × 1 exp ( hc/ λ k T ) -1 となる.[c]は光速,[h]はプランク定数で,プログラム中では,RGBの比を必要とするため,光の強度[B]を[2hc2]で割ったものを使用している.


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